その後数日間②セーラ視点
ドーナツにするかドーナッツにするかちょっと悩みましたが・・・どっちでもいいのかな?
この世の終わりです。
世界ってこんなにも暗かったんだ…どうして私は今応接間の椅子に座っているんでしたっけ…あ、そうでした。街の人の声を聴くために10日に1回悩みを聞く時間でした。それがどうして今日この時間なんでしょう…神様、私は貴方を恨みますよ!
「ちょっと聞いてますの!?エルフ族に伝わる痩せる食材はどうなりまして!?」
目の前の豊満なプロポーションをした貴族の女性が話しかけてきます。この人は痩せる食材の噂を聞くとすぐ取り寄せてくれと訪問しにくるのです。なんで私の所に来るのでしょう?……簡単です。始めは商人ギルドに押し掛け何度も依頼を出したそうですが、1つも効果が得られるものが無かったそうで仕舞いには「この能無し商人どもが!」と叫んで出て行ったそうです。そこから行きにくくなったとか…知りませんよ。
「あ、すいません。ちょっと辛いことがありましてボーっとしてました…。ええと、先日エルフの里から手紙が返ってきましたが、そのような食材はないそうですよ。」
聞く前からそんなものある訳が無いと分かっていましたが、確実とも言い切れないので一応知り合いのエルフに定期便でお手紙を出しました。帰ってきた返事の文書を読んでいると相手の苦笑した顔が浮かんできます。ちょっと恥ずかしかったな…
「他に体型をスリムで維持する秘訣なんかも無いか聞きましたが、ただ食べ物の90%が野菜や木の実なのでそれでスリムな体型が維持出来てるんじゃないかと返事がきました。」
90%が野菜と木の実…とても真似できないです。でも90%がデザートなら私にも真似ができるかも。そんなことしたら目の前の婦人のようにグラマーな体型になっちゃうのだろうけど…でも1日だけでもいいからそんな日を体験してみたいな…そう、どーなっつを1日食べて…ああ、どーなっつ。思い出したらまた辛く…どーなっつ、貴方は一体どんな味なの?
「あら、あらそう…やっぱり?私も無いとは思ったのよーオホホホ。なんだか体調悪そうなのにごめんなさいね?いつもありがとうねえ!また来るわあ!」
不吉な言葉を残し帰って行きました。貴方が…貴方さえ来なければ!!ハッ!いけないけない。うん、民あっての街よ。これもお仕事。
残り2人だったわね…えっと次の相談は………増毛薬が効かないからなんとかしてほしい……知らないわよぉ…でも街の人の声が直接聞きたくて始めたのは私なのよね。頑張らなきゃ。
「ジイ…次の人を入れて下さい。」
「畏まりました。」
例え痩せたいとか髪を生やしたいとかそんな相談でも本人にとっては死活問題なんでしょう…何がともあれドンドンやっていきましょう。
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終わりました。1日が。いつもより長く感じたのは食べ損ねたどーなっつのせいでしょうか。はい、もう未練たらたらです。また作ってもらうにしても明日は正式にお店がオープンなので忙しいでしょうし…普通に買いに行きたい所ですが、きっとすごい行列が出来るんでしょうね。あの話題を呼んだ大判焼きを作ったギルドが早くも新商品ですよ、長蛇の列が出来るに違いありません。並ぶのはいいんですが、街の人は前へ前へと順番を譲ってくれちゃうので申し訳なくて並べないのです…夜になったら作ってくれるかなぁ
辺りはすっかり暗くなっています。面会もその後の公務も終わり、夜ごはんも食べて後は寝るだけ。だけどちょっと目が冴えてぼんやりしているとコンコンと控えめのノックが聞こえてきました。ジイでしょう。
「はい、どうぞー」
ガチャっとドアが後ろで開きます。なんだろ、明日は仕事おやすみだから仕事の確認はないはずなのに…まさか急なお仕事でも入ったのかな…
「こんばんは、セーラ」
「ぇ、ええ!ソウタさん?え?なんでここにいるの?ジ、ジイは?」
びっくりした。突然聞き覚えがある声が聞こえてくるんだもん。ど、どうしよう別に私変な所ないよね…ささっと手櫛で髪を整えてしまうのはこれでもやっぱり女の子なのでしょうがないのです。
「ゼルさんなら家の前で会ったよ。届け物渡すよう頼もうと思ったら直接渡して上げてくださいって言われたから上がらせてもらったんだけど…ごめん、もう寝る所だった?」
「大丈夫です、ちょっと眠れなくて考え事してただけなので」
なんか、考え事して眠れないって大人っぽい感じしませんか?考えて事がドーナツの事だなんて言えないですけど…
「なんだ?ドーナツが食べられなかったのがそんなにショックだったのか?…なんてな。姫となると色々街の事で大変なのかな?力になれる事があればいつでも頼ってくれていいぞー」
「…!た、確かにお菓子は好きだけどそこまではならないよ…!?え、えっと、何かあったら言うね!ありがとっ!」
ま、またもやびっくりした…心が読まれてるとかないよね?
