101.2人の朝
……なんか……背中が痛い。
ボヤけた視界に節々の痛み。どこか覚えのある感覚に、俺は夢であって欲しいと切に願った。
ただ、現実は非常だ。意識がハッキリとしていくにつれて、その痛みもまたハッキリと襲い掛かってくる。
まさしく最悪の目覚めとはこの事だろう。
あぁ……絨毯があるとはいえ床で寝るもんじゃないな。
これもまた良い人生経験なのかもしれない。とはいえ、今はこの痛みを和らげるのが先決だ。
俺はゆっくりと、重い体を起き上がらせた。
関節がピキピキ言ってるよ。それに瞼がいつも以上に重い気がする。
無理やりにでも開けようと目をこすった時だった。鼻に感じる良い匂い。
ん? なんだ?
それはどこか安心する。どこか懐かしい匂い。何度か瞬きをすると、キッチンのところに何やら人影が見える。
誰かいる? 誰だ?
小刻みに聞こえるテンポの良い包丁の音。キッチン近くの窓から差し込む光で、辛うじて分かるポニーテールの様な髪形。
えっと、女の……
「あっ! たたたっ、太陽君」
「えっ、ちっ千那?」
「おおおおっ、おはよう!」
味噌汁、ご飯、サバの味噌煮、卵焼きに納豆。漬物にひじき。
テーブルに並べられた立派な朝食を前に、本当なら感動を覚えるはずだけど……
「ほっ、本当に! ごめんなさいっ!」
対面の千那の姿を見る限り、そうともいかない。
ははっ、俺もはっきりと思い出したけどね。
酔っ払った千那が、間一髪の所で眠り姫になってくれた事である意味事なきを得た。
まぁ、人が人なら色々考えるんだろうけど、俺としてはそういう状況下であれこれしたくはなかった。それに好きな人ならなおの事だ。
そして、千那を抱き抱え……再びベッドに寝かせた後、流石に透也さんに連絡したよね。
『お~、太陽か? どうした』
『あのすいません。透也さん、今家ですか?』
『そうだけど?』
『あのですね? 千那がジュースと間違えてお酒飲んじゃって、寝ちゃってるんですよ』
『マジか。ちなみに今どこにいるんだ? 今日は花見に行くって話だったよな』
『えっと、恥ずかしながら自分のアパートでして……千那が公園で寝ちゃったもので、とりあえずと思い……』
『まさかおぶってくれたのか? こりゃ妹に代わってお礼言わせてくれ。重かったろ?』
『全然ですよ。って、それより透也さん? 迎えに来てもらう事ってできますか?』
『あぁ、今日俺旅館の夜間当番なんだよなぁ。親父達も酒入ってるし……』
『えぇ? そうなんですか!?』
『まっ、太陽。とりあえず一晩お願いできるかな?』
『一晩ですか!?』
『そうそう。太陽のアパートなら大丈夫だろ』
『いっや、いや……』
『それに千那も明日からは大学休みだし、こっちの手伝いも必要ないから問題なしっ!』
『こっちの問題はあるんですけど!?』
『まぁまぁ、とりあえずなんとか頼むわ』
『たっ、頼むって……』
『あっ、それはそうとちゃんとゴムだけはしろよぉ?』
『はっ、はい!? なっ、何言ってるんですか透……』
『ははっ! じゃあ千那を頼むぞ太陽!』
いやいや……マジかと思ったよね? もちろんそういった如何わしい事はしてない。
ちゃんと千那に布団掛けて、俺は床で寝たんだ。ったく、透也さんめ。今思い出してもとんでもない事言ってるぞ?
まぁ、俺としては千那の寝顔+不可抗力とはいえ、柔らかい感触を堪能出来たから良かったけど……千那はほとんど記憶ないみたいだしな。
「うぅ……」
こうなるのも無理はないか。事があるごとに俯いたり謝ったりのリピートだ。
俺に対する申し訳なさからとはいえ、準備してくれた朝食は凄いと思うけど。
とりあえず、ある意味お互い様なんだし……そんなに謝るなよ千那。
「なぁ千那?」
「はっ、はい!」
「こんな立派な朝食作ってくれてありがとう」
「ぜっ、全然だよ。太陽君にはかなりお世話になったもん。それに手間も掛けられなかったから……こんなんじゃ全然恩返しにもならないよ。それに、おっ……おんぶまで……うぅ……重かったでしょ?」
「軽すぎて余裕だよ? もっとご飯食べなよぉ?」
「もっ、もう太陽君? ふざけないでよぉ」
「本当。それにさ? 色々と考えすぎだって」
「でっ、でも……」
ったく、ホント律儀で良い子だよな。
「むしろ千那の方が割に合ってないよ。さっき言ってたじゃん? この朝食作る為にコンビニ行ったんだろ? 冷蔵庫の物勝手に使っちゃダメだって考えてさ。その労力考えたら、むしろ俺が千那に何かしてあげないといけないんじゃない?」
「なっ、なんでそうなるの~!」
「はいっ! じゃあ、これでおあいこ。俺は千那を運んだ。千那は朝ご飯作ってくれた。これでトントン。いいでしょ?」
「う~ん……それで太陽君が良いなら……それでお願いしますっ!」
「了解。じゃあ決まりね?」
「もう……太陽君優しいんだから……」
いやいや、俺からしてみれば千那ほど優しい子はいないけどな。
「そうかぁ? あっ、せっかく千那が作ってくれたご飯冷めるぞ? 食べよう?」
「あっ、そうだね? 温かいうちに食べて欲しいなっ」
「だったら、早速……」
「「いただきます」」
こうして、千那とのちょっとした騒動? は無事に解決した。
……って、2人で話して、色々とご褒美もあって、手作りの朝ご飯を食べてって……俺良い事尽くしじゃないか?
そう考えると、マジで最高のさくらまつりだったよ。
「朝に味噌汁とか久しぶりだよ」
「さすがにインスタントのだけど、具材が寂しいから色々と入れてみたよ?」
「マジか? ありがとう。美味い」
「本当? じゃあ私も……」
……千那の事だし、味噌汁とかも本当はちゃんと作れるんだろうな。毎食このクオリティって、
良いよなぁ。
「なぁ、千那。また泊まりに来てもいいぞぉ?」
「プーっ!!」
「あっつ!!!!!!」
「たたたたっ、太陽君の……」
「バカぁぁ!」
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




