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105.一触即発?

 



 休みというだけあって、いつもより人通りの多い黒前駅。

 そのガラス張りの天井からのぞく澄み切った青色は、見ているだけで気持ちが良かった。

 そういえば姉ちゃん達が遊びに来たり、家に帰ってきた時って絶対晴れだよな。


 結局あれから諦めるように二度寝をした結果、逆に姉ちゃん達に起こされた俺。


『お~い、朝だよ? たいちゃん』

『朝ご飯にする? お風呂にする? それとも私達?』


 なんか間違っているような気がしたけど……とりあえず服を着ましょう。あと、そういうのは未来の旦那さんにやってくれと言っておいた。

 まぁそんなこんなで、姉ちゃん達が作ってくれた朝ご飯を食べ、準備を整え……ついさっき、姉ちゃん達を見送った所だ。


 それにしても、


『そうそう。今年の秋頃から私達東京の同じところで働く事になったんだよ?』

『落ち着いたらまた連絡するからね?』


 それこそ大事な話じゃないか? もっと早く言って欲しかったものだよ。とはいえ、東京か。今まで色々なとこで研修やら何やらで飛び回っていたから、東京って聞くと一気に距離が近く感じる。

 ……その分恩返し出来る機会も増えるって事か。


「その為にも、バイトしないとな……」


 なんて独り言をつぶやいていた時だった。


「あれ? 先輩じゃないですか~!」


 後ろから聞き覚えのある声が飛び込んでくる。思わず振り返るとそこにいたのは、


「おっ、日城」


 日城だった。


「やっぱり~! 奇遇ですね先輩っ!」


 最初こそ高校時代とのギャップに違和感を感じたものの、その姿にはもう慣れてしまっていた。何よりマネージャーとしての働きっぷりと明るさには感謝しか出てこない。

 そんな日城と黒前駅で出会うとは。ん? ボストンバッグを持っているという事はゴールデンウィーク中の帰省だよな? 

 休みも半ばという事は……今から帰省するか帰省してきた帰り。


 大学1年で帰省。去年帰省していない自分が言うのもあれだけど、休みをフルに活用しての帰省はしたくないな。まだ大学生活にも慣れてないだろうし、生活リズムを戻す為にちょっと早めに戻ってくる。だとすれば……


「だな。日城は……東京から戻って来た所か?」

「えっ! なんで分かるんですか!? 流石先輩ですっ!」


 おぉ、自分の推理力も捨てたもんじゃないな。


「まぁな」

「ふふっ、あっ……先輩? せっかくですし、あそこでお茶でもしませんか?」


 そう言って、日城が指さしたのは喫茶店逃避行。

 正直、アパートに戻ってもやる事はない。いや厳密に言えばバイト探しという重大なやるべき事があった。ただ、まずは休憩が必要だ。決して小腹がすいて、ケーキとコーヒーのセットを頼みたい訳じゃない。

 それに後輩のお誘いを断るのは先輩としてどうなのか。


「あぁ、いいよ? 行こうか」

「やったぁ!」


 こうして俺達は、喫茶店逃避行へと足を向けた。




 逃避行に入ると、流石は休日。それなりにお客さんの姿が見える。

 もしかして算用子さんが居るんじゃないかと思ったものの、店内に姿は見えなかった。

 ゴールデンウィークは各々が忙しくて、さくら祭り以降に会う機会に恵まれていなかっただけに、少し残念に感じる。

 とはいえ、せっかく来たからには甘いものを堪能しなければ。俺達は案内された窓際の席に腰を下ろした。

 ……なんかこの席に案内される確率多くないか? 


「ふふっ、先輩優しいですねぇ」

「えっ?」


「だって、自分はすかざす椅子の方に行って、ソファに私を誘導してくれたじゃないですか」

「おっ、おう。それくらい普通だろ?」

「流石だなぁ」


 正直全然意識してなかった。この事、日城には内緒にしよう。


「んな事ないって。さあ、注文しよう」


 日城の眼差しが異様に眩しく見える中、俺達はメニュー表を眺める。

 正直、大学に来た日城とこうして2人で話をする機会はなかっただけに、丁度良かったのかもしれない。

 そう思いつつ、俺は日替わりケーキセット。日南はアップルパイセットを注文した。


「そういえば日城。なんで黒前大学に来たんだ?」

「そりゃ先輩追っかけて来たに決まってるじゃないですかぁ」


「はいはい。冗談はさておき……」

「冗談ってなんですかっ!」


 やはり、高校の時の印象とは違う。むしろこっちが本来の日城なのか? 

