89.先手は必須
「さてと、何食べようかな? 千那は決まった?」
「うーん、どうしようかな?」
最早行きつけとなった、喫茶店逃避行。とりあえずメニューを開きながら、俺はなんとか平静を装っている。
どっ、動揺してるのバレてないよな?
正直、さっきの正門での出来事。日城が黒前に来ていた事にも驚いたけど、あの言葉は驚愕だった。
頭の中が真っ白とは、ああいう事を言うんだろう。
しかしまぁ……
思い起こすと、やはり日城のイメージは俺の知る姿とは異なっている。
清廉の時は髪が長くてモジモジ。
けどさっきの日城は、髪をバッサリで、明るい感じ。
そもそも、なぜわざわざ黒前大学に来たのかが謎過ぎる。
極めつけは……まさかの告白。
とりあえず、あの場において話題を逸らす事には成功した気がする。ただ、いきなりのあれはヤバい。しかも、隣に居たのが千那っていうのが非常に危なかった。
千那からは、ここに来て席に座った瞬間の、
『まさか太陽の後輩ちゃんが来てくれるなんてね? びっくしりしたよ』
『ははっ。俺も驚いた』
『そうだよね? ふふっ』
って会話以降、日城の話題は出てない。
もしかして、あの言葉の部分だけ聞いていなかった? いやいや、結構な声だったし、俺が聞こえてて隣の千那が聞こえない訳がない。
となれば、千那の性格的にあえて黙っていてくれているのかも。
1年ちょいしか関りはないけど……講義の時間も含めて、一緒に居た時間は結構長い。おのずとその人の性格って部分は垣間見えている。
その中でハッキリしているのが、千那は人の傷を抉らない。
勿論、ダメな事はキチンと口にするけど、人が抱える不安や問題なんかを他人に漏らすことは無い気がする。実際、俺と澄川の関係について……周りの人達が知っている素振りは見られない。
色々な経緯があったにせよ、その関係を話したのは入学してそんなに間がない時期。それでも、昔からあの知り合いでもある千太や算用子さんにも伝わっている風には感じられない。
まぁ、その2人が抜群の演技派だったら話は別だけど……算用子さんはともかく千太にそれは無理だと思う。
それに澄川に対する態度も、俺から話を聞く前と全く一緒。
『日南君が澄川さんに対して快く思ってないのは分かるよ? けど、私が知ってるのはちょっと遠慮しがちだけど、笑顔が可愛い澄川燈子。だから今まで通り……友達の関係は続けるね?』
俺の気持ちも理解はする。けど、今まで通りの付き合いをしていく。
自分が同じ立場だったら、なんと疲れる事だろうか。互いの気持ちを理解して、両方と接するなんて精神的に辛い。一緒に居る時間を考えて、澄川とは徐々に距離を取るだろう。
けど、千那は自分の言った事を貫いている。俺とは変わらず、澄川とも変わらず。
あの明るい性格の裏に秘められた精神的な強さ。それこそ、千那が誰からも好かれる所以なんだと思う。
だからこそ、さっきの告白についても……俺の反応を見て詳しく聞かない方がいい。そう判断してくれているのかもしれない。
とはいえ、いきなりの告白を目の前で聞いて……その心中はどうなんだろう。
はなっから俺の事ただの友達だと思っていたら、逆に応援されちゃいそうだ。
わずかでも俺に気持ちがあれば、一気に醒めるんじゃないか?
それは俺にとって……かなりの痛手となる。
目の前の千那は、雰囲気や姿こそ普段と変わらない。けど……何かしらは感じているはず。
……せっかく、気兼ねなくご飯に来れる関係になった。それが崩れ去る事は何としてでも阻止しなければならない。
どうする太陽。このまま放置は余りにも危険すぎる。
どうする太陽。ここは一か八か1歩、いや2歩前に進む位……大胆に行っても良いんじゃないか?
…………ここは……
「やっぱり、ここの和風スパゲッティ美味しー」
「なぁ、千那?」
「うん? どしたの?」
「あのさ……」
覚悟を決めろ! 日南太陽!
「あのさ? 今度の日曜日……遊びに行かないか?」
「2人で」
次話も宜しくお願いしますm(_ _)m




