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146.勢揃い

 



「いやぁ~! やっぱり偶然にしては凄すぎますよぉ~!」


 晩ご飯を終え、透也さん達が旅館の手伝いへ戻った宮原家の台所。

 千那や真也ちゃん。透白くんがテーブルを囲んでいる中で、一際元気な声が響き渡った。

 更にガタッという椅子の音が耳に入ると、その先にはテーブルに手を置いて身を乗り出す花那ちゃん。

 恐らく相当興奮しているんだろう。


「これはもう奇跡としか言えま……」


 ただ、そんな様子を制したのは隣に座る透白くんだった。


「だから何回同じ事言うんだよ。ていっ」

「あいたっ!」


 花那ちゃんのおでこに軽く手を当てると、ペチンという甲高い音と一緒にまたしても花那ちゃんの声が響き渡る。


「う~痛いよ! 透兄(とうにい)!」


 ……ははっ。仲が良いなぁ。


 黒前駅で出会った花那ちゃん。

 帰る先がことごとく同じ方向だった事には少なからず縁を感じていたのだけど、まさか宮原家の一員だとは予想外過ぎた。

 千那から花那ちゃんの事は聞いていたし、留学に行っている事も知っていた。とはいえ偶然声を掛けた子が当人だとは……旅館の門を笑顔で潜り、改めて名前を聞いた時には驚いたものだ。


 唖然とする俺を尻目に、颯爽と自宅へと案内した花那ちゃん。

 その姿に、俺がここで住み込みのバイトをしているとは言えないまま宮原邸へと招かれた。


「でも、本当に驚いたんだよ花那? まさか予定日の前日に帰って来るなんて」

「ふふっ。それにまさか太陽君と一緒に来るとはねぇ~」


 頬を膨らませながらおでこを押さえる花那ちゃんに向けて、少し呆れた表情の真也ちゃんと優しく微笑む千那。

 その言葉通り、宮原家の面々はある意味で花那ちゃんの思惑通りの様子だった。


 丁度先に晩ご飯を食べていた巌さんや巴さんはもちろん、透也さんも花那ちゃんの姿に驚いていた。けど真白さんだけはなぜか落ち着いていて、何と言うか妙な余裕を感じさせていた気がする。

 とは言え、そんな騒々しさに家に居た千那と真也ちゃん、透白くんも集合してまさに一家大集合。

 その光景を見ながら満面の笑みを浮かべる花那ちゃんを前に始まったのは……とりあえずの質問攻めだった。


「でも驚いたでしょ~!? 作戦どぉ~り!」

「あのねぇ~こっちは明日帰ってくると思ってたんだよ? 母さん達もそれに合わせて晩ご飯の準備してたし」


「それなら明日食べれば問題ナッシング~! でしょ? 真也姉」

「いやいや、そういう問題じゃないんだけどなぁ」


 花那ちゃんの言葉に、どこか頭を抱える様な真也ちゃん。

 いつも落ち着いた雰囲気だけに、その姿はあまり見た事がないものだった。というより、そもそも日常的にそういう感じだと言った方が良いのかもしれない。


 真面目な真也ちゃん。天真爛漫な花那ちゃん。その間に挟まれる透白くん。

 この短時間だけでも、なぜか容易にそういう光景が想像できてしまう。


「相変わらずだねぇ~花那ちゃん?」


 そんでそんな3人を笑って見てる千那か。なんて言うか、結局のところ仲が良いんだろうな……


 そう思うと、思わず口元が緩んでしまう


「流石千那姉~! 分かってらっしゃる! 相変わらず元気ですよ花那は!」

「千那姉? あんまり調子乗らせたらダメだって」

「あぁ~! また馬鹿にしたね透兄!」

「こらこら、ケンカしない!」


 なんだろう。花那ちゃんが増えただけで、いつもの倍は賑やかになったぞ? これが本来の宮原家なのか? まぁ、これはこれで悪くないかもしれない……


「あっ! そんな事より! 太陽さんですよっ!」


 って、いきなり俺の話!?