 サークルでも明るくて気が利く。マネージャーの仕事も1日で覚えて、先輩達からも可愛がられている。それに練習中の声掛けには不思議とやる気が湧いてくる気がする。

 まぁ、良い子だよな。


「ははっ。そんで? 大学には慣れたか?」

「はいっ! 友達も出来て、講義も面白くて、サークルも楽しいです!」


「おぉ、良かった。久しぶりの東京は?」

「相変わらず人が多くて、最初は黒前との違いに驚いちゃいました」

「そう感じるのが普通だろ?」


 それから俺達は、何でもない雑談に花を咲かせていた。

 大学の先生の話や、日城の高校時代の同級生達の進路の話。

 そしてバイトの話。まさか日城がゴーストでバイトしてるとは思いもしなかった。今度来てくださいと言われたが、ウンとは言えず……今度行けたら行くなんて下手なはぐらかし方になってしまった。

 まぁ、幸いにも良いタイミングで互いの注文の品が届き、ホッと胸を撫でおろしたはずだった。


「じゃあ、さっそく頂こうか」

「は~い……って、先輩? その前に1ついいですか?」


 日城がこの話題を口にしなければ。


「うん?」

「あの……入学式の時のお返事……まだ聞いてないと思いまして……」

「入学式……? お返事……?」


『好きです! 大好きです! 私と……付き合って下さい!!』


「あっ!」

「思い出してくれました?」


 入学式の日、突然言われた言葉。

 あの時はその言葉よりも、誰? 日城? なんで居るの? なんて疑問が大きくて……正直いうと忘れていた。ただ、確かに日城は言っていた。しかも現在……


「私……本気なんですよ?」


 いつもとは違うモジモジしたような様子。高校の時の印象そのまんまの日城が目の前にいる。


「ねぇ、先輩? 私の告白のお返事は……どうなんでしょう?」

「えっと、日し……」

「あら、太陽先輩?」


 それは……またしても聞き覚えのある声だった。

 そしてその声の持ち主とこの場所は、ある意味抜群の相性とも言っていい。

 しかしながら、今日だけは……いや、むしろ今のタイミングでの遭遇は……最悪としか言いようがない。


 俺はゆっくりと視線を向ける。

 そしてそこに立っていたのは、黒前高校の制服を身にまとった……


「こんなところで奇遇ですね?」


 真也ちゃんだった。


「まっ、真也ちゃ……」

「こんな所でお会いできるなんて嬉しいです。こちらの椅子に掛けてもよろしいですか?」


 あれ? なんだろう……なんか笑顔を見せてるけど……目が笑ってないっ! そもそも、真也ちゃん俺の事苗字呼びじゃない? なんて名前で?

 その瞬間に襲われる、懐かしい感覚。ここで千那との事を問い掛けられた、ファーストコンタクト時にヒシヒシと感じた殺気のような雰囲気。にも関らず、表情は笑顔という事もあって余計に恐ろしい。


「おっ、おう……」

「ありがとうございます。すいません、お話し中のところお邪魔してしまって」

「いっ、いえ全然。あの……どちら様でしょうか?」


 あぁ、なんか日城も変な雰囲気感じ取ってるんじゃないか? こっちも顔は笑ってるけど、なんか怖いんですけど?


「失礼しました。私、宮原真也と言います。太陽先輩の後輩なんです……()()()()


 ちょっ、ちょっと! なに最後の今はまだって? それにさらっと強調してない!?


「あぁ、そうだったんですね? 私は黒前大学1年の日城凛恋と言います。()()()()、日南先輩の後輩なんです」


 あぁ……日城まで……

 あの、2人とも? 一旦落ち着かない? 一旦落ち着いて……


「そうだったんですね? よろしくお願いしますね? 凛恋先輩」

「こちらこそ、よろしくね? 真也ちゃん」


 おっ、お話しませんか?




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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