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121.渦中の人物

 



 天女目のおかげで知る事となった日城の件。

 思いがけない状況に、3人共何か思う所があるようだった。


 けど、俺と千那は理解している。どうしてこんな事になったのか。


 日城が千那の代わりに映画の出演を快諾したのは、盗み聞きで分かっていた。まぁ、その後千那と日城からも聞いた訳だけど。


 だからこそ、俺と千那の心情は3人とは違っている気がする。特に千那はその話題が出てから普通を装って講義を受けていたけど、どこか思いつめた雰囲気だった。


 こうして今日の講義も終わり、皆と分かれた俺と千那はサークルの為に体育館へと向かっている。

 3人が居なくなった瞬間、あからさまな表情になる千那。正直なんて声を掛けていいのか分からずにいた。


「やっぱり、私のせいだよね」


 ……想像通りの言葉だ。元を辿ればそうなのかもしれないけど……どう答える? 天女目が見せてくれたように、SNS界隈では結構話題になってはいるけど、予想に反して黒前大学構内で目立った噂にはなっていない気がする。騒々しさも、誰かの口からそんな話が出ている気配も感じない。

 そこからフォローするべきか。


「けど、大学内は静かじゃないか? 多分ネットでは話題だけど、いざ同じ大学だって分かると騒げないもんなんだと思う」

「だけど……あっ!」


 そんな千那の声に思わず視線を前に向けると、そこには渦中の人物であろう日城が歩いていた。


「あっ、日……」

「凛恋ちゃ~ん!」


 うおっ!

 姿を見た瞬間に、一目散にダッシュする千那。そのスピードは、流石バスケをしているだけあって凄まじいものだった。


「あっ、宮原先輩! 一昨日、昨日とお邪魔しました」

「それはいいの! それより大丈夫? ごめんね? 私のせいで」

「はえ? なんの事です?」


 ネットニュース知らないのか。という事は、やはり大学内や日城の周りでは話題に挙がっていない? もしくは話題にしたいけど遠慮しているのか。どちらにせよ、当人には教えておいた方がいいよな。


「よっ、日城」

「あっ、日南先輩! てか宮原先輩どうしたんですか?」

「実はね……」


 それから俺と千那は、SNSの件を日城に説明した。

 全国的なネットニュースに載っている事。

 SNSで日城の事が話題になってる事。

 そして黒前大学に通っている事や、名前をフルネームで知られる可能性がある事。

 想定外の出来事に、慌てるかと思って……いたのだけど、


「あぁ! そんな事になってるんですか?」


 当の本人は、なぜかケロッとしていた。まるで我関せずの様な雰囲気に、思わず張本人だよ! と突っ込みたくもなる。


「いやいや、結構話題だぞ?」

「ごっ、ごめんね~?」

「宮原先輩! 抱きしめないで……ぐっ、ぐるじぃ……」


「千那の気持ち汲んでやれよ。講義中も顔面蒼白だったんだぞ?」

「凛恋ちゃ~ん」

「いっ、いったん落ち着いてください!」


 とりあえず千那を宥めると、日城は息を整えていた。

 こちらとしてはご褒美にしか見えないものの、日城にとっては結構辛かったのだろう。それだけ千那の焦りと言うかなんというか……そんな気持ちも分かる気がした。


「はぁ。あの先輩? 落ち着きました?」

「はいぃ」


「あのですね? こういう事になるのは、想定済みなんですよ?」

「えっ?」

「そもそも、自分で代役やるって言った後に三月叔母さんに言われたんです。以前の先輩の件もあるし、場合によっては騒がれるって。それにニュースの取材の時だって、地方のニュースとは言え今はSNSが発達してる。全国的に広まる可能性もあるけど大丈夫かって、釘刺されたんです。全部承知の上なんですよ?」


 そっ、そうなのか?


