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118.先駆者の言葉

この度、第5回一二三書房Web小説大賞にて『銀賞』を戴きました。これからも頑張りますので、宜しくお願いします。

 



 一段と騒がしさを感じる宮原旅館。

 その現場となっている大宴会場と厨房の往復を終えた俺は、ロビーの椅子に座っていた。

 最初は休憩の時ですら、足やらどこかしらが悲鳴を上げて項垂れていた。そう考えると今ではこうして色々と考える余裕が出来ているのは成長だろうか。

 それにしても皆さんの大盛り上がりには慣れたつもりだったけど、今日のそれは一段と凄かった。


 盛り上げってるなぁ。まぁ、日城のお陰だと思うけど。

 昨日の突然の宣言から一夜明けた今日。なんと本当に日城は皆さんと一緒に撮影に行ってしまった。ちなみに日城が演劇やらそれ系を嗜んでいるかは分からないけど、おそらく可能性は低い気がする。

 もちろん千那の代わりに引き受けてくれた事は嬉しかったものの、本当に素人と思われる日城で良いのか不安も感じていた。まぁ俺なんかが心配するのもおこがましいんだけどさ? 


 ただ、現場から帰って来た皆さんの雰囲気はかなり良かった。君島さんに聞くと、ワンシーンとは言え抜群の演技で監督さんがべた褒めだとか。

 それに式柄森監督が撮影をしているという事で、地元のテレビ局が取材に来たらしい。撮影の成功と宣伝効果の結果がこれなんだろう。大宴会場では備え付けの大型テレビで取材を受けたニュースを見ていたそうで、日城を中心に大盛り上がり。実に楽しそうだった。

 それにしても、日城にそんな才能があるとは。


 なんてしみじみ思いに耽っていると、ふと壁に掛けられた大きなカレンダーが目に入った。連続した赤い数字は綺麗そのものだったけど、突如として現れる黒い数字。それを見て少なからずガッカリとした気持ちに襲われてしまう。


「あぁ、今日で連休も終わりかぁ」


 長いようであっという間だったゴールデンウィーク。名残惜しい気はしたけど、そろそろ本業に戻れという神様からの通達なのかもしれない。

 仕方がなく、俺は現実に目を向ける事にした。


 そもそも、ここでの住み込みのバイトは5月の中旬頃までする予定だ。もちろん、大学が始まってからの働き方なんかも織り込み済み。


 ここから大学へ行き、戻ってきたら旅館を手伝う。

 サークルがある日は実質バイトは休み。

 食住と実質的なバイト時間を計算したバイト代をいただく。


 俺としては何とも好条件のバイトだ。特に食の部分はかなり大きい。それに提示された時給も結構なもので、最初は食住込みでこれでいいものか、透也さん達の計算が間違ってるんじゃないか焦ったものだ。

 結果として、こうしてお世話になっている訳だけどさ?


 しかしながら、問題はそこじゃない。

 ずばり、ここから大学までの通学だ。


 透也さんはもちろん、千那も車で送ってくれると言ってくれた。正直、双方の提案は滅茶苦茶嬉しいし、魅力的なのは間違いない。それに通学の度に千那と2人きり……さしずめ、ドライブデートの状況なんて最高だ。


 けど、ただでさえ好条件のバイトという事でそこはお断りした。それにバスと電車を使えば行けない訳じゃない。なんたって、その前例が……


「あら、休憩中? 太陽君」

「あっ、若女将!」


 そう、この人なんだよ。


「こらっ、その若女将っていうの止めてって言ったでしょ~? お客さんに言われるのもこそばゆいんだから」

「すいません。真白さん」


 透也さんの奥さんで、真也ちゃんのお母さんである真白さん。

 まさしく大学生の時、今の俺の様に住み込みでバイトをしていたらしい。しかも大学は黒前大学で、通学方法はバスと電車の併用。

 透也さんと同い年で同じ大学、講義もほぼほぼ一緒にも関わらず、透也さんの運転する車にはよっぽどの事がない限り乗った事はないそうだ。


 ……これはチャンスでは? ある意味住み込みバイト及び通学の先駆者が目の前に居るんだし、色々と聞いて参考にしよう。


「分かればよ~しっ。そういえば何か考え事?」

「あの……実は明日から大学始まるじゃないですか? それでバスやら電車やらの時間とか調べなきゃって思いまして」


「あっ、そういえば今日で休み終わりだもんね。ふふっ、なんか懐かしいな」

「あの、時間帯とか気をつけなきゃならない事とかあったら、教えていただきたいんです」

「もちろんだよ。私なんかで良かったら」


 こうして、偉大な先駆者による通学講座の幕が上がった。

 俺の素朴な疑問に、笑みを浮かべながら答えてくれる真白さん。どこか昔を思い出して懐かしむような雰囲気に、自分でもよく分からないくらいに饒舌だった気がする。

 それにしても真白さんはやはり凄い。いくら自分でも通っていたとはいえ、バスや電車の発車時刻をスラスラ話せるとは。それに真也ちゃんも電車で高校まで行ってるから、今現在の出発時間も把握済みとは。

 1コマ目ならバスはこの時間で電車はこの時間。それぞれの開始コマ数に合わせてベストな発車時間を教えてくれた。さすがに全部を暗記なんてできなくて、スマホにメモをしたけど……頭の中にあるのは経験の賜物だろう。