 恐らくいつもの宮原家のやり取りをしていた面々。

 そんな中、突如として口に出された名前に話の矛先が俺へと向けられる。

 これまで当たり前の様に話をしていたはずなのに、妙な緊張感を覚えてしまう。


「太陽君? あっ! 花那ちゃん助けてくれてありがとうね?」

「本当にありがとうございます。太陽さん」

「マジで声掛けてくれたのが太陽さんで良かったっす」


 ただ、そんな不安とは裏腹に3人からはお礼を言われてしまった。

 とはいえ、さっきも散々透也さん達からもお礼を言われていただけに、改めてのお礼は逆に申し訳なく感じてしまう。


「いやいや。全然だって」

「そんな事ないです。太陽さん」

「そうっすよ! しかも荷物まで……」

「でもさ? やっぱりすごい偶然だよね~? ふふっ」


 ……まぁ確かに偶然にしては凄いよな。たまたま声掛けた子がバイト先の家族なんて相当な確率だ。


「それに関しては同感かもしれないな。石白駅までは何にも感じなかったけど、バスの路線も一緒だったし」

「どんな確率だって思っちゃいますよね?」

「しかも鶴湯過ぎたら、殆ど家ないっすからね~」

「いやぁ、太陽君が玄関でポカンとしてたのも納得だよ」


「「はははっ」」

「「ふふふっ」」


 なんてやり取りをしていると、気が付けばそこはいつもの宮原家の雰囲気に戻っていた。

 テーブルを囲み何気ない話で笑い合う。そんな時間は何よりも楽しく……


「こらぁ!! なに4人で盛り上がってるの! 花那が話してたんですけど!?」


 うおっ! そっ、そうだった。花那ちゃんが俺の事言い出したから、話の的が俺になったんだった。


「なんだよ花那。太陽さんが何だってんだ?」

「いやいや! 花那からしたら、太陽さんの方が重要なんですけど!? あっ、改めて本当に声掛けてくれてありがとうございました。荷物持ってくれてありがとうございました」


 ……騒がしいだけかと思ったら、ちゃんと礼儀は弁えてるんだよな。やはり根はしっかりとしている。


「どっ、どういたしまして」

「それで? 黒前大学2年という事は……千那姉と知り合いですよね?」


「そうだね」

「学部も一緒で、バスケサークルも一緒だよ~」

「その縁で宮原旅館に住み込みのバイトを!?」


「そういう事になるね」

「お父さん達も人手には苦労してたからさ」

「けど良く住み込みのバイトなんてしようと思いましたね? 黒前大学まで結構な距離ですよ?」


「でもまぁ、真白さんもこうして大学生活を送ってたみたいだし」

「経験者が居るのは心強いと思うよ? ふふっ」

「むむむ…………はっ!」


 その瞬間、何やら思いついたかの様に目を大きくさせる花那ちゃん。その様子に疑問を抱いていると、


「なるほどなるほどぉ」


 今度はなんとも言えない笑みを浮かべ始める。


 ん? なんだろう。妙に嫌な予感がするのは気のせいか?


 なんて考えていると、続け様に花那ちゃんが口を開く。


「そういえば、太陽さんは東京出身なんですよね!?」


 さっきの怪しい笑みとは違って、それこそ見慣れた明るい表情を見せる花那ちゃんに、要らぬ心配だったかと少し安心する。


「ん? そうだけど?」

「これも何かの縁です! 東京の話とか色々聞かせてくださいよ?」


「ん? まぁ分かる範囲でなら」

「やったぁ~!」


 ……っと。やっぱ気のせいだったか。


「ちょっと花那? 太陽さんは仕事あるんだから、邪魔はダメよ?」

「そうだぞ? いくら都会に憧れてるからって、ストーカー禁止な」

「分かってますよ~だ! ったく、真也姉も透兄も子ども扱いしちゃって、ホント失礼しちゃうな」

「まぁまぁ3人共~。久しぶりの再会なんだし、仲良く仲良くふふっ」


 こうして勢揃いした宮原一家。

 一番の末っ子でもあり天真爛漫な花那ちゃんとの出会いは、これからの住み込み生活に色々と変化をもたらしてくれる気がした。

 良い意味でも、悪い意味でも。


「あぁ! 見てください太陽さん! 透兄がアホ面でバカにしてきま~す!」

「はぁ? 誰がアホ面だよ。視力下がったのかぁ~」

「もう! 2人共止めなって!」

「ふふ。なんか本当に、この雰囲気懐かしいなぁ」

「ちっ、千那?」


 ほっ、本当の宮原家の姿…………恐るべし。




次話も宜しくお願いします。

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