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妹と旅する曰く付き異世界  作者: 智慧じゃこ
33/33

ラルシェの妹の行方

遅くなりもうしわけありません!


前回のあらすじ

フェンリルとなれる子供、ラルシェルクの村に護衛として付いて行く蒼汰一同。暇が続く草原が終わり、沼地で土スライムを倒しながら進むとやっとラルシェの村に到着する。到着したときには既に日も暮れていたので眠りについた。

「・・・」


目が覚める。俺は一度寝たら途中起きないタイプなんだがふと目が覚めた。【気配察知】に外で何者かが動く気配を感じたからだ。


「(天使蒼汰、起きてるわね?)」


「(ああ、シャロも気付いたか。)」


数は5人程か。既に2人は家の中に侵入してきている。ピクッとラルシェも反応したので気付いたみたいだ。【気配察知】は大事だな。持ってない者は起きてない。


「(お兄ちゃん…!)」


ありゃ、結衣も気付いたの?流石は俺の妹だ。…っとそんな事思ってる場合じゃないな。


「(仕掛けてくるぞ。シャロは中の2人を頼む。俺は外の3人をやる)」


「(了解)」


その10秒後、中の2人がそっと入ってくる。常夜灯はさり気なく消しておいたから真っ暗だ。

シャロが敵が入ってくる前から詠唱しておいたものを完成させ、放つ


「【|電砲《ライトニング・ボール】!」


バチッっと電撃が横に流れる。近くの1人には当たるが1人には避けられていた。中々素早い。


「しまっ―」


た!という前にもう一人が刃を向け迫ろうとした瞬間…転んだ。ラルシェが足を引っかける様に蹴ったらしい。


「くらえっ!【雷桜(ライザクラ)】!」


電で出来た桜吹雪が舞い、敵にビッシリくっつき感電する。これで2人…いや、もう5人終わったかな。

俺のほうはシャロの【|電砲《ライトニング・ボール】と同時に外に【土属性操作】を使い、3m程のゴーレムを組み立てた。さぞ慌てた事だろう。まぁ核はないので俺が操作していたのだが【気配察知】だけで敵の位置を把握し戦わせるのはなかなか難しかった。シャロが片付け終わった時もまだ苦戦していたのだが、こっちも終わってないと恰好付かないので敵の後ろに土の手だけ出してとっとと捕まえて終わりにした。ずるではない


全員黒装束で顔も隠していたので剥がす。俺は知らない顔だったがラルシェは知っていたようだ。


「こ、こいつら教会に居た奴らだ…どうして…」


「それは、直接聞いてみるしかないな。こいつらに聞くより直接司祭を訪ねたほうが早いだろ」



万が一があると思って付いて来たのだが、正解だった。ラルシェが戻ってくると不都合があったんだ。何が不都合なのか…ラルシェが村を出る前と出た後で無いもの…いない者


「ラルシェの妹は本当に教会に居るのか?」



------------------------------------------



(なぜだ?なぜラルシェルクが生きている!街で魔物化し冒険者に討たれたと報告を受けのになぜ!)


魔法アイテム【同遠鏡】があれば登録した鏡から鏡へと手紙を送ることが出来る。鏡事態は普通の鏡であり、それを可能とする本体は教会の総本山にある。その総本山に繋がる鏡とは別に2つ1組の鏡を各教会に貸し出されている。


(そういえばラルシェルクの死を確認した者の連絡でもう1つ"死体は残らなかった"とも書いてあったか・・・クソ。)


魔物化中に殺されたらなぜか人間状態で死体として残る。死体が残らないほどのダメージで死んだという意味だと勘違いしたが、実際は蒼汰が言葉通り目にも留まらぬ速さで救い出したからだ。


(過ぎてしまった事は仕方がない。それよりもあいつの妹は既にこの村には居ない。売り払ってやったからな。ドラゴンになる人間…金にならないはずがない。これがバレて騒がれても困る。村の者どもには病気が悪化したので大きな街へ治療に送ったと言ってある。馬鹿が騙されたとも知らず感涙していやがった。しかしラルシェルクに伝えれば会いに行くと言う事が安易に思い浮かぶ。となればやはり殺すしかない。だが…)


「遅い…!」


(あんな子供ら一瞬で片付くはずだ。まぁ護衛と言っていたがここまでの道のりに大した魔物は出ないから腕なんぞたかがしれているだろう。それに暗殺へ出した者はジャスタリア教会屈指のエリート達だ。失敗は無い…はずだ。)


