145.奇遇と偶然と奇跡?
この時間帯の電車は、結構利用する人が多い。
スーツ姿の人や俺みたいに私服姿の人も居るけど、その多くは帰宅する学生達が大多数を占めていた。
しかし、全く座れない程込み合っている訳じゃない。東京の通勤通学ラッシュに比べれば、天国のような快適さだ。
―――次は黒前運動公園前、運動公園前です―――
そんな中ゆったりと席に座りながら電車に揺られていると、耳に入ったのは聞き慣れつつあるアナウンス。
その光景は、まるでいつも通りの帰路の様に感じてしまう。
「ふ~んふ~ん」
ただ、隣から聞こえる嬉しそうな鼻歌に、かなちゃんの存在を思い出した。
ふと視線を向けると、何やらリズムを取るように体を小刻みに揺らしているかなちゃん。
その年相応な行動に、思わず笑みが零れてしまう。
こうしてみると、実に小学校2年生らしい。
とはいえ、最初に声を掛けた時のハキハキした受け答えには驚いたものだ。
それに加え、妙に話がしやすいのはなんでだろう。話の波長が合うという事なのだろうか?
初対面のはずなのに……なんだろうな。
「どうしたんですか? 太陽さん」
そんな疑問を感じていると、かなちゃんから声を掛けられた。
その小さめの声量に、思わずさっきまでの姿とのギャップを感じてしまったけど、よく考えるとおそらく電車内という事を考慮したものなんだろう。
「いや、なんでもないよ」
「本当ですか~?」
小声で返事をすると、怪しく微笑むかなちゃん。
こういう行動は、やはり小学校2年生とは思えないものだ。
……ったく、良くも悪くも掴み所がないなぁ。そういえば、石白行の電車に乗るって事は聞いてたけど、どこの駅で降りるんだ?
「本当だって。それよりかなちゃん」
「なんでしょう?」
「どこの駅で降りる予定?」
荷物を運ぶのを手伝うとは言ったものの、よくよく考えれば降りる駅から家までの事も考えなきゃいけない。
そもそも最寄駅とは言え、距離が遠ければ黒前駅状態に逆戻りだ。
……声を掛けたからには仕方ない。最悪家の近くまで運んであげなきゃな。
「終点の石白ですよ~?」
そう思っていると、かなちゃんの答えは運の良い事に自分も降りる石白駅だった。
とりあえず帰宅時間が遅くなる可能性が少し減った事に安心する。
「そうなのか? 俺もだ」
「わぁ~奇遇ですねぇ。じゃあもう少しよろしくお願いしますね?」
「はいはい」
なんて事を話したものの、意外や意外。その後の俺達は静かそのものだった。
一旦話をすると再三なく話を続けてしまうと思いきや、かなちゃんから話し掛けてくる事はない。強いて言うなら俺からの質問に答えた位だろうか。
ちなみに、石白駅から家は近いのかと聞いたところ、これまた偶然なのかバスに乗って帰るらしい。
それも七色湖公園行となれば、俺がいつも使っている路線。それに家の近くにバス停があるという事で、途中下車の心配もなさそうだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―――次は石白駅、石白駅です―――
こうして電車から降りた俺達は、改札を抜けて駅の出口へと足を運んだ。
正面に見える駅前のバス停留所には、丁度良く七色湖公園行のバスが見える。
「いやぁ~本当に荷物運んでもらってすいません~」
「全然だよ。さてと、この時間帯は電車から降りると、石白行のバスに丁度良く乗れるんだ」
「おぉ~! 滅多に利用してなかったので、時刻の把握助かります! マジ神様みたいですよ~」
「それは言い過ぎ。じゃあ行こうか」
「はい!」
電車から降りるや否や、途端に会話の数が増えたかなちゃん。その様子にやはり人は少ないとはいえ、電車の中での会話を極力避けていたのだと確信する。
……テンション高めの子かと思いきや、公共の場での礼儀はしっかりしてるんだな。
「ん? どうかしましたか?」
「なんでもないよ」
そんな事を考えながら、無事にバスへと乗車。
車内を見渡すと、乗客は俺とかなちゃんの2人だけだった。
良く利用する時間帯だからこそ予想はしていたのだけど、やはり1人よりは2人の方が気持ちは楽だ。
「わぁ~後ろ行きましょ? 太陽さん!」
「はいよ~」
