96.トライアングル+ワン?
私、澄川燈子は今バイトに勤しんでいる。
大学に来て約1年。思い起こせば、宮原さんや算用子さんを始め、仲の良い友人が出来たことは素直に嬉しく思える。
そして、今はこうしてバイトが出来ている……そんな状況を恵まれているのだと思いたい。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
ここ、カフェ&レストランゴーストでバイトを始めてから、それなりに仕事は慣れた気はする。けど、満足してはいけない。満足したら成長できなくなる。
これは過去の自分に対する戒めでもあった。
それにしても、ここは凄く良いバイト先だとは思う。だけど、気になるのは……風杜さん。
あの日聞いた……日南君との間に起きた出来事。
もちろん驚きはした。風杜さんに少しだけ怒りにも似た感情が沸いたのも事実。
でも、私に風杜さんを責める権利があるのかと言われると……ない。
自分も同じことをしたのだから。やり方とか行程とかは関係ない。日南君を傷つけたことに変わりはない。
それに少しでも嫌味を見せてくれる人ならまだしも、私が知る限り風杜さんは良い人だ。
厨房での手際もいいし、学年は下でも年齢は上と言う事もあって落ち着いて見える。それに私にも常に笑顔で優しく話しかけてくれて、
『澄川さん? 今日の賄い何が良い?』
本当に……いいお姉さんって感じる。
けど、日南君にした事は知ってる。
でも、私も同じ事をしてる。
だからこそ、その話をするべきではないんだ。する権利もないよ。
このまま……このままの関係で……
居るべきなんだ。
ウィーン
って、お客さんだ。今はバイト中なんだから、余計な事は考えないようにしなきゃ。
「いらっしゃいませー1名様でしょう……か」
あっ、あなた……
「あっ、1人です。あれ? こんにちはっ☆澄川先輩! 案内お願いしますね?」
どうして……
「こっ、こちらにどうぞ……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
休日のバイトはいつまで経ってもキツい。でも、バイト代は稼がないと皆と遊べなくなっちゃう。
そんな事を考えながら、私、立花心希はバイトをしている。今年のゴールデンウィークはいつも以上に予定を詰め込んだ。その為にお小遣いを前借りしたからには、空いている日にバイトをこなす必要があった。
ふぅ……やっぱりお昼時は混むわね。同じホール係は……澄川……さんか。
徐に目を向けると、
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
そつなく仕事をこなす澄川の姿が目に入る。
正直、ここでバイトをすると聞いた時は心底腹が立った。どうしてお前が? なんでここなんだ?
けど、ここカフェ&レストランゴーストは家からも近くて時給も良い。それに雰囲気も悪くはなくて働きやすい。
だからこそ、表立って澄川に強い態度を取る事はできない。裏でどうこうというのも考えたけど、そういうモノは必ず誰かに見られる。いよちゃんの件で十分痛い目を見たから。
それに、一緒にホールで働いてみて……澄川は仕事ができる。1度教えると大抵の事は覚えてしまうし、丁寧で速い。
黒髪とそれなりに整った顔。ホールの制服には良く似合う容姿でもある。実際接してみる限り……恥ずかしいけど会話がしやすい分類だ。とにかく聞く能力が高い。傾聴力ってものか……色々と話せる雰囲気は一緒にいて嫌じゃない。
だからこそ……今の澄川に対して、いよちゃんの事を責められる資格は私にはない。
そもそも、自分も同じようにいよちゃんを傷つけたから。いや、澄川よりも酷く傷つけた。
だからこそ、あんな事をしゃべる必要はない。しゃべる権利なんてないんだ。
このまま……このままの関係で……
居るべきなんだ。
「あっ、立花。5番のお客さん頼む」
「了解です! 店長」
さて仕事仕事。
「失礼します。ご注文をお伺いしま……す」
えっ……あなた……
「あっ、立花さんっ☆ここでバイトしてるの? ふふっ、とりあえずブレンドコーヒーお願いしまーす」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「風杜さんっ、和風スパ2お願いします」
「OK。天女目くん」
手を動かさない時間の方が少ない。それくらいの忙しさを感じながら、私、風杜雫は料理を作っている。
叔父さんの家に居候している手前、少しでも負担を減らしたい。ましてや、最近までバイトにも来られなかった日が多かったから、挽回しないと。
それにしても、天女目くん……こんな事言っちゃ失礼だけど、見た目に似合わず料理の提供スピードが速い。板倉さんの教え方も上手いんだろうけど……そういえば太陽もすごく……あっ。
油断すると、すぐに太陽の事を思い出してしまう。あの日以来、諦めなければいけないのに割り切れない自分がいる。
それに、どうしても目に入ってしまうのが、澄川さんと立花さんだった。
太陽が言っていた、過去のトラウマ。その原因の2人と……まさか同じところでバイトをするなんて。
私が太陽と付き合っていた時なら、嫌悪感を抱いていたかもしれない。
2人は太陽を傷つけた。でも、私はそれ以上に太陽を傷つけた。
だからこそ、今の自分にはそんな感情を抱ける資格がないのは分かっている。
それに、そんな感情を抜きにすると……2人の印象は良い。
澄川さんは意外と会話がしやすくて、話をしているこっちがいい気分になるくらい雰囲気作りが上手。
立花さんは、前からだけど色々と話し掛けてくれる明るい子。場を盛り上げてくれるのが上手。
そしてやっぱり……ここゴーストは働きやすくて、店長を始めとして良い人ばかり。
だからこそ、あえてあんな事を口にするべきじゃない。口にする権利がない。
このまま……このままの関係で……
「いらっしゃいませー1名様でしょう……か」
「あっ、1人です。あれ? こんにちはっ☆ 澄川先輩! 案内お願いしますね?」
えっ……この声……まさかっ!
『単刀直入に言います。日南先輩にこれ以上関わらないでください』
『日南先輩に近付かないで。これ以上悲しい思いをさせないで、傷付けないでっ!』
あの時の……
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