そんなエリートがこんな村に滞在しているのは、ここが教会にとって重要な場所だからだ。

実験で失敗作として捨てたことにし、グルであるジャスタリア教会の司祭がそれを拾い恩を売り、司祭様の為ならと命令を聞いてくれる状態にする魂胆である。実際村の奴らは司祭の言う事に疑問を抱かず従順だ。


なぜ施設で監禁しないのか。奴隷にして無理やり言う事を聞かせる事も出来るのではないかと思うかもしれないが、それが出来ない。施設で監禁しないのは、魔物化の力が強力すぎて手に負えないからである。奴隷にしないのも出来ない理由があるのだが…。


ガンッ!と扉が勢いよく開く音が鳴る。


(うちの者なら音を経てずいつの間にか斜め後ろに立っているから分かる…つまり暗殺に失敗したということだ、くそ!)


「司祭様!どういうことだ!こいつらここの奴らだろ!?」


送り込んだ5人が魔法で縛られ連れてこられる。【アースバインド】か。高レベルな【アースバインド】でも抜けられるよう訓練してるはずなんだが魔法のエキスパートがいるようだな。しかし慌てる事はない


----------------------


「ラルシェルクか…」


朝の笑みとは違い不気味に笑いラルシェの名前を口にする。


「オレの妹は…シュシュはどこだ!」


ラルシェが一応辺りを見回すが誰も居ない。俺の【気配察知】で意識して探すが奥の部屋にも誰も居ないみたいだ。死体は察知しないので殺されていない事を祈る。


因みにここまで来たのは俺とラルシェだけだ。あの騒動でもニナちゃんとシエラはぐっすり眠っていたので起こすのも可哀想だしシャロに残って見張ってもらっている。結衣も今回はお留守番だ。


「君の妹は村の為に役だったよ。ドラゴンは中々お目にかかれないからね…それなりの額になりました」


「額になった?売ったのか!?人を?オレの妹を!?」


「そうですよー。貴方達2人は研究が終わりましたからねえ。維持しておく必要もない。君も売れるかと思ったんですが…珍しすぎてなんだそれ?と言われるばっかりだったよ。がっかりですねえ」


ラルシェが怒りで震えている。そりゃそうだろう。信じていた者が実は自分を魔物にした研究員のやつらと同じ穴の狢だったのだから。


「どうせここで死ぬんだからいいことを教えてあげます。」


「なに!?」


「ここに居る村人達は全員元は人間だと思っていますね?だけどそれは違うんですよ。元が人間ではない。元は魔物…魔物の遺体だったり、魔物の化石だったりもしたけどそれは些細な違いでしょう」


元が魔物?…こいつら実はとんでもない研究…実験をしているんじゃないか?昔の魔物を復活させただけではなく、人間として生かす…そしてラルシェを街中で突然魔物化させる様な事が全員に出来るとして街中で一斉にそれをやったとしたら…。そう考えるとゾッとする。


「そんな訳ない!俺には小さい頃から人間として育ってきた記憶がある!」


「保存した人間の記憶をそのまま移植しているだけだとしたら?」


「そんなこと…」


「君は――ああ、11番の記憶か。」


茶色い紙の束を教壇の下から取り出し、ペラペラと捲り、そのページを読み上げる。


「冒険者夫婦に生まれた子供、二人兄妹で兄の方の記憶。父親はドーラムダンジョン大規模攻略隊の1つのPTリーダーだったが24階層でモンスターハウスに引っ掛かり、PTメンバーを逃がす為残り死亡。別PTだった妻はそれに動揺し、些細なミスで死亡。31階層までに大規模攻略隊は半壊し撤退。記録の27階層を上回るがその犠牲はあまりにも大きかった。そして君はそのダンジョンを親の仇だと思っている。この想いは立派な冒険者になるまで誰にも打ち明けずに居ようと思っている。どうですー?あってましたかー?」


埋めこんだ記憶だというものを司祭は読み上げるとラルシェは体を震わせている。


「それ、は…誰にも話してない、オレの・・・一生かけて成して見せると決めた目的・・・まさか、本当に?俺は…俺の体も、思考も、存在自体作り物で、俺はただの兵器――」


「ラルシェ!そんなやつの話しをまともに聞くな!」


「ソウタ、兄・・・」


「そう!兵器なんですよ!貴方達は人を殺す為に作られた戦争の道具。ほーら、手始めにお仲間ごっこしてたそこの人間どもを殺しなさい」


そういうと司祭は手元に持っていた不気味な黒い鈴をチリンとならす。その音色は不気味で体全身に吸い込まれるように響く。俺が聞いてもただただ不気味なだけであったが…


「グウっ!?ガ…この…音は……街で聞こえた…ァ…」


ラルシェの奥から魔力が溢れるとその魔力がフェンリルの形となり体が生成される。状況的にあの司祭が持つ鈴によって強制的に魔物化させられたのだろう。街で見た時と違い息が荒々しい。得物を前にお預けさせられてる猛獣のようだ。