電車とは違い、バスで1人というのは結構寂しいものがある。
会話の相手が居るとこうも違うのかと思っていると、バスがゆっくりと動き出した。
さて、このバスでかなちゃんともお別れだ。てか、流石にこのバスだったら普通に話しても大丈夫だよな。
「そういえば、かなちゃんはどっか旅行行ってたの?」
「いやぁ~恥ずかしながら、留学と言うモノに行っておりまして」
「留学? その年で?」
「はは。本当は夏休み利用して行こうかと思ったんですけど、枠が1つあるという事で……親に無理言って行っちゃいました」
マジかよ。そもそもその年で留学行きたいとか思えるのが凄いぞ。それにご両親も凄いな。
「凄い行動力だな。ちなみにどこに行ってたの?」
「オーストラリアですね! ホストファミリーの皆さんもすごく良い人達でした!」
「それは良かった。英語の方もバッチリ?」
「日常会話程度なら……ってレベルですかね?」
電車という話ができない状態から解放されたからか、気が付けばかなちゃんに抱いていた疑問を一気に吐き出してしまった気がした。
旅行ではなく、留学からの帰り。
そして思いついたサプライズが、1日早い帰国。
本人が親に連絡したくない理由が、なんとなく分かる気がした。
「そういえば、太陽さんってこっち出身なんですか?」
「ん? どうして?」
「いやぁ、こっちの訛りがないので。東京とか出身なのかなぁと」
「あぁ、出身は東京だよ?」
「当たったぁ! でも通学を考えると、普通は黒前にアパート借りません?」
「実は住み込みで働いてるんだよねぇ」
「住み込みですか!? なんか今の時代珍しいですね?」
「やっぱりそう思う?」
「思います~ふふっ。でも良いなぁ東〜京〜」
バスに揺られながら、かなちゃんとの会話は予想以上の盛り上がりだった。そして気が付けば、あっという間に俺が下りるバス停が近付いていた。
あれ? 話に夢中になってたけど、かなちゃんまだ下りないのか? 俺は次で降りるんだけどな……
「そういえばかなちゃん? どこでバス降りるの?」
「えっと、次……ここです!」
バスがゆっくりと止まった瞬間、大きく返事をするかなちゃん。
ここで降りるという事は、宮原旅館の近くに住んでいるんだろうか。確かに家も何件かあるし、そうとしか思えない。
だとすれば、家まで荷物を持って行っても問題はなさそうだ。
「マジか? 俺もここで降りるから、荷物家まで運ぶよ」
「えぇ!? 太陽さんもここなんですか? なんか……奇遇ですねぇ」
「だな」
そんなやり取りを交えながら、バスを降りた俺達。
そのままかなちゃんが指さす方へと足を運んだけど、その方向は宮原旅館と同じ方向だった。
おいおい、駅で偶然声掛けた子が鶴湯の子とは……偶然にも程があるだろ?
ある意味奇跡の様な体験だと思いつつ、かなちゃんと他愛もない話をしながら歩き進める。
「いやぁ。住み込みだって聞いて、もしかしたら、太陽さんもここで降りるんじゃないかと思ってたんですよ~」
「マジか?」
「だって住み込み=旅館じゃないですか? 七色湖公園行のバスとなったら、道中で思いつくのは鶴湯でしたし」
「まぁ、地元の人からしたらそう考えるのが普通か」
「ですねぇ。あっ、太陽さん? もしよかったらウチ寄って行ってくださいよ~。荷物運んでくれたお礼したいですし」
「えぇ? それは流石に良いって。ご迷惑になるからさ」
「大丈夫ですって。実のところ、私の実家旅館なんですよ~」
「旅館? いやいや……」
ん? 旅館って……流石に……
「あっ、着きました! ここです」
「ここって……えっ?」
かなちゃんはそう言うと、少し小走りで前を歩いた。そして指をさした方には……それは立派な門が見える。
ただ俺にとって、それは単なる立派なもんではなかった。
なぜならその門は……
「宮原……旅館……?」
ここ最近で、最も見慣れたであろう門だったのだから。
えっと……あれ……つまり?
「はい! あっ、私宮原花那って言うんですよ~! ささっ、宮原旅館へどうぞ~!」
…………マジか!?
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