 ちなみにバスに乗り遅れたら1時間。電車に乗り遅れたら30分は待たなきゃいけないという、最大級の警告を聞かされた時は身が引き締まった。想像するだけで冷や汗が止まらなくなるのは間違いないだろう。


「ありがとうございました!」


 こうして、なんとも有意義な講座を受けた俺は真白さんへ感謝を口にする。もちろんお世辞なんかじゃなくて、俺の知りたい事・不安な事を全て聞く事が出来たのは事実だった。


 やっぱり凄いな……


「全然だよ? ……ふふっ」

「真白さん?」


「ごめんごめん。なんかね? 私と太陽君って似てるなって思っちゃって」

「似てる?」


 残念ながら、自分としては真白さんと似てる部分なんて思い当たらないのですが? 頭も良くないですし、要領も悪いですし、容姿も平均的だと思いますよ。


「うん。だって同じ大学で、同じく住み込みのバイト、通学の仕方も同じ。それだけで共通点多いじゃない?」

「確かにそうですけど……」


「それに私も出身は東京なんだよ?」

「そうだったんですか?」


 確かに言葉がきれいなのは分かってたけど、まさか東京出身だとは思わなかったな。


「うん。そして宮原旅館に同じ歳の子が居る。しかもその子のお誘いをお断りしてるところとか……なんか昔の自分を見ているみたいだもん」


 同じ歳……お誘い……そういえば、真白さんってどうして東京出身なのに黒前大学に来ようと思ったんだろう。

 それは素朴な疑問だ。自分には姉の存在があったからこそ、進学の選択肢に黒前大学が浮かび上がった。けど、東京……それこそ関東県内にも多数の大学は存在している。それなのになぜなのか……


「昔の自分ですか……そういえば真白さんはどうして黒前大学に?」

「それはね……あっ、太陽君と違うところが1つあった」


「えっ?」

「あのね? 私って、家族居ないの」


「家族が居ない?」

「あっ、その言い方あれだったかな。血の繋がった家族ね?」


 血の繋がった……って、そういう事か。


「宮原家じゃない……実家って言うのが正しいか分からないですけど……」

「そう。あのね、私が高校生の時に事故で亡くなっちゃったんだ。お父さんとお母さんと妹とお祖母ちゃん」


「えっ? それって……」

「家族全員で事故にあって、私だけ生き残っちゃたんだよね」


 ちょっと待って? なんかいきなりヘビーなんだけど? 真白さんの雰囲気からは全然想像できない過去なんですけど。


「そっ、それで……」

「めちゃくちゃ落ち込んじゃってね? ある時自分の何かがプツリと切れた感覚になって……全部どうでも良い。とりあえずどこか行きたいって、ふらっと外に出たの。それで気付いたら、本州最北端の青森。その中の石白市に来てた」


「まっ、まじですか?」

「マジマジ。まぁ言っちゃうと、死にたかったんだと思う。適当にどこかでね? そうしたら家族に会えるって思ってさ。でも、ここに来て……透也くんに出会ったんだ」


 はっ、はい? 透也さんと? 何それ……ドラマかよっ!


「あとで聞いたら相当酷かったみたい。やつれて、目に生気のない私をほっとけなかったみたい。そして、ここ宮原旅館に連れて来てくれて……あとは宮原家の皆を見てたら分かるでしょ? 盛大におもてなしされてさ? いつの間にか心も体を癒してくれて……救われた」

「あぁ! だから、近くの黒前大学に進学を決めたんですね? てか、もしかして住み込みのバイトも……」

「やだぁ。改めて言われると恥ずかしいよ。でも、正解。恩返しの為に住み込みのバイトをお願いしてさ? 助けてもらったここに居たくて、黒前大学を選んだの」


 少しの興味が、ここまで真白さんの衝撃の過去を知る事になるとは思いもしなかった。

 優しくて、笑顔溢れる真白さん。けど、実の家族が居ない。それも事故で失った。

 話を聞かなきゃ想像すらできなかっただろう。


「ふふっ。意外だった?」

「いや……その……」


「ごめんね? でもあまりにも太陽君が私と似てるから……ついついしゃべっちゃった。私だってびっくりしてるんだよ? 自分とほとんど同じ状況の子が、こうして目の前に居るなんてね?」

「俺も、真白さんが言っていた意味が……なんとなく分かりました」


 そりゃ俺も驚いてますよ! 似てるってこういう意味だったんですか……


「でしょ? だから、これからもよろしくね? 千那ちゃんも……真也も」

「えっ? それってどういう……」

「あらっ、そろそろ下膳の時間! それじゃあ、また何か聞きたい事あったら言ってねー?」


 そう言い残すと、真白さんは足早に階段の方へと向かって行く。そんな後姿を、俺はじっと見つめながら……考えていた。


 その雰囲気で、今まで順風満帆だったんだと思っていた真白さんに、あんな過去があるとは思わなかった。

 でも言い換えれば、誰にでも色々な過去があるのかもしれない。もちろん俺にも……当てはまる。


 だったら、もしかして千那にも? 映画の件だって、鯉野社長と話す機会が無かったら分からなかった。結局俺は……まだ1年分しか千那を知らない。好きな人の事を全然分かってない。


 ……なんか知りたい。もっと知りたいな。


 千那……君の事を。




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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