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112.悩める少女

 



 私、日城凛恋は、日南太陽が好きだ。それはそれはもう大好きだ。

 だからこそ、日南先輩を傷付けた3人にはそれ相応の感情を持っている。

 順番的には風杜、立花、澄川。ただ3人共、妙な気を起こす気なら容赦はしない。


 ……今更ながら、日南先輩は運が悪い。

 黒前に行くと知って、最初こそトラウマ溢れる東京から脱出するのだと嬉しく思った。

 けど、蓋を開けてみれば……なぜか3人とも黒前に居た。


 澄川は偶然にも同じ大学に。

 立花は偶然にも引っ越しで。

 風杜は偶然にも親戚が住んでた。


「なんでなのよぉぉ!」


 おっと、ついつい叫んじゃった。


 ゴールデンウィークも終わりかけの今日この頃、私は机に置かれたノートに目を向けていた。

 日南太陽ラブラブ計画ノート。

 日南先輩と付き合う為のあれやこれを書き記したノートは、かれこれ100冊は越えている。


 その都度その都度計画を書き綴っては、次の作戦を考える。

 いつしか日課となったノートに今書き込むべきは……そう、宮原千那! 

 私の目の前に現れた第4の女。いや、現段階で1番のライバルだ。


 宮原千那。

 高身長に抜群のスタイル。

 かと思えば、顔も美人と可愛いの2つ取り。

 かと思えば、その性格も良さげ。

 大学の様子も、サークルでの様子も……周りの皆からの話を聞く限り、悔しいけど誰からも否定的な意見はない。


 全てにおいて、過去の3人を凌駕する人物。

 そんな相手に私は勝てるのか……せめて過去に彼氏でも居たら純潔という点はアドバンテージにはなるものの、そこまで調査は出来ていない。

 いや、そもそも日南先輩が宮原千那に好意を抱いているかは確定している訳じゃない。

 けど、間違いなく宮原千那は日南先輩を想っている。


「くうぅ……最大にして最強のライバルか」


 誤算。

 日南先輩の性格上、友達として仲良くなる事はあるにせよ、過去の影響から親密な関係になる可能性は低いと見込んでいた。

 1年という期間は問題ない。だから焦らずじっくりと……そう思っていた。


「これは計画を練り直さないと」


 それに問題はそれだけじゃない。そう、宮原千那の姪である……宮原真也の存在。

 私を見た時の表情。目の奥に宿る確固たる意志のようなもの。

 雑談の中に見え隠れする、探るような言葉は高校生とは思えない。


 彼女もまた、宮原千那が太陽先輩を想っている事を知ってるはず。でなければ、初対面の人間に疑心で満ちた顔は見せないだろう。


「はぁ……厄介だなぁ。静の宮原千那に、動の宮原真也か……完全に煮詰まった。ん?」


 その時だった。徐にスマホが鳴り響く。

 ふと視線を向けると、画面に表示されてたのは……叔母の名前だった。


「は~い! どうしたの? 三月(みつき)叔母さん?」

≪やっほ~、凛恋! 今電話大丈夫?≫


 三月叔母さんは、ママの妹だ。そもそもママには姉妹達が7人もいて、伯母さん叔母さん叔父さんが乱立してる。

 しかもそれぞれキャラが濃くて……流石ママと同じ血だと思う。それにしても三月叔母さんから連絡って珍しいな。


「大丈夫ですよ~。どうしたんです?」

≪いやね? 凛恋って今、青森の黒前大学に通ってるんだよね? 帰省からもう戻ってる?≫


「うん! 戻って来て、アパートに居るよ?」

≪やっぱり? 丁度良かった。実はね? 映画の撮影の関係で、私今青森に向かってる途中なのよ≫


 映画? あぁ、見た目とテンションのおかげで忘れてたけど叔母さん、芸能プロダクションの社長さんだった。色々と大変みたいで、帰省した時会えなかったんだよなぁ。


「そうなの?」

≪そうそう。それで、泊まる場所が黒前の近くなの。だからね? もし良かったら、一緒にその旅館でお風呂入ってご飯でも食べない? 私も可愛い姪っ子に会いたいもん≫


「本当? 私は全然良いけど、逆に三月叔母さんは大丈夫なの?」

≪全然大丈夫! じゃあ、迎えに行くから待っててね? 住んでる場所は二月(ふつき)姉さんから聞いてるから! それじゃ!≫


「えっ、ちょっ! 迎えにって、いつ何時ごろ……って切れちゃった」


 いやはや、久しぶりだなこの行き当たりばったり感。良くも悪くも……面白いんだよな三月叔母さん。

 でも久しぶりに会えるのは嬉しいよ。それに温泉とご飯か……そっちも楽しみすぎるっ!


 ……これは良い機会なのかな? とにかく、今は計画の事を忘れてリフレッシュするべきかも。となれば、いつ来てもいいように着替えとか準備……


 ピンポーン


 えっ?


「お~い凛恋? 迎えに来たよ~」

「…………早っ!!!!」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「もうっ! 迎えに来るにしても早すぎだよ?」

「ごめんごめん~!」


 ひたすら道を進むタクシーの中。

 私は三月叔母さんに連れられて、温泉旅館へと向かっている。

 あの電話からまだ1時間も経っていない事が未だに恐ろしい。


「まったく、容姿も行動力も変わらないなぁ」

「本当? 私もまだまだイケるかな?」


 その言葉はあながち嘘じゃない。叔母さんの見た目は、結構若い。というより、ママの姉妹全員年を取らないというか……全員に当てはまる事だ。おそらく年齢は40歳越えてるはずなのに……この至近距離からでもしわの1つもない。

 それに今年いきなり結婚をすると言い出した時は心底驚いたよ。ママ達曰く、全くそんな雰囲気はなかったそうだ。


「あっ、見えて来たよ?」

「うわっ、凄い……これ湯気?」


 どうやら招待してくれた温泉旅館は、知る人ぞ知る名店だそうだ。今回の映画の監督さんも偉く気に入っていて、現在貸し切りなのだとか。

 確かに、この雰囲気は温泉地って感じがする。


「そうそう。露天風呂とご飯も最高なのよね」

「それは楽しみだなぁ」


 そんな話をしていると、タクシーはゆっくりと立派な門を潜って行く。そしてその先に待ち構えていたのは木造の3階建て、和風を絵に描いたような旅館だった。


「ありがとうございました~じゃあ行くよ? 凛恋?」

「うっ、うん。てか、凄い立派じゃない?」


「でしょ~? 凄いんだからこの宮原旅館は」

「みや……うっ、うん! 凄い」


 やばいやばい、一瞬宮原って言葉に驚いちゃった。


「じゃあ、レッツゴー。すいませーん」


 ガラス戸を勢い良く開ける三月叔母さんの後に続くように、私は足を踏み入れた。

 とっ、とにかく、一旦色々な事は忘れて……リフレッシュしよう。


「あぁ! 三月さん! いらっしゃいませ~」

「こんにちは~! 今年もお邪魔します。あと、連絡してた姪っ子でーす」


 あっ、旅館の人……挨拶しないと。


「お世話に……えっ?」


 それは信じがたい光景だった。

 確かに旅館の名前に、一瞬焦った部分はある。けど、単なる偶然だと思っていた。

 それなのに、どうしてどうして……


「あれ? 凛恋ちゃん!?」

「えっ? 凛恋? 千那ちゃんと知り合いなの?」


 なぜここに宮原千那が居る訳?


「あっ、日城じゃんか!」


 なぜここに、半纏を着た……


「あっ、その……宮原先輩? 日南……先輩?」


 日南先輩も居る訳っ!?




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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