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104.やっぱり姉は頼もしい

 



 ……暑い。

 ……なんか重い。

 ……それになんで頬っぺたが潰れてる?


 意識がハッキリとした瞬間、襲い掛かる感覚。

 いったい何事かと疑問が浮かんだものの、それらは一瞬にして消し飛んでしまう。


 両腕はものの見事に動かない。

 右に視線を向けると赤い花柄。

 左に視線を向けると青い花柄。

 それらから垣間見える白い肌に、何が頬を潰しているのか理解した。


 ……暑い暑いといって、下着姿になってたのは覚えてる。先に寝るから姉ちゃん達はベッド使ってと言って、部屋の隅でタオルケットを羽織り眠りについたのも覚えてる。

 なのに、なんでこんな事になってるんですかね。なんで俺はベッドに居て、両サイドに姉ちゃん達が寝てるんですかね。


ふぉーい(おーい)ふぃのふぇ(希乃姉)ふぃのふぇ(詩乃姉)~!

「す~」

「むにゃむにゃ」


 起きる気配がない。一体いつまで飲んでたんだ?


 結局昨日、千那との関係やら何やらを上手い具合に躱した俺。

 姉ちゃん達は何やら不満げだったものの、お酒が入るとそんな事も徐々に忘れていたようだった。

 いつも以上のテンションで他愛もない話をする。正月以来とはいえ、やはり懐かしさを感じた。


 まぁ、実際に姉ちゃん達はこういう時の記憶を覚えているのかどうかは良く分からない。


『ん~? そんな事してた? 私?』

『うそぉ~? 私も?』


 なんて記憶にない時もあれば、


『そういえば、たいちゃんって意外と……』

『ふふっ、良い事聞いちゃったぁ』


 その場のノリでついポロっと言ってしまった事を覚えていたりもする。

 アパートだから大きな声は出さないようにって話したら、返事は軽いのにちゃんと守ってくれてたし……正直酔っぱらったふりってのが一番怖い。


 まぁ、雰囲気はいつものままって感じだけどね。でも、昨日のアレはちょっと心に響いたな。

 それは姉ちゃん達のお酒もだいぶ進んだ頃だった。


『そういえばたいちゃん? バイトは決まった?』

『そうそう。ゴーストの後釜はぁ?』

『いやぁ……』


『まぁ、ゴースト並みのバイト先ってのはね……』

『難しいよねぇ』

『そうなんだけど……』


 もちろん、姉ちゃん達にはゴーストを辞めた事は教えてあった。もちろんその理由も。


『でもねぇたいちゃん? 勉強とサークルだけの大学生活なんてやっぱり勿体ないと、希乃姉は思う訳よぉ?』

『そうそう。バイトでしか得られない経験もあると、詩乃姉も思う訳よぉ?』


『母さん父さんの仕送り頼みじゃなくて、週に何回かバイトしてそれで自分の好きな物買ってもいいと思うのさぁ』

『まあ、そんなシフト許されるバイトってのがなかなかないんだよねぇ』


『確かにっ! まぁ、母さん父さんからの仕送りなくなったら、この姉ちゃん達がなんとかしてあげちゃうんだけどね?』

『うんうん。何とかしちゃう~』


 もちろん、怒っている訳じゃないのは分かっていた。ただ、自分でも仕送りに頼り甘えている自覚があったからこそ……心に響いた言葉。そして2人の姉ちゃんの優しさを再認識させられる。


 やっぱ姉ちゃん達って優しいよな。けど、なんで俺にそこまで? 小さい頃は何とも思わなかったけど、今となっちゃ疑問を感じるくらいだ。そもそも、2人に本気で怒られた事なんて……あったか?


 冷蔵庫にあったプリンを拝借。

 冷蔵庫にあった炭酸飲料を拝借。

 そんな時に怒られた記憶はあるけど、本気とは言えない。

 ふざけてテーブルの上のコップ落とした時は怪我の心配されたし、本気で……あっ。


 その時ハッキリと浮かんだ……姉ちゃん達の真剣な顔。

 あった。確かにあった……3回。姉ちゃんに本気で怒られた。真剣な眼差しで。

 1つ思い出すと、何かで繋がったように記憶が次々と掘り起こされていく感覚に包まれる。


 最初は……そうだ。澄川の1件があった時だ。

 詩乃姉に何かあった? って聞かれても、俺は何でもないって繰り返してたんだ。でもある日、部屋に来た詩乃姉は見た事もない真剣な眼差しで……


『何かあったんじゃないの? たいちゃん』


 その瞬間、糸が切れたかのように話してた。


『なんでも……ある……』

『たいちゃんのバカ。私達に嘘はつかないで。もっと頼って良いんだよ?』


 そしたら、優しく抱きしめてくれたっけ。


 なんか思い出すだけで恥ずかしいな。

 けどそれだけじゃないんだよな。次はあの時……立花の1件の時。

 今度は希乃姉に具合悪いの? 何か悩み? って聞かれても、大丈夫って言い続けてさ? まぁ澄川の時よりキツくて顔にも出てたんだろうけど、希乃姉にはお見通しだったみたいで……ある日部屋に来た希乃姉は、いつしかの詩乃姉と同じ眼差しだった。


『学校で何かあった? 大丈夫ってホント? たいちゃん』


 その雰囲気に、思わず口から零れていた。


『大丈夫じゃ……ない』

『バカっ!』


 希乃姉も優しく抱きしめてくれたっけ。


 まぁそんなこんなで最後に怒られたのは、風杜の件の後。

 お正月に寮から帰省してすぐの事だったよ。

 部屋の中で2人にあの眼差しで見つめられたら、正直に言わざるを得なかった。前のように諭してくれて、そっと抱きしめられたけど……その時はいつもと違ってた。


『もう絶対、一人で抱え込まないで? 太陽』

『私達は太陽の味方だから』


 震える声と、肩に感じた冷たい何か。

 その瞬間、俺は2人にどれだけ支えられてきたのか分かった。

 今までのトラウマも、姉ちゃん達が居なかったら……今の俺はどうなっていたのか分からない。

 そう考えると……たかがお酒を飲んで下着姿で寝てるぐらいどうって事はない。


 結局、こうして遊びに来てくれて。決まって余ったお菓子とか置いて行って……もしかしてワザと多く買ってるのか?

 詩乃姉は帰り際に野菜やら何やら買ってきて冷蔵庫に詰めていくし、希乃姉は冷凍食品を冷凍庫に詰めて帰っていくし。昨日だって、例外じゃない。ここに来た時は俺もだけど、

 姉ちゃん達もパンパンの買い物袋を持っていた。


 どんだけ弟思いなんですかね? この2人は。


「すやすや」

「むにゃむにゃ」


 でもまぁ、ありがとう。希乃姉、詩乃姉。


 けど、流石に起きてこの状態はまずいな。せめて2人に布団を掛けてあげないと。

 えっと右手は……ちょい待ち? 異様にホールドされてるんですけど? なっ、なんで太ももで挟んでるの希乃姉!?

 いやいや、ちょっと動かしたら抜け……


「あ……んっ……」


 …………ひっ、左手はどうだ! って、なんでこっちも同じ状況なんですか? 詩乃姉!?

 いやいや、こっちこそちょっと動かしたら抜け……


「んんっ……」


 ………………仕方ない。


 もうひと眠りしますか。




次話は月曜日を予定しています。宜しくお願いします<(_ _)>

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