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142.自分自身への違和感

 



「意味が分からない。何を言いたいのかも分からない」


 私の視線の先に居たのは、冷たい口調で話す太陽君だった。

 そして目にした事がない程の言い方と険しい表情に、私の足は無意識に止まっていた。


 ……どういう事?


 太陽君が席を立った後、追い掛けるように私も逃避行を後にした。

 正直、もっとフェリスちゃんとお話はしたかったけど、それ以上に太陽君の事が気になったしまったから。


 自分の分だけなまらまだしも、五千円も置いて行った太陽君。その優しい性格は知っていたから、私達に楽しんでもらいたいという意味だったんだと思う。

 でも私は申し訳なさが勝ってしまった。せめて帰りの電車代だけでも出させない様に、車で送って行こうと思って……急いで石白行きの電車が通る改札へと向かった。


 駅の出入り口付近で太陽君の姿を見つけた時には、まだ改札を通ってないんだと安心した。

 でも太陽君がいつもと違う。さっきまでの様子と違うのは、遠目でも十分に分かった。


「ごっ、ごめん。その、太陽はやっぱり優しいって事が分かったの」

「はぁ?」


 そんな太陽君の対面に立つ女の人。その顔には見覚えがある。

 確かアイちゃんがフェリスちゃんと再会した後に、ゴーストへ来た女の人で間違いない。

 確か名前は風杜さん。フェリスちゃんと一緒に不思木先生の家に居候している人。


 そう考えると初対面ではない。

 けど、それにしても2人の間の空気は……それ以上の何かに感じる。


「あの、私が言える立場じゃないのは分かってる。でも、太陽はこのまま変らないで居て欲しいなって……」


 どういう状況なのは分からない。

 ただ……


「変わらない? 何言ってんだ?」


 言葉を出すたびに太陽君が苦しんでいる事だけは理解が出来た。

 いつも優しい太陽君から漂う、怒りにも悲しみにも辛さに似た雰囲気。


 どうしてこんな事になっているのか。

 なんで太陽君があんなに苦しそうなのか。

 その姿に何故か痛々しく感じてしまった。


 どうしたの……? 太陽君。その人と何が……


「あっ、違……」

「あのな? 何を勘違いしてるか分からないけど、俺はお前の知ってる日南太陽じゃない。お前なんかと付き合ってた日南太陽とは違う」


 えっ……?


 太陽君の口から出た言葉に、驚きを隠せなかった。

 息が止まり、まるで時間が止まったかのような感覚に襲われる。

 けど、頭の中では色々な事がぐるぐる回り続けていた。


 付き合っていた? 太陽君と風杜さんが? いつ? どのくらい? 聞き違いじゃない? 違う。ちゃんと聞いた。じゃあ本当に付き合っていた? 


 自分でもちゃんと立つ事が出来ているのか判断もつかない。

 ただ太陽君と風杜さんは……そういう関係だった。

 その事実がハッキリとした瞬間。私は目の前の……2人が話す光景が嫌で嫌で仕方がなかった。


 イライラする。

 心のどこかがモヤモヤする。


 それは自分でも理解しがたいものだった。突然の不快感にも似た感情。

 いつもならどうにか出来るはずなのに……私はそれを制御できなかった。


「あっ、太陽君~!」


 気が付けば駅から外へと出て、声を掛けていたのだから。


「あれ? 確かあなたは……フェリスちゃんと一緒に不思木先生の家に居候してる……」

「千那?」

「あっ、あなたは……」


 隣に居る風杜さんに対しては、自分でも意地が悪いと思うくらいの口調だった。

 それは理解している。純粋に、この風杜雫という人物に嫌悪感を抱いたのは事実。


「アイちゃんと一緒に居た宮原千那と言います。えっと、風杜さんですよね? 黒前大学1年の」

「そっ、そうです。あの……」

「いやぁ~アイちゃんが無事でよかったです。あっ、フェリスちゃん達ならまだ喫茶店居ますよ? それじゃあ太陽君、帰ろうか?」


 とにかく太陽君をこの人から離さなきゃいけない。

 そう思い、半ば強引に間に割って入った。自分勝手な行動。2人の気持ちなんて二の次で、お構いなしに物事を進める。

 自分が自分じゃない様な感覚だった。それでも、そうしてでも……私はこの2人が話している光景が嫌で嫌で仕方がなかった。


「ほら~、行くよ太陽君。それじゃあ風杜さん。失礼します。ほらほら~」


 正直それからの事はよく覚えていない。

 というより、自分の行動が恥ずかしくて……必死にいつも通りを装っていた。


 おかしいと思われたかもしれない。不信感を与えてしまったかもしれない。

 ただ、そんな気持ちと裏腹に太陽君は自分に気を遣ってくれたんだと思う。

 いつも通り助手席に座っていて、いつも通り話し掛けてくれて……気が付けば2人で笑っていた。


「あっ、そういえば……フェリスちゃんと拓都くんの話、すごかったよねぇ」

「あぁ、あれは凄いというか奇跡としか思えないな」


「だよね? 小さい頃の約束を守って、わざわざ……フェリスちゃんってすごいよね?」

「あぁ。拓都くんも俳優としてのティー・キュロチャーチのファンだったらしいからな。ティー・キュロチャーチ=小さい頃に遊んだフェリスちゃんだっていう事は分からなかったみたいだけど、何か感じるものがあったんだろうなぁ」


「なんか……運命だよね?」

「だな。それ以外の言葉が見つからないよ」


「……ねぇ? 太陽君も運命って信じる?」

「えっ? 運命か……信じてるかも」


 太陽君も信じてるんだ。そう言えばまだ確かとは言えないけど、もしかしたら私と太陽君も小さい頃に会っていたかもしれないんだよね?


 ふと思い出したのは、机の引き出しに入っていたゲームキッズとソフトのゲットモンスターだった。

 小さい頃迷子になった時に出会った男の子にもらったそれには、“たいよう” という平仮名が書かれている。

 それにモンスターの名前はタイヨウ、キノネエ、シノネエ。この前起動してみた時、太陽君のお姉さん達と同じ名前だと気が付いた。それに思えば交番で一緒に待ってくれたお姉さんも、どことなく希乃さんと詩乃さんに似ていた気がする。

 偶然かもしれない。けど、それにしては一致し過ぎていた。


 この件については、期待と不安のせいで今だ太陽君に聞く事は出来ていない。

 ただ、可能性としては有り得る。フェリスちゃんの話を聞いてなおさらそう思った。

 それが分かっただけでも……今の私にとっては十分嬉しい事に変わりない。


「本当? 実はね? 私もなんだ~」

「おっ、マジか?」


 本当なら、太陽君に聞いてハッキリさせればいい。

 でもそれ以上に、こうして話している時間が楽しいのは事実。


「うん! だってね? 私今、とっても楽しくて嬉しくて幸せなんだもん」

「そっか……俺もだよ」


 だからこそ、別に答えを急ぐ必要はない。いつか聞ければそれでいい。

 そう思いながら、私は太陽君と笑い合いながら……夜のドライブを楽しんだ。


 ……あれ? そういえば私……さっきなんであんなにイライラしてたのかな? まぁいっか。今は太陽君との話を楽しまなきゃ。ふふっ。




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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