「ま、そうだよな。一応屋敷で世界の終わりのような顔してないか心配だったからドーナッツ持ってきたんだけど」
「え!どーなっつ!?」
世界の終わりのような顔ってどんな顔ですか!って突っ込もうとしたけど後半の「ドーナッツを持ってきた」という言葉でどうでもよくなってしまいました。ソウタさんが【次元鞄】から取り出して見せてくれたお菓子はやっぱり見たことないお菓子が3種類入ってました。
一つはちょこおーるどぱっしょんというドーナッツ。
サクサクの甘い生地に更に甘いけどほんのちょっぴり苦さを感じるチョコレートが掛かっていて飽きない味。
一つはあんどーなつ
柔らかい生地に満遍なく粉砂糖が掛かっているのに甘さが上品なのは大判焼きにもあった餡子が入っているから。でも大判焼きの餡子とは種類が違い舌ざわり滑らかな餡子だとか。
一つはぽん・た・いちごみるく
もっっちもち!の甘い生地にいちご?っていう結衣ちゃんの好きなチョコソースが掛かっていて、甘い食べ物に苺の酸っぱさが絶妙に混ざり食べれば幸せに包まれるというもの。
最後のだけ妙に気合が入った説明だったのは好きなやつだったからかな?以上の説明は今か今かとソウタさんのお店となる2階で待っていた時結衣ちゃんに聞いたドーナッツという食べ物の味の説明。ゴクリと何度喉を鳴らしてしまったか…それが今、私の前に!
ああ…右手が勝手にどーなっつへ伸びて行ってしまいます。食べれるのね?ついにあのどーなっつが食べれるのね?
どーなっつと右手の距離が後数センチ。そうなった時ソウタさんが言いました。
「今から食べるのか?結構カロリー…あー3つでご飯1食分のエネルギーはあるぞ…?寝る前に食べればそれはもうグラマーな体への第一歩になるが、それでも食べるか?」
ピタッと手が止まってしまう。な、なんていうことでしょう。そうよね…美味しい物を食べるには対価を払わなければならない…食べれば食べただけ体型を維持する為の運動が求められる。
ちょっと前に流行った『バトルシュヴァイン』という太った人が痩せるために奮闘する書き物にも寝る前に食べてはならない、決して!と強く書かれていた。
「そ、そうね。うん………………ありがとうございます、明日頂きますね。」
うん、どーなっつは逃げない。明日、食べられる。我慢するのよ、私!
「随分間があったな…【次元鞄】に入れておいたから作りたての状態になってるけどどうする?冷めてもどーなっつは全然美味いけどな」
「そ、そうね!小さいけど時抗箱があったからそれに入れておきます」
「時抗箱?」
「あ、はい。時間に抗う箱って事で中に物をいれて扉を閉めると時間が止まるんです。【次元袋】持ちのソウタさんには必要なさそうですけどね。」
「ほほう…便利な物があるんだなぁ」
「小さい物でもかなり高いですけどね…」
小さくても白金貨を出さないと買えないんですよね。これは前の騎士団長さんがとある貴族の依頼を達成させた時にとても喜ばれて贈られて物らしいです。団長さんは使わないから姫様にやろうと言ってポンッと渡されて困りましたが、今ではとても重宝しています。
少しソウタさんと雑談をした後すぐ帰って行きました。もう少し居ても良かったのに。では早く寝て、起きたらどーなっつを頂きましょう。折角なので街を出たすぐそばの草原に立っている大きい木の下で食べようかな?
