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133.一段落と思いたい

 



「ふぃ~」


 一通り廊下の掃除を終え、目一杯に体を伸ばすと自然と声が零れる。

 雲一つない晴天は、今日も1日が始まるのだと教えてくれているような気がした。

 とは言え、今日は土曜日。バスに乗り遅れるという心配がないだけ、いつもよりも気は楽な気がする。まぁ、一番危険なのは週明けの月曜日なのは言うまでもない。


 月曜日……大学……にしても、あいつが来たのは想定外だった。


 不意に思い出すのは昨日の出来事だった。

 アイちゃんとの出会いから、千那を交えての買い物。なんとも濃厚な1日だった訳だが、結果的になんとも言えない満足感と楽しさに溢れていた。そう、最後にあいつが現れなければ。


 風杜雫。

 その登場に、アイちゃんが家族と合流できた感動が霞んでしまった。


 少し距離を取っていたのだが、フェリスちゃんから話を聞いたであろうあいつが、俺と千那の方へ顔を向けて深々とお辞儀。

 その行動自体の意味が分からなかったものの、俺としては正直早くこの場を去りたい。そう思い、フェリスちゃんとアイちゃんへ最後に声を掛けると早々にその場を後にした。


「にしても、まさかあんな繋がりだとはな」


 フェリスちゃんとアイちゃんが姉妹なのは分かった。

 ただ、どう考えても意味が分からない風杜雫との関係。

 それらが分かったのは、帰宅後に真也ちゃんから話を聞いてからだった。


 フェリスちゃんが黒前で居候しているのは、黒前高校でバスケ部の監督をしている不思木さんの家。

 その不思木さんの奥さんが、フェリスちゃん達のお母さんと姉妹だそうだ。

 今回、黒前に居候しているフェリスちゃんの様子の伺い+お姉さんに会いに来たという流れで、アイちゃんも付いてきたという事らしい。


 その関係性が分かれば、色々となるほどと言わざるを得なかったのだが、問題は風杜雫だった。

 俺達は先に帰ったものの、真也ちゃんはフェリスちゃんと仲が良いという事もあって必然的に風杜とも話をしたらしい。


 そこで分かったのが、風杜雫の母親と不思木さんが兄妹である事。

 それを聞いた瞬間、なぜ風杜が黒前に居るのかという疑問が一気に解決した。

 おそらくあの一件の後、あいつが頼ったのが伯父さんである不思木さんだったんだろう。


 アイちゃんとの関係は、それこそ妹の様に感じるほど嬉しいものだった。ただ、その影にあいつがチラつくとなると、素直に喜べなくなる自分が居る。


 はぁ……


「やっほ。太陽君」


 なんて考えていると、不意に声を掛けられた。その声はもはや見ずとも誰なのかは分かる。

 視線を向けると、やはりそこには千那が居た。


「あっ、千那」

「掃除終了?」


「あぁ、ちょっと休憩中」

「お疲れ様~。そういえば太陽君。昨日は凄かったね?」


 確かにものすごい1日だった気がする。


「そうだな。自分でもまさか迷子と一緒に映画見るなんて思いもしなかった」

「だよねぇ? 最初連絡来た時びっくりしたもん」


「結局、見知った人の家族だったってのも込みでな?」

「ふふっ。しかも前に様子を伺ってた女の子がお姉ちゃんだったしね?」


「こう考えると、意外と世間は狭いんだなって思うよ」

「分かる分かる! 全く知らない人でも、色々辿ったら実は……みたいなね?」


 俺は別の意味でも、そう痛感させられたよ。


「でもまぁ、千那が来てくれて本当に助かった。ありがとう」

「昨日から何回言うの~? ふふっ。お役に立てて光栄です」


 そう言いながら笑みを浮かべる千那。日の光に照らされ、輝いて見える表情を目の当たりにすると……風杜の事なんて今更気にする必要ないのだと心が安らいだ。


「そういえば、アイちゃんからストメ来た?」

「あぁ、バッチリ日本語でな?」


 これもまた、帰宅後に真也ちゃんから聞かされたことなのだが、どうやらアイちゃんは俺達とストメの登録をしたかったそうだ。ただ、それを伝える前に俺達が帰ってしまったという事で、真也ちゃんに白羽の矢が立ったらしい。

