132.静穏と青天の霹靂
……なんて良い光景なんだろう。
千那とアイリスちゃんもとい、アイちゃんの後姿を眺めながら、俺はしみじみそう思っている。
黒髪とブロンドヘアのコントラストはもちろん、どちらもルックスのレベルが高いだけあって、並んでいるだけで絵になっている。
来慣れた駅前の商業施設さえ、都会にいるのではないかと錯覚させてしまう程だ。
にしても、出会って数分でここまで仲良くなれるものなのか?
手を繋ぎ、何やら楽しそうに話す2人の姿にふとした疑問が浮かび上がる。これもまた千那の雰囲気のおかげなのだろうか。とはいえ、来てくれた事は本当に嬉しい限りだ。
「太陽君~、アイリスちゃんアニメのグッズ見たいって~」
「了解~」
こうして、2人の女神+一般市民というなんともアンバランスなメンバーが最初に訪れたのは、メルヘンな雰囲気のなお店。なんでも女子達が好むだろうアニメグッズが売っているらしいのだが、男が入るにはなかなか勇気が要る店内に千那が居てくれて安心した。
入り口から2人の光景を眺めていても、アイちゃんは心底楽しそうな様子を見せている。
「見て~タイヨー。ティナが買ってくれた~」
それに千那がアニメのキャラクターのキーホルダーを買ってあげたらしく、アイちゃんのテンションは上がりっぱなし。
「良いのか? 千那?」
「うん! なんか無性に買ってあげたくなっちゃってね? ふふっ」
どうやら千那も、アイちゃんの魅力にやられたようだ。
なんて俺だけではない事に安心していると、急にアイちゃんが顔を俯かせる。何事かと思い聞いてみると、
「ごめんなさい。お腹が……」
お腹を押さえる仕草に焦りを感じた。
ぐぅ~
すると聞こえてきたのはお腹の音。
まさかの空腹という展開にホッとしたが、余程恥ずかしかったのか手で顔を隠すアイちゃん。どこかで昼ご飯を食べようかという提案をすると、瞬く間に笑顔がお目見えする。こうなったら、俺達2人はイチコロだ。
それにしても、さっきポップコーン食べてたよな? いや、育ち盛りなら仕方ない。
「じゃあ、行こうか? アイちゃん」
「うん!」
こうして俺達は飲食店が立ち並ぶフロアへと足を運ぶ。どうやら平日ともあってさほど混んではいない様子だ。
「アイちゃんはどこで食べたいの?」
千那が聞くと、アイちゃんが指さしたのはいわゆるファミリーレストラン。店内へ足を運ぶと、すんなりと席へ案内された。
メニュー表に目を輝かせるアイちゃんの姿に、子どもが居たらこういう雰囲気なのかと思うと、自然と笑みが零れる。
「ん? どうしたの? 太陽君?」
「えっ? なんでもないよ」
上手くごまかしながら、俺達もメニュー表へと目を向ける。
結局、俺はお得なAセット。千那はパスタセット。アイちゃんはお子様ランチを注文。食後のデザートを提案すると、2人共即座に反応する辺り、女の子とスイーツの強い関係性を目の当たりにした。
いざ品々が届くと、より一層目を輝かせるアイちゃん。美味しそうに頬張る姿は可愛らしく、口に付いたケチャップをそっと拭いてあげる千那の行動は微笑ましく見えた。
一瞬、千那とのこういう光景を想像してまっただなんて、絶対に口が裂けても言える訳ない。
ご飯自体も美味しく、時折話をしながらのお昼は身体的にも精神的にも満足感で一杯なものだった。
まぁ、会計の際に千那とひと悶着があったけど、無事に俺が全額払う事に渋々千那が応じてくれた。
俺の為に来てくれたからにはご飯を奢るのは当然だと思ったのだが、千那的には俺がすでに映画代諸々使ってるから私が出すというスタンス。最終的に割り勘という案を出されたが、ここは男を立てて欲しいと思い押し切った形だ。
そんなこんなで食事を美味しく頂いた俺達が、次に向かったのはゲームセンター。これもまたアイちゃんの要望だった。
たくさん並べられたクレーンゲームや色々なゲーム機に目を輝かせ走り回る姿に、迷子にならない様に追いかけるのは意外と体力を消耗する。
そんな事をしていると、アイちゃんがあるクレーンゲームの前で立ち止まった。どうやら大きなクマのぬいぐるみに心を奪われたようで、
「これ欲しいの?」
「うん……」
そう言われたら、もはや取るしかない。
千那と交互にプレイすること数十回。ようやくこちらへやって来てくれた大きなクマ。
「ありがとう! ティナ! タイヨー!」
使った金額以上の何かを貰えた気がする。
ヴーヴー
ん? なんだ?
