130.デートwith金髪美少女
穏やかな風が体を包み、温かい日差しに照らされる。
そんな快晴の下、俺は公園のベンチに座って居た。そしてその視線の先には、
「うわぁ」
元気に走り回るアイリスちゃん。何とも微笑ましい光景なのだが、俺は焦っている。一体これからどうするべきかと。
店長の提案を信じ、とりあえずアイリスちゃんと遊びに出かける事になったまでは良かった。ところがそうと決まった途端に、開店準備諸々があるからと早々にゴーストを追い出されてしまったのだ。
流石にこの時間帯だと駅前の商業施設クロロンも開店前ということで、とりあえずやって来たのがこの公園。千那が酔っぱらってしまった事が記憶に新しい場所でもあるが、意外とアイリスちゃんの反応が良かったのは幸いだ。
それにド平日ということもあって誰の姿もない。いわば貸し切り状態に、アイリスちゃんも思う存分遊び回っている。
「タイヨー」
そんな声と共に今度はブランコに乗っているアイリスちゃん。やっと俺の事を信用してくれたのか、ここに来てついに名前を呼んでくれるようになった。もちろん嬉しいのはやまやまだし、心底楽しそうに手を振ってくれる姿は愛くるしいの一言だ。
だからこそ悩んでいる。ここからのプランと言うものを。
やべぇ……店長が親御さん達と連絡付けるまで、流石にずっとここにはいられないぞ?
時計を見れば9時前。ここ近隣の施設の営業開始時間は軒並み10時とすれば、1時間弱……やはりここで過ごすのは厳しい。
何かいい案はないものだろうか。朝早くから営業していて、子どもが楽しめる場所……
あっ!
その時だった、ふと頭に浮かんだ1つの案。思わずスマホを手にして検索をしてみると、予想は的中していた。
これだ……映画館!
駅前にある映画館。朝一の上映時間はどの作品も大体9時代ということで、良い時間つぶしにはなる気がした。それに今の時期は総じてアニメの映画が公開されている。中には世界的に有名な会社が手掛けた海外のアニメ映画も上映中とあって、アイリスちゃんにはぴったりだ。
そうと決まれば、さっそくアイリスちゃんへ聞いてみることにした。
「アイリスちゃん?」
俺の声を聞くと少し不思議な表情を浮かべて、こちらへとやって来たアイリスちゃん。そして俺の隣に座ると、首をかしげて俺の顔を覗き込む。
「アイリスちゃん。色々と遊びに行きたいんだけど、時間が早いんだ。でも、映画館ならもうすぐ営業が始まるからさ? 映画とか見に行かないかな?」
俺の問い掛けに瞬く間に表情が明るくなるアイリスちゃん。これは占めたと思い、映画館のホームページの上映中リストを画面に表示させる。あとは見たい映画を選んでもらうだけだ。
こうして自分のスマホをアイリスちゃんへ渡すと、流石にスマホの操作に慣れているようでスラスラと画面をスクロールしていく。そして少し経った後にその手がピタッと止まった。するとその画面を俺へと見せながら、アイリスちゃんは大きく頷く。どうやら見たい映画があったようで、第一関門は突破と言った所だろう。
その画面を見てみると、表示されていたのは意外や意外日本のアニメ映画だった。それも日曜日に放送されている女の子向けのアニメの劇場版。そのチョイスは理解できるものの、重要なのは日本のアニメと言う事だ。当然ここで放映されているからには、字幕版もなく音声全てが日本語。
「アイリスちゃん? この映画は日本のアニメのやつだから、声とか全部日本語だよ? 大丈夫?」
満面の笑顔で頷くアイリスちゃん。もはやその動作を前にして、違う映画を勧めるなんて野暮なことは出来ない。
仕方ない。希望通りの映画にするか。時間も……バッチリ9時15分のがあるな?