 別に俺としてはアイちゃんと友達になるのは何の問題もない。快く友達登録をした瞬間、アイちゃんからお礼のメッセージが届いた。


 まさかフェリスちゃんとも友達登録することになるとは思わなかったけどな。


「アイちゃんもフェリスちゃんも、日本語上手だよね」

「だな。尚更英語で話し掛けてたのが恥ずかしい」

「ふふっ。私も~」


 そんな話を交えながら、ゆっくりと時間は過ぎていく。

 とは言っても、1日中こうしている訳にはいかない。ある程度の区切りをつけると、俺は玄関前の掃除の為に、千那も厨房へ用事があるということで一緒に1階へと足を運ぶ。

 もちろん、その間も何気ない雑談は続いていた。


「じゃあ、俺玄関前の掃除してくるよ」

「うん! 頑張ってね?」


 千那と別れた俺は、いつもの様に玄関前の掃除を始める。玄関前と言ってもその範囲は結構広い。ましてや落ち葉が目立つ時にはそれなりの時間が掛かってしまう。

 地味にキツい仕事だが、これもまた自分が必要とされているのだと思うと力が入る。


 それにしても、今日は落ち葉が多いな……ん?


 こうして掃除に精を出していた時だった。ふと、誰かがこちらに近付いてくるのが見える。

 太陽に照らされると、綺麗に輝く金髪の髪の毛。

 一本結の髪形にパンツスタイルのスーツはその足の長さが強調されていて、まるでモデルの様な容姿だった。


 思わずアイちゃん達のお母さんではないかと思ったが、昨日の話だとアイちゃん達のご両親が青森に来るのは今日のお昼過ぎ。


 ……じゃあ、誰なんだ?


 そんな疑問を感じたものの、お客さんの可能性もなくはない。実際、お昼前に荷物を置きに来て、観光に向かう人も結構いるらしい。

 ただ、今は映画関係者達で貸し切り状態のはず。そうなると、ますます目の前に近付く人の正体が気になってしまった。


 いや、なんにせよ旅館に用事のある人かもしれない。とりあえず声を掛けるべきだよな?


 そう思い、思い切って声を掛ける事にした。


「こんにちは。宮原旅館へご用ですか?」

「あっ、こんにちは。旅館の方でしょうか」


「はい。バイトですが」

「そうなんですか。実は以前娘がこちらを利用させていただき、いたく気に入ったと聞かされまして」


「そうなんですか?」

「えぇ。そんな折出張で近くに来たもので、一目見たいと思い足を運ばせていただきました」


 うお、こうやって宮原旅館の人気は広まっていくのか……


「それは嬉しい限りです」

「本来であれば事前に連絡すべきでしたのに、今朝急に思い出しまして……突然の訪問すみません」


「全然ですよ。ちなみに娘さんはいつ頃こちらをご利用に?」

「つい最近と言っておりましたね? 家族には自慢話の様に宮原旅館さんの事を言っております」


 つい最近? その最近って人によって捉え方がマチマチだよな? 本当に最近なら映画関係の人達の貸し切りだったぞ?


「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね」

「えっ?」


 そう言うと、その女性は慣れた手つきで名刺入れを取り出した。そして丁寧に俺へと差し出す。


「改めまして私、アパレルブランド株式会社KARASUMAで紳士服部門を担当しております。総合部長の井上(いのうえ)撫子(なでしこ)と申します」


 ……アパレル? ……部長? ……いやいやその前に、撫子って……外見と名前合ってなさ過ぎじゃないですかね!?


「宜しくお願い致します」

「あっ、えぇと……こっ、こちらこそ……」




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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