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120.想定外と想像以上

 



「「「はぁ? 宮原旅館で住み込みのバイト!?」」」


 どこか懐かしい教室に響く、どこか懐かしい3人の声。

 少し驚きすぎじゃないかと思ったものの、想像以上の表情と熱い視線を向けられると、そうでもないのかと感じてしまう。


 久しぶりの講義で、久しぶりに皆と再会したからには各々の話を聞きたいものだけど、俺の何気ない一言がそれを許さなかったらしい。


「いや驚いた。まさかゴールデンウィーク中に、家の近くに居たなんてな。分からなかったぞ」


 いや、ごめんよ千太。実家の酒屋さん宮原旅館の近くだもんな。仕事に慣れるのに必死で教えてなかった。


「いやぁ。でも、とりあえずバイトが決まって良かったねぇ」


 天女目。ゴースト辞めてから結構心配してくれてたもんな。


「まさか宮原旅館とはねー。私も初耳だしー、驚いちった」


 マジか? てっきり算用子さんには千那が教えてたかと思ってた。


「とりあえず、期間限定だけどそんな感じでバイト決まったんだ」

「とりあえずにしては、急展開過ぎるだろうよ!」

「そうだよぉ。せっかくだし、温泉旅館の仕事内容なんか聞きたいなぁ」

「それ気になるー。千那とは別な仕事なんでしょー? 朝早いのー?」


 来るわ来るわの質問の嵐。

 あの3人共? 他の人達もなんかこっち見始めてるんですけど。少し落ち着きませんかね?


 そんな心の叫びが届いたのか、ようやく救世主が現れた。


「やっほー、皆久しぶり! あれ? なんか盛り上がってない?」


 あぁ、千那様。ナイスタイミング! 

 このまま質問の矛先が、千那に向かってくれれば少しは落ち着くだろう。そう考えると少しだけホッとした。


「あっ! こらー千那? 話聞いたぞー? 日南っち宮原旅館でバイトしてるんでしょー?」

「目と鼻の先なんだし、俺には教えてくれても良かったんじゃね? 合間に遊べたかもしれないぞ?」

「まぁまぁ2人共、色々とあったんだよぉ? きっと」

「えっ? あのちょっと……」


 席に座る間もなく、千那に向けられる質問。

 内心、申し訳なく感じつつも……俺は一息つくと講義の準備をしようと鞄を探した。


「いつからー?」

「ちゃんと教えてくれよ」

「どんな感じなのぉ?」


 あぁ、千那悪い。講義終わったら俺もちゃんと説明するから、とりあえず久しぶりの講義に向けて準備を……あれ?


「ストップストップ! もう講義始まりそうだから、終わってからね?」

「絶対だよぉ?」

「分かりー」

「ったく。ん? どした太陽?」


 嘘だろ? マジか?


「教科書……というより、鞄自体…………忘れた」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 講義の合間のラウンジは多くの生徒でにぎわっていた。そんな中、


「はっはっは、流石だな太陽! 大学始まって早々に笑わせてもらった」

「千太くん? 流石に笑い……ふふふっ」


 これ見よがしに笑う2人。

 そんな2人を前に、俺は恥ずかしさに打ちひしがれている。


「ちょいちょーい! 笑いすぎだってー。まぁ面白いけど」

「もう! 3人共?」


 はぁ……こればっかりは、ぐうの音も出ない。

 意気揚々と大学へ来たまでは良いけど、まさか教科書一式を準備した鞄を忘れるとは思いもしなかった。幸い千太の教科書を一緒に使い、天女目の予備のノートを貰い、算用子さんからシャーペン、千那からマーカー等々を借りられた事で、講義自体は乗り切ることが出来た訳だけど、どうにもこうにも何も持たず大学へ来た自分の姿を想像するだけで恥ずかしくてヤバい。


 けど、とりあえずお礼は必要だ。


「ごめんよ? お詫びにお昼は奢らせてくれ」


 歓喜の声を上げる男性陣に、申し訳なさそうな様子の女性陣。

 女性陣の慎ましさを見習ってほしいとは思ったけど、災難を乗り越えられたのなら安いものだ。


 こうして本日のお礼が決定したところで、話題は俺の忘れ物事件から住み込みのバイトへと移った。

 宮原旅館の状況やら、真也ちゃんからの紹介やら……特に旅館については声を大にして言えない部分もあったけど、思いの他みんなの理解は早い。


「そんでバスと電車使って通学したって訳か」

「よく財布は持ってたねぇ」

「財布なかったら、石白駅に着いた時点でヤバかったよ」


「不幸中の幸いって思えばー、大丈夫っしょー」

「うん。それに真也ちゃんも居たんだし、最悪何とかなったはずだよ」


 ……あぁ、皆のフォローが温かく感じるよ。


「遅刻できないスリルはあるよな。てか、言ってくれりゃ大学まで車乗せてやったのに」

「それは千那にも透也さんにも言われた。気持ちだけでも嬉しいよ。でもそこまで甘えられないからさ?」

「もう、良いって言ってるのに太陽君てば、大丈夫の一点張りなんだよ?」


「まぁ太陽が決めたんなら、俺達がこれ以上ああだこうだ言う資格はないからな。まっ、なんかあったら言ってくれよ?」

「サンキュー千太」


 なんだかんだ言って、皆優しいんだよな。

 なんて少しだけ恥ずかしさが癒えたところだった。不意に天女目の口が開いた。


「そういえばさぁ? 昨日ニュースで、式柄森監督の撮影風景映ってたよねぇ?」

「あー、知ってるー!」

「その時に映ってた子、黒前大学の子だって噂なんだけど本当なのかなぁ? 確かに見覚えはあるんだけどぉ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず千那の方へと視線を向けた。すると同じタイミングで千那と目が合った。おそらく思っている事は同じに違いない。


 待て待て? 黒前大学って……確かにニュースに映っていたのは、日城が撮影をしているシーン。でもそれだけで? てか、なんで特定されてるんだ?