「じゃあ、これを見に行こう! 時間になったら教えるね?」
「ウンっ!」
思いがけない返事に一瞬驚いたのも束の間、瞬く間に遊具の方へと走って行くアイリスちゃん。
名前を呼んでくれ、返事までしてくれるようになった状況に嬉しさを感じてしまう。
これで楽しんでくれたら万々歳だよな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そんなこんなで公園で時間を潰し、やって来たのは映画館。商業施設クロロンに併設されているのだが、その営業時間は1時間ばかり早い。つまり俺達にとって最高の場所でもある。
こうして足を踏み入れたものの、やはり平日の朝一。お客さんの姿はほとんど見られない。むしろスタッフ達から一斉に視線を向けられているかの様に感じてしまう。
確かに傍から見れば変なペアに思われるだろう。一般人と金髪少女の組み合わせなら無理もない。それに加え、なぜかアイリスちゃんと手を繋いでいるのも関係しているのではないだろうか? これに関しては俺自身も良く分からない。そろそろ行こうと声を掛けた瞬間、袖口ではなく手を握って来たものだから必然的にこうなっている。
小さい女の子に手を握られて、跳ねのけるなんて邪道な行為は出来る訳ない。
こうして見られていると感じながらも、無事にチケットを購入。次に向かうのは映画館の定番であるフードとドリンクだ。
「アイリスちゃん? ポップコーンとかジュース買う?」
「ウンっ!」
はい。決定。なんでも好きなものを買ってあげるぞ?
正直、もはや妹の様な感覚に襲われている自分が怖かった。ただ、この可愛さで返事をされたら誰であろうと何でも買ってあげたくなるに決まっている。
なんて考えながら、メニューの書かれたモニター画面の前に到着すると、アイリスちゃんはこれでもかと言わんばかりに集中していた。
そして指を刺したのは、今回見る映画がデザインされたバケット付きのポップコーンだった。値段はそれなりなりにするが、上映中であればお代わり自由らしく食べる人にとってはお得なんだろう。アイリスちゃんからしたら単純に可愛いデザインが気に入ったのだと思うが……
「これ?」
もはや、この笑顔には逆らえない体になってしまったようだ。
こうして売店でお目当てのポップコーンとそれぞれ飲み物を購入すると、丁度開場の時間が訪れた。スタッフさんへチケットを見せ、シアターへ入ると指定の席へと腰を掛ける。
隣では黙々とポップコーンを食べるアイリスちゃん。時々俺にも差し出してくれるなど、その行動は嬉しい限りだ。
そんな事をしていると、徐々に暗くなる場内。こうして無事に映画がスタートした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ん~!」
久しぶりに目の当たりにする明るさと、思わず体を伸ばすと自然と声が零れた。
映画は無事に終了し、シアターから出てきたのだが……横で今だテンション高めに小さくジャンプをしているアイリスちゃんの姿を見ると、面白かったんだと安心する。
正直、日本語のセリフで楽しめるのか不安だったが、始まった瞬間釘付け状態だったアイリスちゃん。時折短い言葉を発しながらも、最後には満面の笑顔で拍手をしていた。上映中、5回はポップコーンのお代わりを貰いに行かされたのも仕方がないと思うことする。
いや、なんかカタカタ音がすると思ってアイリスちゃんを見たら、悲しそうな顔で容器見てたもんな。 そんな光景目にしたら取りに行っちゃうだろ。でもまぁ、喜んでもらえたらないいか。
「楽しかった?」
「ウンっ!」
満面の笑顔に、元気いっぱいの返事。握る手に少しだけ力が入る。
「タイヨー」
「ん?」
突然の呼びかけに視線を向けると、アイリスちゃんが首から下げたバケットからをポップコーンを1つ掴み、俺へと差し出してくれた。
おっ、ポップコーンくれるって?
「ありがとう。アイリスちゃん」
「えへっ」
こうなったら、とことん楽しませたいな。親御さんが来るまでの間、不安な思いをさせないように。
そう強く思いながら、俺は次にどこへ行こうか……頭を悩ませる。
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




