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112話 怪しい2階 1


「それで……本日は我のオイゲン商会カタコンベ直営店の開店記念日なわけだが。あなた方はいきなり、敵情視察でもしに来たのかな?」


 うわ……いきなり敵情視察と思われてるのが厄介だわ。この後、何を言っても揚げ足を取られそうだし。


「私とアンジェリーナはただの冒険者だ。むしろ客として訪れているよ」


 おおっと、ネプトさんの単純だけど見事な切り返しだった。単純な返答というのは時に、考え込んだ言葉よりもはるかに強かったりするし。何よりも事実だしね。


「なるほど、確かにそうだったな。我としても見過ごしていた。では……敵情視察はそちらの錬金術士の2名だけになるのかな?」


「……」


 そう言いながら、私とシスマを見つめるオイゲン会長。正直、視線を合わすのは御免だったけど、逸らしてしまうと認めているようなものなので、なんとかそのまま視線を合わせ続けた。私はこういう、化かし合いというか、言葉遊びからの腹の探り合いが得意ではなかった。


 そう、きっと私は素直な女の子だから! とか心の中で叫んでみたりしていると……。


「まあ、一通り見たことだし、今日はこのくらいで失礼しようかね。どうかね、アンジェリーナ?」


「ええ、いいと思うわ」


「おやおや、もうお帰りですか。大したもてなしも出来ずに申し訳ない」


「トロメア・オイゲン会長にもてなしてもらう理由がないよ。他のお客さん方をせいぜいもてなしたらどうかね?」


「ははは、違いない」


 そこまででネプトさんと、オイゲン会長の会話はストップした。そのままイノセントの二人は店の入り口に向かって歩いて行く。私とシスマも彼らの後を追うことにした……。



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 それから、私達は「エンゲージ」のお店まで戻って来て、奥の調合室で話をすることにした。ライハットさん達は何事かという表情をしていたけれど、そのまま私達は通り過ぎた形だ。


「さて、アイラ君。聞いてもいいかね?」


「はい、なんでしょうか?」


「オイゲン商会の直営店の品揃えはどうだったかね? アイラ君の店に影響を及ぼしそうかな?」


「そうですね……」


 オイゲン商会で売っている物は日用雑貨や服なんかもある。薬関係だけではないのでなんとも言えないけど……。


「少なくとも、今日見た品揃えだけで言えば、私の店の売り上げを脅かすことはないと思います」


「ほう、大した自信だ。流石は奇跡の錬金術士だ」


 ネプトさんは楽しそうにしていたけれど、私は事実を述べただけだ。謙遜でもなく過信でもなく、ただの事実を。


「確かに、現在カタコンベには有名な冒険者達が集結している。彼らにエリクサー等のアイテムを売って行くだけで、ほぼ安泰といえる稼ぎを積むことができるだろうね」


 流石にネプトさんは状況の整理に長けている。私が言うまでもなく、そのくらいのことは看破していたのね。まあ、そのくらいの頭の回転はなくちゃ、冒険者ランキング1位でやっていけないのかもしれない。カミーユ達が、すぐに追い付いて来そうだし。シグルドさんは……あんまり、順位には興味なさそうだけど。


「イノセントの方々もお得意様になっていただければ、さらに安泰なんですけどね?」


「うむ、私達にとってもアイラ君の店はぜひとも通いたいと思っている。君の稼ぎに貢献させてもらうつもりだ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 私はとびっきりの笑顔を、ネプトさんに返した。あれ、ちょっとだけネプトさんが照れているような……?


「いやいや、まいったね……これは。アイラ君は魔性の女と呼ばれないように注意しないといけないかもしれない」


「え? え? どういうことですか……?」


 魔性の女というカテゴリなら、むしろシスマやアンジェリーナさんが該当するはずなんだけど……なんで私?


「アイラ……あなたそろそろ、自分の外見の良さに気付くべきね……」


「ええっ? シスマがそれを言う……?」


 シスマが呆れ口調で私に言って来た。良く分からないけれど、私はどうやら、自分が思っているよりは魅力的な女の子らしい。まあ、その辺りは後で考えるとして……。


「ネプトさん、あの2階の件はどうしますか?」


「冒険者だけが2階に行っている……確実に怪しい何かを売っていることは間違いないだろう」


 怪しい何か……それはやっぱり、オディーリア様の言っていた偽物のことなんだろうか?


「2階に直接侵入することは難しいだろうから、2階から下りて来た者を穏便に捕らえるとしようかね。なにか情報を引き出せるかもしれない」


 「穏便」の使い方がおかしい気はしたけれど、作戦としては理にかなってる気がする。2階から下りて来た冒険者を捕らえて事情を聞く……なんだかこの辺りが、ネプトさんがランキング1位に居座れる図々しさなんだと直感してしまった。


 やっぱり、この人はただ者じゃないわ……。


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