そんな時だった。なんとか無事にクマが取れたところで、スマホのバイブに気が付く。思わず手に取り画面へ目を向けると、そこには店長の名前が表示されていた。
【家族と連絡が取れた。今からゴースト来てくれることになったから、いつでもいいぞ? 従業員用の入り口に来てくれ】
その内容には心底安堵した。ただ、アイちゃんと遊べるのも終わりかと思うと、少し寂しい気がしてしまったのも事実。
とはいえ、家族と再会が第一。俺は千那へ、店長からのメッセージを伝えた。
「そっか! 良かった。アイちゃんに伝えるね?」
「あぁ」
「ねぇアイちゃん……」
こうして俺達は、ゴーストに向かって歩き始める。
なんというか、出会って数時間しか経っていないのに、昔から知り合いの様な気持ちを覚えてしまっていることが不思議でならない。
もしかしたら、子どもに向けるような感覚なのだろうか。それとも親戚の子といった方が正しいのだろうか。今の自分にはどれが正解かどうかは分からないが、なんにせよどこか満足感で溢れている。
「タイヨー。クマさん持ってくれない?」
「あぁ良いよ」
そんなお願いに、手渡されたクマのぬいぐるみをそっと受け取る。するとアイちゃんが優しく左手を握ってくれた。
ん? アイちゃん?
その行動に思わず視線を移すと、アイちゃんは俺に向かって頷く。そして今度は千那の右手を握り始めた。
俺と同じように驚いた様子でアイちゃんを見つめる千那。
「行こう?」
笑顔でそう言いながら、歩いていくアイちゃんに引かれるように、俺達は一直線に並んでゴーストへと向かって行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
なんとも癒される時間を堪能しながら、ゴーストへと辿り着いた俺達。
もうすぐ着く事を店長に連絡して置いたおかげが、従業員入り口前には家族らしき人影があった。
「アイリス!」
俺達の姿が見えた途端、アイちゃんの名前を呼ぶご家族。ただ、その姿にはどこか見覚えがあった。そしてその隣に佇む店長と、もう1人の人影もまた……
ん? あれ? この人、算用子さんに言われて様子を見ていた金髪の子じゃ……って、なんでここに居るんだ? 真也ちゃん!
見覚えどころか、がっつり知り合いだった。
「フェリス~!」
そう言いながら、走り出すアイちゃん。本来なら再会に感動するのだろうけど、俺としてはそれ以外の事が気になって仕方がない。
「なぁ、千那? あの人、算用子さんに依頼された……従弟の彼女さんのフェリスちゃんだよな?」
「うん。しかも真也ちゃんも居るし……アイちゃんの家族ってフェリスちゃん?」
どうやら千那も同じ様子の様で、まさにポカンとしているという表現が正しいのかもしれない。
「バカ! 心配したんだからね!?」
「ごめんなさい~フェリス~」
「しかもアイちゃん、日本語ペラペラじゃね?」
「……うん」
「……なんか英語で話してたの急に恥ずかしくなってきた」
「大丈夫、私もだよ?」
「……ははっ」
「……ふふっ」
顔を見合わせると、思わず笑みが零れてしまっていた。
こうして何とか家族との再会を果たしたアイちゃん。しかしながら俺達にしてみれば色々と謎な部分が多いとあって、色々と真也ちゃんや店長らに話を聞く事にした。
事の顛末はというと、ずばりアイちゃんはフェリスちゃんの妹。そもそも明日フェリスちゃんに会う為にご両親と一緒に来る予定だったそうだ。ただ、アイちゃんがサプライズをしたいと言ったそうで、1日早く1人でやって来たらしい。飛行機やら電車と言った乗り物関係の利用は全く問題なかったものの、道中暇でスマホの充電がなくなってしまった。
結果として、フェリスちゃんへ会う為の色々なメモが見れなくなってしまい、一気に不安に襲われて人に聞く事も出来ずにあの案内図の前で立ち尽くしていたらしい。