翌朝。
どーなっつの事を考えすぎて中々寝付けず、夜更かしとなってしまい瞼がとても重いです…ハッ!そうです、今日はどーなっつデーです!目が覚めました。
私は着替えてサンドイッチを作り、一人街を出ていくのでした。
ちょっと作りすぎちゃったかな…サンドイッチ。
バスケットにはたくさんのサンドイッチと、時抗箱から保温箱に移したどーなっつが入っています。
ふんふんふーん♪と誰も居ない道のりを鼻歌を歌いながら目的の木の下へ行くと、先客が居ました。あら…私のゆったりスポットがついに他の人に見つかってしまいましたか。…あれ、あの子達は…
「おーばんやき、おいしーでつね、おねーちゃん!」
「そうだね、ニナ。あ、ほっぺにかすたーど付いてるわよ。」
「エヘヘ…ありがとうでつ。…でも、1個じゃ足りないでつね」
「ご、ごめんね。何も考えずに全額天使蒼汰に上げてしまったわ…」
そんなやりとりをしているあの時の戦闘でボロボロになってしまった服を着た吸血鬼の姉妹が居ました。ニナちゃんの服もあの後ジイに持ってきてもらった私の御下がりの服のままだ。
ソウタさんが貰ったとかいうあのお金全財産だったんだ…一度渡してから少し返してとか恰好悪くて言えないよね。
「おはようございます、御一緒してもいいですか?」
「あ、お姫様でつ!」
「!こ、この前は本当に申し訳ございません…」
お姉ちゃんは謝ってばっかりね。まぁあんなことした後だししょうがないのかな…
「いいんですよっ!そんなことよりサンドイッチ作りすぎちゃって食べきれないなーって思ってたの。良かったら一緒に食べましょう?」
「わー!美味しそうでつ!食べてもいいんでつか!?」
「こ、こらニナ…!す、すいませんありがとうございます。」
「あはは、いいんですよ。食べて下さい。」
ニナちゃんおいしそうに食べるなー、作りすぎちゃってて良かった。
美味しー美味しーというニナちゃんの言葉を聞きながらサンドイッチを食べ終える。うん、我ながら美味しくできた。
「こっちの箱はなんでつかね?」
ニナちゃんに見つかっちゃった!…ま、まぁ丁度3つあるから分けようと思ってましたよ。本当だよ?
「それは昨日ソウタさんから貰ったデザートよ。食べる?」
「えっ!そーたおにーちゃんの!?」
「そ、そうなんだ」
そーたおにーちゃんだって。なんかソウタさん小さい子からよく慕われてるよね。優しそうな顔でそのまんま優しいから好かれるのかな?シャロちゃんの方もソウタさんの名前を出したら視線が保温箱のあたりをチラチラ視線が泳ぎはじめた。
「それじゃ………好きなの、選んでいいよ。」
どれも美味しそうでどれでも食べられればそれでいい。だから残ったのを食べよう。ああ、それはぽん・た・いちごみるく!甘さと酸っぱさのはーもにー!今度絶対買って食べるからね!…あ、それはあんどーなつ!たっぷりかけられた粉砂糖と違う種類の餡子を包んだどーなつ!あなたも絶対後で食べるからね…!
「それじゃ、私はおーるどぱっしょんね。頂きます。」
はううう、な、なにこれ…サクッとホロロっと崩れて甘さと香ばしもが口に広がる…ちょこがついた場所は若干の苦みが生地の甘さを引き立たせて余計に美味しい…あれ、もう無くなっちゃった。うそ、幸せすぎて食べてた記憶が曖昧に!?
「すごい、おいしいでつ!そーたおにーちゃんすごいでつ!」
「お、美味しいわね。これをあの人が…」
当然残りの2つも美味しいみたいね。うん、良かった。
それにしても着てる服…
「ねえ、これから時間あるなら付き合ってくれる?」
「あ、はい。お昼もごちそうになりましたので何かお手伝い等あれば引き受けます」
「引き受けまつ!」
よし、それじゃ…着せ替え人形になってもらおっと!
この後2人をあっちこっち連れまわし、色んな服を着せ替えしてたら最後はぐったりしちゃってた。ごめんね!楽しくてついね…。
よし、明日からもお仕事がんばろっと!
……あ、夜どーなつ頼みに行こうと思ってたのに忘れてた…。だ、大丈夫。お店が出来たんだもの!これからはいつでも食べられるわ!
ジイに頼んで並んでもらおっと。
この後頼まれたゼルは人知れずほくそ笑んだ。
仕事をしてもらう為のいい餌が出来たと。
ドーナッツ食べたくなって来ました・・・!
一応ドーナッツの名前ちょっと変えましたが変えなくて良かったのかな・・・?勉強不足です。




