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136.一喜一憂する少女

 



 週も半ばの水曜日。

 教室の椅子に座ると同時に、机に突っ伏すと長い溜息が零れる。


「はぁ…………」


 朝からの講義は基本的に怠くてやる気が起きない。ましてや1コマ目からとなれば尚のこと。

 大学へ入学して1ヵ月ちょっと経つものの、こればっかりはどうにも慣れないのが現状だった。


 ただ、今日に限って言えばいつものそれとは違う怠さと疲れを感じている。

 単なる夜更かしや遊び疲れじゃない。

 それに思い当たる節は十分ある。

 バイトによる疲労。それしか考えられなかった。


 うぅ~。バイト急に忙しくなりすぎだって……


 事の発端を辿れば、あの映画への出演で間違いない。




 太陽先輩へのアピール9割と宮原千那への同情1割という気持ちのまま、威勢良く啖呵を切って承諾を頂いた映画出演。


 出演自体は時間にして数秒だけ。

 ニュースで取り上げられた事には驚いたけど、別にどうって事ないと楽観視していた。


 しかしながら……私はSNSの影響力というモノを見誤ってしまったようだ。

 ニュースの翌日に、本当にネット界隈で話題になるなんて……まさに三月叔母さんの言った通りの事が起きてしまった。

 挙句の果てに太陽先輩や宮原先輩にも心配を掛けてしまっただけに、先手を打って大学側に説明しておいて良かった気がする。

 つなちゃんも最初はかなり驚いてたよなぁ。それにサークルの皆も同様だったとは思うけど、ある意味皆受け入れてくれてよかった。

 それになにより、


『大丈夫! ネットの投稿見て誰かが凛恋ちゃんのトコ近付いて来たら、私が守ってあげるから!』


 つなちゃんが真剣な眼差しで言ってくれた言葉は嬉しいの一言だ。




 本当に良い子だよつなちゃん。

 まぁ、三月叔母さんとの件が判明したからって言うのも大きいのかもしれない。


 三月叔母さんと宮原旅館へ行った時、不意に叔母さんの旦那さんの話になった。

 結婚式なんかもやっておらず、ご両親達で会食しただけとあって、私は旦那さんの名字が鯉野だという事しか分からなかった。

 まぁ、ママに写真で顔は見せてもらったけど、その他諸々については白紙状態。という訳で、この機会に色々と聞こうと思ったのだけど……まさかまさかの展開だった。


 鯉野さんの出身はここ青森県。そして年の離れた妹さんがいる。


『あれ~? そういえば妹さんも今大学1年だって言ってたわね? それも黒前大学……凛恋知ってる?』


 その発言にまさかとは思ったけど……まさにそのまさかで、つなちゃんは三月叔母さんの旦那さんの妹さんだった。


 いやね、すぐ電話したよね? そしたらつなちゃんもテンションMAX。

 聞くと、会食の時に三月叔母さんとは会っていたけど……姪っ子の話まではしていなかったらしい。


 結果として、友達兼親族と言う間柄になったせいもあって、いつも以上の正義感が働いたんだと思う。

 それでも嬉しい事には変わりない。


 結局今の所、映画の件をあれこれ詮索してくる人は居ない。もしかすると、私が本人だと分かっていても、あえて接触してこないのかもしれない。

 まぁ、それはそれで面倒くさくないしラッキーなんだけど……どちらかというとバイトの方がヤバイよね……




 ネットの盛り上がりから数日経っても、意外と構内で変に話し掛けられる事はなかった。ただ、問題だったのはバイト先のゴースト。


 ❝黒前駅近くのゴーストってファミレスに、似てる子がバイトしている。❞


 そんな投稿のおかげか、大学の静けさとは違って、平日にも関わらずお客さんの数が徐々に増え始めたみたいだった。

 そりゃお客が増えるのは嬉しい事なんだろうけど、男性の比率が高いとなれば何かしらの要因を疑うのは当然。

 ある時店長さんにネットの記事を見せられて……事の顛末をきちんと話した。事情を説明すると、店長は少し頷きながら……少しニヤリと笑ったっけ。


『なるほど、事情は分かった。映画に主演したのは日城で間違いない。そしてその子に似ている子がバイトしているとネットの投稿があって……お客が増えたという事か』

『あのすいません店長。ご迷惑をお掛けして……』


『何言ってんだよ。お客増加の要因が分かれば、あとはこっちのもんだ』

『えっ?』


『いいか? 今の所、あくまでここでバイトしてるのはソックリさん。そういう設定でいこう』

『ソックリさんですか?』


『本人でなくても、ソックリさんであっても……話題性は十分だ。だから存分に利用させてもらう。それに現状で下手に本人だって分かればそれこそ収集がつかなくなりそうだしな』