結局スマホの充電が完了し、最初に表示されたメッセージの相手がフェリスちゃんだったそうで、店長が連絡。黒前高校が近くという事で、来てくれる事となったそうだ。
そして転校してきて以来、フェリスちゃんと仲が良い真也ちゃんが店長と知り合いという事もあって、一緒に来てくれたらしい。
ちなみに日本語の件については、俺が翻訳アプリの後に英語で話した事。ゴーストに連れて行ったりと色々な出来事があった事などのおかげで、話せるという事実をなかなか言い出せなかったらしい。
まぁとにかく、知れば知る程なんとも繋がりのある人物だったと分かると、朝の緊迫した雰囲気が可笑しく感じてしまった。
「本当にありがとうございました」
何度も深々とお礼をするフェリスちゃん。こちらとしては、十分すぎる程の癒しを感じられたもので逆にお礼を言いたいくらいだった。
「ほら、アイリスもお礼言いなさい?」
「アイリスじゃないよ? アイちゃん!」
「アイちゃん?」
「可愛いでしょ? ティナがつけてくれた!」
「あは……ごめんね? 慣れてもらえるように愛称付けちゃって……」
「千那姉らしいねぇ」
完全な女子会雰囲気には、男の俺は入る隙がなくなってしまった。
けどまぁ、無事に再会できてよかったよ。
その後、とりあえず何ら怪しい事はしていないが、念の為今日の出来事なんかをフェリスちゃんへ報告。
話す度にお礼を言われ、挙句の果てにお昼代やら映画代なんかを支払うなんて言われたものの、そこは丁重にお断りした。
とはいえ、今後ちゃんとしたお礼がしたいという事で、千那と一緒に連絡先だけは交換した。もちろん、アイちゃんとも。
そんなこんなで、色々とあった1日。
その濃厚さを改めて感じていると、
「タイヨー、ティナ」
不意にアイちゃんに呼ばれた。
「千那と2人、しゃがんで?」
そして俺達の前まで来ると、笑顔を見せながらそう話すアイちゃん。どういう意味か良く分からないものの、とりあえず千那と一緒にその場でしゃがみこんだ。
すると千那の方へと向かって行き……
「ティナ? いっぱい遊んでくれてありがとう。素敵な名前考えてくれてありがとう。好きよ? ちゅ」
「わぁ、ありがとう」
なんとも可愛らしくお礼を告げ、頬へとキスをする。
横からの光景は、まさに眼福ものだ。
「ふふっ。タイヨー」
なんて考えていると、今度は俺の方へ近付くアイちゃん。
「声を掛けてくれてありがとう。いっぱい遊んでくれてありがとう。大好きだよ? ちゅ」
頬に感じる柔らかな感触。
まさか俺にまでそういう事をしてくれるとは思っていなかっただけに、正直動揺してしまった。
「うおっ。いっ、いや……俺こそありがとう」
「ふふっ」
ただ、目の前で見るその顔は、やはり笑顔が似合っている。
「アイリス~? ママから電話だよ?」
「は~い」
ホント、濃厚な1日だったな……
「行っちゃったね? 太陽君」
「まぁ、そうだな。千那、色々とありがとな?」
「全然だよ」
アイちゃんの走っていく背中を見ながら、3人で遊んだ光景を思い出し……思わず笑顔が零れた。
「フェリス! アイリスちゃん居たって?」
そんな余韻に浸っている最中、聞こえてきた声。
「あっ! そうなの。心配かけてごめんなさい」
会話的に知り合いか誰かなのかと思いふと視線を向けると、フェリスちゃんの方へとと駆け寄る人物が見える。ただ、その人物の顔が鮮明に見えたその瞬間……今までの温かい気持ちは一気に冷めてしまった。
「でも良かった~。店長もありがとうございますね?」
「全然よ~」
なんでフェリスちゃんと話している? 意味が分からない。なんでお前が居る?
「わざわざ来てくれてありがとう! 雫」
風杜……雫。
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