「行け」


チリン。

黒い鈴を合図にラルシェが猛スピードで突っ込んできながら爪を振りかざしてくる。流石【疾走】レベルが9なだけあって速いが、俺は難なく避ける、がすぐに【危険察知】が警報を鳴らす。


「うおっと」


慌てて体をねじると爪が体を掠る。方向転換が早すぎる!と思ったが、その何故?を目の前で実行してくれたのですぐに分かった。空中を蹴っている。そういえば【空歩(クウホ)】とかいうスキルを持っていたがあれか。

そうと分かれば問題ない。と思った瞬間地面が黒に支配される。そこから無数の黒い手が俺を捉えようと伸びてくる。足元を注意すればフェンリルとなったラルシェの爪が襲いかかり、そちらを注意すれば闇の手に捕まってしまう。


いいコンボだ。ラルシェは道中俺の属性操作の話しをよく聞いていたからな。あんなスキルは持ってないはずなので【闇属性操作Ⅶ】によるオリジナルのものだろう。これもレベルが高かったら苦戦していたかもしれない。


さて、ラルシェの技はこんな所かな?反撃だ。


「来い、サンドスネーク!」


蒼汰が適当に今考えた砂の蛇がズシャアアアアと床を突き破りその姿を現す。来いとか言ったけど自分で操っているのでこの砂の蛇に意思があるわけではない。巨大なものを作る時は元々ある砂を使ったほうが楽なので教会の床下にある砂を使ったが、そのせいで床が壊れてしまった。罰とか当たらないかな…


床が壊れた拍子にラルシェが展開していた闇の床も霧散したので意識をラルシェに集中できる。もちろん司祭の方も何か行動を起こさないか注意して見ているが今の所黒い鈴を大事に握りしめるだけで怪しい動きはしていない。


砂の蛇がフェンリルとなったラルシェに襲いかかると、爪で一撃で粉砕される…がそれでいい。粉砕された砂がフェンリルに纏わりついていく。異常に気付いた時には既に遅く、まとわりついた砂は固まり身動きを封じる。

ただアースバインドをしても【疾走Lv9】じゃ避けられてしまうと思い考えた策だ。


「おい!何をやっているんだグズが!」


ラルシェが身動きを封じられると焦った司祭が黒い鈴を何度も振り操ろうとするが、ラルシェは苦しむだけで何も出来ない。


俺は一瞬で近づき刀で鈴を真っ二つに斬り、情報を聞き出す為司祭の首に刃を当てる。

鈴を壊したおかげかラルシェは元に戻ったが気絶してしまったようだ。


「た、助けてくれ!金!金ならある!そうだ、そんな護衛の仕事の10倍!い、いや20倍の金を出す!だから私に雇われなアアッ!」


刀に力を込めると刃が司祭の首に食い込む。上等な刀だったら少し切れていただろうが、これはテキトウに創造した刀だったので切れ味はあまりよくない。


「聞かれた事だけ答えろ。ラルシェ…ラルシェルクの妹はどこへ売った」


「ウェ、ウェルゲンだ。あそこの市場の下に闇市がある。その更に奥に貴族の娯楽施設、モンスター同士で戦わせる賭博場がある。」


話しを聞いていくとどうやらウェルゲンという国に3日前に売ったらしい。ラルシェの死亡を確認してからの行動だったみたいだ。ここから馬車で2日の所にあり、様々な物が集まる商人の国とも言われてるんだとか。1年中市場を開いている所らしいが、いろんなものが集まる中にはやはりと言うのか違法な物も集まってくるんだと。それらを纏めて開かれるのが闇市。西の隅にある教会の裏の墓地に地下への階段が墓の一つによって隠されている事を聞きだした。入場料さえ払えばだれでも入れるらしい。

その闇市のさらに奥に賭博コロシアムたるものがあり、基本的にはモンスター同士を戦わせ勝つと思う魔物に金を賭けるものがある。たまに面白い魔物等が仕入れられると特殊ルールの見世物が始まる。そのうちの一つに連勝戦というものがあり、魔物に1匹、または一人が何連勝出来るかを予想して賭けるものがあるんだそうだ。それは基本挑戦者が死ぬまで行われる。

それに参加させられるのがシュシュ。ラルシェの妹でその連勝戦の開催日が――。



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