「おいおい、光! それマジかよ?」

「うん! ほら!」


 そういうと天女目はスマホを取り出し、ある画面を見せる。そこにはネットニュースの記事が書かれてあり、昨日の件について掲載されていた。

 地方のニュースだったにも関らず、なぜ全国的なネットニュースに? なんて疑問が浮かんだものの、天女目が次に見せたのはそのコメント欄だった。


 ❝式柄森監督の続編楽しみ❞

 ❝続編かぁ❞

 ❝今回も撮影は青森なんだな❞

 ❝撮影シーンで映ってた子だれ? 何役?❞

 ❝気になった。てか可愛くね?❞

 ❝分かる。顔整ってたよな?❞

 ❝おぉ、同志❞

 ❝地元の子なのか?❞

 ❝俺ちょっと青森行って来る❞


 最初こそ式柄森監督の話題だったのに、徐々にそれが日城の事へと変わっていた。


「マジか? 俺そのニュース見てないんだけど」

「えっとぉ、これだよぉ」


 そんな千太の言葉に、天女目はニュース映像をタップする。

 マジマジ見ると、確かに日城の姿は映っていた。顔や全身、セリフを口ずさむところまで。ただ、時間にしてはたったの一瞬だ。


「あれー? この子って……」

「算用子さんも分かったぁ? 僕もぉ、他人の空似かと思ったんだけどさぁ……」

「うん? マジか? 確かに可愛い様な気はするけど」


 千太はさておき、天女目と算用子さんの視線が、俺と千那に向けられる。

 おそらく、この2人は分かってる。天女目に至っては同じバイト先。しかしながら、言っても良いものかどうか迷っていた時だった。


「太陽君?」


 小さな声で千那が呟く。

 この2人なら……大丈夫か。


 俺はその声にゆっくりと頷いた。


「皆? 静かに言うからね?」

「うん」

「はーい」

「ん? どういうこった?」


「その人は1年の日城凛恋ちゃん。確かにワンシーンだけ出る予定なんだよ」

「やっぱりー? でも、だとしたら色々とまずくなーい?」

「やっぱりかぁ。ニュースでは一瞬だったから気にしなかったんだけどねぇ。こうやって何度も見てたら似てるとは思ってたんだぁ。ほら、SNSでも結構噂になってるよぉ」

「なにがなんだって?」


 SNS? いやまだ1日も経ってないのに……はっ?


 もう1度、天女目はスマホを操作し、画面をゆっくりとスワイプし続ける。

 それは某SNSアプリで、有名も有名なものだった。そしてその画面を見た瞬間……俺は思わず声を漏らしていた。


「うそ……だろ……」


 ❝現地の子じゃない?❞

 ❝映画に参加してるプロダクションの所属タレント探したけど、どこにも載ってないな❞

 ❝地元確定。にしても可愛いな❞

 ❝スタイルも良いし、声も可愛い❞

 ❝高校生か? 大学生か?❞

 ❝最近の子は大人びてるからな❞


「ちなみにぃ、こっちのサイトにはもう熱心なファンが出来たみたいだよぉ?」


 ❝地元で映画撮影だって!❞

 ❝女の子可愛くね?❞

 ❝なんか、見た事ある気がする❞

 ❝黒前で見かけたような❞

 ❝うちの大学に似てる子いるっ!❞

 ❝誰誰?❞

 ❝詳細希望❞

 ❝確か、黒前大学の1年。構内で見た事ある気がする❞

 ❝あぁ、やっぱり?❞

 ❝まって、これ日城って子じゃね?❞


「まっ、まだ1日も経ってないのに? 名前だってニュースには出てないのに?」

「うわー特定? いやー、夢中になるのはいいんだけどー、ヤバくね? 人気になるのもー、禍福は糾える縄のごとしって感じだよねー」


 ニュースの反応で、映画と日城の関心が高まったのは分かる。

 ただ、それに応じて予想外だったのは日城への関心。

 確かにその容姿は、先輩の俺から見ても可愛い部類だろう。けど、ここまで一気に広がるものなのか?


「ちょ! いったいどういう……」

「千太ー、ちょい静かにー」

「これってさぁ? 結構凄いけどぉ、結構ヤバいよねぇ」


「やばい?」

「うん。ここまで注目されたらぁ、大学とかに色々と影響あると思うよぉ? まぁ1番心配なのは日城さん本人なんだけどさぁ?」


「千那……」

「太陽君……」


 俺は……いや、俺達は想像もしていなかった。

 そして、甘く見ていたのかもしれない。


 SNSの影響力を……




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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