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144.キャリーバッグと女の子

 



「えっ、いや……」


 女の子の思わぬ言葉。

 申し訳なさそうな苦笑。

 想定外の行動に、思わず歯切れの悪い言葉しか出なかった。

 そして逆にこちらが申し訳なさを感じていると、


「独り言のボリュームが大きいって、よく言われるんですよねぇ」


 そう言いながら女の子はキャリーバックから腰を上げる。

 やはり身長的にはアイちゃんと変わらない。

 ただ、パッと見た通りボブカットの黒髪とその雰囲気はやはり違っていた。


 っと、何驚いてんだよ。話し掛けたなら、ちゃんと区切りをつけろ俺。


「いや。俺の方こそいきなり声掛けてごめん。その……まぁ、独り言が少し聞こえてさ?」

「あはっ。ですよねぇ~? ご帰宅の所足止めしてしまい申し訳ないです」


 苦笑を見せながらも、ハキハキと言葉を話す女の子。正直ここまでやり取りがしやすいのも想定外ではある。

 しかしながら、そんな女の子が独り言とはいえ悩んでいるとなると、それなりに困っているのではないだろうか。

 とりあえず、事情を聞こうと話を続ける。


「大丈夫。それで? なんかめちゃくちゃ深刻そうにしてたけど?」

「あっ、いやぁ……人に話すほどの事でも……」


「いやいや。おせっかいだとは思うけど、足止めちゃったし。出来る事なら協力するけど?」

「なっ、なんと! 初対面にも関わずなぜそこまで優しいんですか?」


「えっと、過去にここで迷子の手助けをした経験があってね?」

「おぉ! それは善い行いですねぇ。いや、でもなぁ……」


 あれ? なんだろうこの会話のしやすさ。なんか初対面なはずなのに、初対面じゃない気がするぞ? まぁそれは良いとして、早くお悩み聞くか。


「はいはい。んで? 何に困ってるの?」

「えっと……まず1つ。お土産を入れた紙袋を新幹線に忘れたのが分かった事ですかね……」


 新幹線にお土産? これから旅行じゃなくて戻って来た所か。


「新幹線の駅って事は、新青森駅? 電話はした?」

「はい。見つけ次第連絡頂ける事になってますぅ」


「じゃあひと先ず安心か。んで? まず1つという事は2つ目は?」

「いやぁ、全くもってお恥ずかしい話なのですが……」


「はいはい、なんだ?」

「このキャリーバック結構重くてですね? 道半ばで完全に体中の筋肉がやられちゃいまして……これからまた電車で帰ると思うと、ちょっと絶望に打ちひしがれていた所なんですよ~」

「電車? なるほどなぁ」


 確かに良く見ると結構大き目なキャリーバックだ。立てると女の子の肩ぐらいにはなるだろう。

 となると、結構長い期間の旅行に行っていたと考えるのが普通だ。けど、そうなるとある疑問が浮かんでくる。


 なんとなく話は分かったけど、女の子1人で帰って来たって事か? 親は何してるんだ。


「ちなみに親御さんは? 迎えに来てくれないの?」

「いやぁ……帰ってくる予定日、実は明日だったんですよねぇ」


「えっ? じゃあなんで」

「あの、サプラ~イズ! 的なノリを考えまして……ここまで来たら親に連絡ってのは悔しいんですよね?」


「その思いと体は全く矛盾してるみたいだけどね……」

「はうっ! おっ、お兄さん……なかなか痛いところついてきますね。実に慣れていらっしゃる」

「褒めてくれてありがとう」


 女の子と話す内に、なんとなく状況は掴めてきた。

 どっかしらからの旅行の帰り。

 本当の帰宅日は明日だけど、1日早く帰って来て家族を驚かせたい。

 その結果、新幹線にお土産を忘れる。

 黒前駅で体力の限界を迎えて、打ちひしがれている。

 いくつか突っ込みたいところはあるものの、アイちゃんの時に比べれば非常に分かりやすい状況には安心した。


 まぁ結局のところ、体力的に立ち往生って事か。ちなみに電車ってどこ行の電車なんだ? 石白行だったら、全然手伝うんだけど……


「ちなみに、これから電車で帰るって言ってたけどどこ行なの?」

「えっと、石白行ですね」


 まじか? じゃあ、いっちょお手伝いしますか。


「そうなのか。じゃあ手伝うよ? 俺も石白に帰るからさ?」

「えっ、えぇ!? そうなんですか? でも……」

「子どもが遠慮するなよ。それに、ここで会ったのも何かの縁だと思うしさ?」


 その言葉に、女の子の表情が一気に明るくなる。

 ただそれと同時に、やはりその雰囲気はどこか覚えがあるように感じた。

 しかし、この女の子は紛れもなく初対面で間違いない。


 ……やっぱ勘違いかな?


「ありがとうございます! じゃあ、お言葉に甘えても良いですか?」

「はいよ。ちなみにあと少しで石白行の電車あるから、行こうか?」


「おぉ! 時刻表まで把握してるとは……流石です!」

「いやいや褒め過ぎ。じゃあ行こうか?」

「はい!」


 俺はそう話すと、女の子のキャリーバックに手を掛ける。立たせてみるとやはり結構な大きさなのが分かった。

 それにいざ引くと、思いがけずズッシリとした重さ。女の子がダウンするのも頷ける。むしろ良くここまで引っ張って来たものだ。


 こうして女の子を先頭に、俺達は石白行の改札へ向かって歩き始めた。

 重たい荷物から解放されたのか、やけに軽い足取りの女の子の姿は、なんとなく打ち解けた後のアイちゃんに似ているような気がした。


 ……もしかして雰囲気とかアイちゃんに似てるのかな?


 なんて思っていると、


「あっ!」


 目の前を歩いていた女の子は不意に立ち止まると、こちらへと振り返った。

 その行動に何事かと思って俺も足を止める。


 ん? もしかして忘れ物か?


「どうした? 忘れ物か?」

「違いますよ~! もう流石にそんなヘマはしませんっ!」


 ……それはフラグというやつでは?


「そうか。それで?」

「大事な事を忘れていました! 自己紹介がまだでしたね?」


 女の子はそう言うと、改めて俺の顔をまじまじ眺める。

 言われてみれば、確かにお互いの名前は知らないまま。それでも一緒に電車へ乗ろうとしていた辺り、よほど馬が合うんだろうか。

 ただ、やはり名前は知っていた方が良いのは間違いない。


「確かにそうだった。ごめんごめん」

「全然ですよ! えっと改めまして! 私は()()と言います。小学校2年です!」


「かなちゃんね? 俺は太陽。黒前大学2年だ」

「おぉ! 大学生さんでしたか!」


「なんだよ。大学生には見えないってか?」

「いえいえ、予想通りです! えっへん」


「はいはい。まぁそういう事にしておこう。とりあえず、道中よろしくな? かなちゃん」

「とんでもないです。こちらこそ、よろしくお願いします太陽さん!」


 こうして自己紹介を終えた俺達は、再び改札へと向かって歩き出す。

 もちろんその片手には、かなちゃんのキャリーバックを忘れずに。


「いやぁ~! 体が軽いなぁ~!」

「そんなはしゃぐと転ぶぞ〜」


「そんなドジしませ……アイタッ!」

「言わんこっちゃない。ほら、手掴みな?」

「うぅ……すいません……」


 …………やっぱりアイちゃんとは似てないか。




次話も宜しくお願いしますm(_ _)m

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