102話 イノセントの訪問
「薬屋エンゲージ……ここが、そうなのだね」
「はい、その通りです」
私は興味を持ってくれた「イノセント」の二人を店に招待していた。ネプトさんとアンジェリーナさんが桜庭亭内に入っただけで、何人かの冒険者が声をあげている。
「おいおい、あの二人ってまさか……!?」
「多分、間違いねぇよ。最強の冒険者の方々だ」
「いよいよ、アイラちゃんの店にあの人らも来るようになったか……いやはや、なんというかとんでもないな……」
宿屋内だからそこまで騒ぎ立てているわけではないけれど、流石にイノセントの二人は有名みたいだった。
「宿屋の敷地内での経営かね」
「そうですね、今のところは」
桜庭亭内におそらくは首都でナンバーワンの売り上げを誇っている店がある。その間取りにはネプトさんも不思議がっていた。私も考えれば考えるほど、不思議な感じはしてくるけどね。ネプトさんとアンジェリーナさんの二人は店の前に立つと、早速品揃えを見定め始めた。
最初はどういうアイテムを売っているのか、順番に説明するつもりだったけど、ネプトさんのしぐさを見る限り、その必要はないみたいね。流石だわ。アンジェリーナさんも私の店のアイテム群を見渡していた。
「アイラ殿、あの方たちは?」
「冒険者ランキング1位のイノセントのお二人です」
「なんと、あの二人がそうなのですか?」
「ええ」
私とライハットさんは小声で話している。ネプトさんは無言で店の品揃えを見ている為に、その邪魔をしては悪いと思ったからだ。ルル達他の従業員も、ネプトさんとアンジェリーナさんの訪問には驚いているようだった。
「全く、あなたという人は……お知り合いに、どんどん大物が増えていきますね」
「あははっ、そうかもしれませんね」
ネプトさんとは、ついさっき知り合ったばかりだけど、これから長く付き合っていければいいとは思っている。
「エリクサー、蘇生薬、万能薬にエリキシル剤……さらに各種回復アイテムや状態回復薬などなど。この品揃えを見て、君はどう思うかね?」
「……アイテム士の基準が良く分からない」
アンジェリーナさんは自分の専門分野ではないと判断したのか、ネプトさんに対する答えは的を射てはいないようだった。
「それもそうだったね。アイラ君、これは全て君が一人で作成したのかね?」
「えっ……? は、はい。まあ、そうです」
「なるほどなるほど、それは非常に興味深いね。そう言えば、アイラ君のお店の前にはキースファミリーというお店もあったね」
「そうですね、確かにあります」
「そうかそうか、それは本当に興味深いね」
ネプトさんは一人で納得するように、首を小刻みに動かしながら笑っていた。そのしぐさはなんだか面白い。イマイチ褒められているのかどうなのか分からないけれど、私は結論を急ぐ気はなかった。
「素晴らしい才能だね、アイラ君」
「ネプトさん……ありがとうございます」
しばらく笑っていたネプトさんだったけど、その後に真剣な眼差しに戻り、私を称賛してくれた。その言葉には敬意のようなものが含まれていた気がしたために、自然と私も真剣に返していた。
「しかしそれだけに……奴には注意した方が良いかもしれないね」
「奴……ですか?」
「北のワールシュタット共和国のオイゲン商会だよ」
「オイゲン商会……ですか?」
「オイゲン商会の会長を務める、トロメア・オイゲンがこの街にやって来ているという情報を掴んだのでね、私達もやって来たわけだが」
話が見えて来ない……そのトロメア・オイゲン会長がどうしたっていうんだろう。まさか、冒険者に追われている賞金首ってわけでもないだろうし。
「オイゲン商会は現在、大陸内で最高の売り上げを誇っている商業ギルドだね。北のワールシュタット共和国では、ほぼ全ての店がオイゲン商会の傘下に入っていると聞いている」
「ほぼ全てのお店が……オイゲン商会に?」
なんだか怖い予感がする。そこの会長がカタコンベの街を訪れているとなると……。
「オイゲン商会は首都カタコンベで展開している店を牛耳り、ホーミング王国の商業を傘下に収める手筈を整えている可能性があるということなのだよ。私達がここに来たのもその調査の為さ」
「なるほど、だからカタコンベにいらしてたんですね……」
なんだか不穏な空気を感じる……売り上げ的にはかなり有名になってしまった私の店だけれど、それだけに、オイゲン商会が接触してくることは、ほぼ間違いなかったから。私は無意識の内に冷や汗を流していた。
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