「えっ、そうなの? でも……」

「幸い、大学内では変に詮索されてないですよ? まぁ本人かどうか分からないってのもあるかもしれませんし、遠慮してるかもしれませんから……時間の問題かもしれないですけどね?」

「いや、だったらなおさらマズくないか?」


「何がです?」

「だって、その……凛恋ちゃん色々と大変になっちゃう」


 それもそうだし、今以上の騒ぎになったら大学も黙っちゃいられないんじゃないか?


「だな。それに大学側から何か言われる可能性もある」

「その点については大丈夫ですよ? 今日の午前中に、理事長の所へ行って挨拶してきましたから」


「えっ?」

「はい?」

「いやぁ、こうなると三月叔母さんの対応は凄いですよ。昨日、もしもの事があるから、朝一で大学ね? アポはもう取ってあるから。なんて言われて、挨拶してきたんですよ? そしたら想像以上の反響みたいですね」


 念には念をって事か? それにしても鯉野社長、フットワーク軽すぎだろう。


「あれ? じゃあ大学側も知ってるんだよね? その、なんて言ってたの?」

「いやぁ、なんか理事長ノリノリでした」


 ……えっ?


「ノリノリ?」

「もしそうなれば、何はどうあれ大学の宣伝にもなりますなぁ。関東圏の大学ならまだしも、本校でそういう芸能活動をするって学生は居なかったもので。もちろん、学業に支障がなければサポートしますよ?   場合によっては、不審者等にも気を付けないとですね? だそうです」


 理事長? なんか色々と思惑がありそうな雰囲気なんですけど……


「ほっ、本当!? 良かったぁ。退学にでもなったらどうしようって思っちゃったよ」


 じゅっ、純粋に信じてるの!? 千那!


「ですよね? だから宮原先輩? 全然気にしないでください? 逆に私のせいでサークルの皆さんに迷惑かけるかと思って……」

「大丈夫。何かあったら、私がフォローするから!」


「ありがとうございます。じゃあ先輩? 行きましょう?」

「うん。行こう行こう」


 学生に有名な子が居るとなると、必然的に学校の宣伝にもなる。フォローを込みでもそっちの方が有益って事か。理事長の考え方が上手いんだか、私利私欲にまみれてるのかは分からないけど……とりあえず大学側の問題は大丈夫そうだな。


 だったら、あとは身近な部分。日城にしてみれば、サークルとバイト先か。

 とりあえず、最初はサークル……皆どんな反応するんだ? いい迷惑だ! とかってならなきゃいいんだけど……




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「……という訳で、皆さんにご迷惑掛けるかもしれません。すいません!」


 サークルが始まる前に集められた面々。

 事の事情を説明し、もしかしたら日城が所属しているサークルのメンバーという事で迷惑を掛けるかもしれない。そんな日城の言葉が響いた。


 俺としては、皆の反応が少し気がかりだ。

 バスケをする環境に影響があると思われないか。

 いらぬ来訪者に嫌な思いをしないか。

 考えれば考えるほど不安の種は……


「えっ? すごくね?」


 ん?


「そうそう。映画出れるだけすごくない?」

「私、ネットで話題の大学生の先輩になるって事じゃん?」

「私も私も!」

「ちょっと凛恋? せめてタメの私達には日中にでも教えてくれて良くない~? まぁ、むしろ自慢できるから全然おっけー」


 あっ、あれ?


「日城は、マネージャー続けてくれるんだよね?」

「皆さんが良ければ、今まで以上に頑張りたいと思ってます!」


「だとしたら、黒前大学バスケサークルの名前も全国的に広まるんじゃないか?」

「日城目当てで加入者増えるんじゃない?」

「もっと日城が有名になったら取材とか!?」

「やっべ、今から緊張してきた」


 なんか、皆さん……俺の想像と違う反応なんですけど……?


「やったね? 凛恋ちゃん!」

「はいっ! 宮原せ……ん~! いきなり抱き着かないでくださ~い!」


 あの……大丈夫か? 黒前大学。

 大丈夫か? 黒前大学バスケサークル!




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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