『なっ、なるほど……他の従業員の皆さんにも迷惑掛けちゃいますもんね……』


『そうだな。ただ、大学やサークルのメンバーには伝えてあるんだろ? だとしたら、バイトしているのが日城本人だってバレるのも時間の問題だろうな』

『ですよね……』


『まぁ、そうなればまた忙しくなるだろうし、そういう想定を今からしておくよ。もちろん、従業員の皆には本当の事を伝えるけどいいか?』

『それはもちろんです』


『よし。私としてはまたとないボーナスタイムだ。それに本当に忙しくなるのは日城だと思うけど、頼むぞ?』

『はっ、はい! 店長~!』




 店長には本当に頭が上がらない。

 傍から見たら勝手な行動で、クビになってもおかしくはない。自分の自覚のなさをまざまざと感じてしまった。

 でも店長を始め従業員の皆も、事情を説明したら全員最初は驚いていた。けど、笑ってくれて……逆に心配までされちゃった。


 嬉しさと感動。

 ただその余韻は……あっという間に消えてしまった。

 想像以上のお客の数。ソックリさんなんです~という言葉の繰り返し。

 体力的にも精神的にも結構くるものがあった。

 本人だって広まったら、一体どうなるんだろうと考えて1週間と数日。

 その結果が……


「あぁ……怠い眠い疲れた~」


 この有様だ。


「あっ、おはよ~凛恋ちゃん!」


 そんな時、耳に入って来た元気な声。

 顔を上げると、つなちゃんがいつもの様にこちらへ駆け寄って来てくれた。

 もはや、その元気な姿だけで不思議と体力が回復していくようにも感じてしまう。


「どしたの~? 元気ないぞ~?」

「いや、少しバイトが忙しくてね」


「あぁ! まさかの3連勤って言ってたもんね? SNS効果は大丈夫?」

「なんとかヘーキだよ~」


 つなちゃんにはバイト先では現状ソックリさんで通している事を伝えてある。

 だからこそ、こうして心配してくれているんだろう。


 こうして隣の席に座ったつなちゃんと話をしながら、徐々に体力を回復させていくと……ようやくいつも並みのやる気が出てきた。

 これなら講義も何とか乗り切れる! そう思っていた時だった。


「あっ、そう言えば凛恋ちゃん? 黒前市がまたネットで話題になってるよ?」


 つなちゃんがそう言いながら、スマホの画面を指した。その行動に、私は反射的に画面を覗き込む。


 ん? えっとなになに? 黒前がまたネットで話題に? えっと……


 ❝イギリスの天才子役、日本観光だって❞

 ❝しかも青森だってよ? 黒前って、前もネットで話題に上がってなかったか?❞

 ❝いや、それマジの情報な訳?❞

 ❝マジも何も、本人のブログで言ってるぞ?❞


 ん? イギリスの天才子役? 日本観光? しかも青森県黒前市? 


「見て見て? このリンクがブログらしいよ? 見ちゃおっと……えいっ!」


 いやいや、そもそも子役って誰……えっ?


 つなちゃんがタップしたブログのリンク。

 暫くすると出てきたのは、間違いなく誰かのブログサイトだった。そしてその一番上に書かれた名前を私は知っている。


 え? ちょっと待って? この子知ってる。日本じゃまだそこまで有名じゃないと思うけど、イギリスではそれこそ天才子役で有名なはず。


「ん~? ねぇ凛恋ちゃん、この子知ってる?」

「うん。分かる。多分まだ日本じゃそこまで知名度はないかもしれないけど、知ってる人は知ってると思う。でもまさか、この子が黒前に来てたなんて……ハッキリ言って驚いてる」


 ブログはもちろん英語で書かれている。

 ただ、その文には間違いなく観光で黒前に来たと書いてあった。

 そして添付されている画像は、映画館のバケット付きポップコーン。それも日曜日に放送されている女の子向けのアニメの劇場版。


「へぇ~! だからネットでも、朝から結構盛り上がってるんだね~? そんなに有名な子なんだ。この()()()()()()()()()()()()()()ちゃんって」


 ……いやいや、本当に黒前に?

 ……いやいや、噓でしょ!?


 ある意味疲れが吹っ飛んだ……朝の出来事でした。




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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