その後数日間①シエラ視点
「じゃーん!ここです!」
セーラ様に案内されて結衣とソウタの3人である所に来てます。そこはあまり人通りは多くなく、お店は案内された場所の隣に飲み物専門店があるくらいみたい。
どこに案内されたかと言うと…
「ここを貰っちゃっていいのか…?」
ソウタがセーラ様に再確認している。そうしてしまうのも仕方ないです、だって月青賞を受賞したお祝いに空き家を一軒プレゼントしてくれるというのですから。
「はい、上げます!この家は1階の半分が調理場になっていて、外側のシャッターを開けると壁がショーケースになってるんです。はい、お店が出せます!2階はあんまり広くなくて寝るだけのような所ですが…」
セーラ様がシャッターを開けて見せてくれます。新品同様でピカピカです。新築なのかな?
「おお…!すごいな」
「お兄ちゃんお店出すの?すごい!」
「大判焼き売ったら繁盛しそうね!」
「うんうん、そう!シエラちゃんそう!大判焼き売ったら繁盛間違いなしだね!」
こんな立派なお店…お家?をくれるなんて、太っ腹です。やっぱりお姫様だからお金持ちなのかな?
「…セーラの反応見るとまるで大判焼きを売ってほしいが為にこのお店をプレゼントしたみたいな…」
「ソソソソソソンナコトナイデスヨ!ナ、ナニを言ってるんですかソウタさん。一人の友人として、お祝いしたかったんです。ハイ。」
……すごい目が泳いでるわ…でも仕方ないよね、美味しいもん。ああ、結構食べたのにまた食べたくなってきちゃった。
「ま、いいんだけど…しかし、もう少ししたら俺等はこの街から出て行くんだけどな」
「………へ?…うそ……な、なんで?この街、気に入らなかった?」
そうなのよね。ここにずっと居るわけじゃないって分かってた。セーラ様とお別れするのは寂しいしこの街も好きだけど、ソウタには結衣の目を治すっていう大事な目的がある旅をしているんだもんね。ここでのほほんとお店を開いてちゃそれは叶わないと思う。ああ、セーラ様ちょっと涙ぐんでる。
「そ、そんな大判焼き食べられなくなるくらいで泣かれても困るぞ…?」
「え!?ち、違うよ!食い意地張ってるだけの残念な姫扱いしないでよお!そうじゃなくて私はソウタさん達と…もう!」
「ハッハッ冗談だよ。俺もセーラと別れるのは寂しいけど結衣の目を治すのが俺の旅の目的だからな。またこの街にも戻ってくるよ。」
あ、結衣が撫でられてる。ソウタのナデナデ気持ちいいのよね…なんか、抗えない魔法が掛かってるわね、絶対。……いいなぁ
「そっか、結衣ちゃんの……なら仕方ないっか。治るといいね、結衣ちゃん!」
「うん!皆がどんな姿をしてるのか、早く見てみたいなー」
そう言って結衣は笑っているけど、ちょっと申し訳なさそうな顔をしている。
「あーあ…折角用意したのに、無駄になっちゃったなぁ」
「…いや、折角だし店だそうかな。一応商人ギルド三羽の野兎を設立したんだしそれも悪くない」
「ほ、ほんと!?…あ、街を出るまでの期間限定みたいな…?」
「いや、従業員を雇う…っていうか買おうかな」
ぉぉー、三羽の野兎のお店1号店。屋台のお手伝いをしただけだけど、結構楽しかったのよね…皆笑顔でお礼を言ってくんだもの。まぁ作ってるのはソウタだけど…いつか自分で作った物を売り物にして美味しいって言ってもらえたらいいな…っとそうそう、従業員を買うっていうのはやっぱり奴隷なのかな?
「ソウタ、奴隷を買うの?もしかして屋台を手伝ってくれた…」
「正解。あの3人を買おうかなと」
「でも狐族だけでも結構高かったよね?お金は…」
そう。確か狐族のルナっていう子は金貨20枚したはずだわ。他の二人は銀貨何枚かだったと思うけど…
「そこはあれだ、上質な砂糖を売るのと後吸血鬼の姉妹が迷惑かけたからって言って金貨が入った袋置いてったんだよな。」
そういえばその場面にあたしも居たのよね。あたしがソウタの様子を見に来たら丁度ソウタも起きた所みたいだったんだけど、そこには吸血鬼の姉妹が既に居て色々早口でお礼やら迷惑かけたやら捲し立ててお金を置いてってた。ソウタが断る間もなく逃げる様に去っていったんだけど、顔が赤かったのを見ちゃったわ。…まさかね。
善は急げだ!ってソウタが聞いたことないような事を言い、ミレイユさんの所へ向かってその場でバーンと購入してすぐ戻ってくる。
買われた3人はとても喜んでたわ。強くて優しい、奴隷を奴隷と思わない所、しかも月青賞を取った将来有望な人がご主人様になるんだもの…狐族の子なんて文字通り跳びはねて喜んでた。ミレイユさんに叱られてたけどね。
何より同じ料理好きって所が一番嬉しかったんだろうね。
「とまぁそういうことで、俺が家を留守にしてる間にイーヤ、セナ、ルナの3人に店番をしてほしい」
ソウタがざっとこれからの事を説明すると、それぞれが返事をする。狐族の子だけはちょっと寂しそうにしているけど、しょうがないのよ。しょうがないから今だけはソウタの右隣の位置は譲ってあげるわ。
試しに大判焼きを作って商品をショーケースに並べていくとお店が形になる。ソウタがちょっと嬉しそうな顔してる。釣られてあたしもいつのまにか頬が緩んじゃった。
「あのーすいません、もしかして三羽の野兎さんの大判焼き売ってるんですか?」
「あ、すいませんこれは試しに置いただけで…」
お店が形となり、感動していると勘違いでお客さんが来ちゃった。あんな大きな祭りじゃ有名にもなるわよね。でもまだ物を売れるような状態じゃ…
「いいんじゃないですか?開店しちゃいましょう!」
ええ…セーラ様の一声で三羽の野兎第一号店オープンしてしまったわ…値段は据え置きで銅貨2枚。…やっぱり安すぎると思うけどなぁ。
開店するとどこから聞きつけたのか…いやさっきの人が言いふらしたのかな?
噂が噂を呼びあっという間に行列が出来るが今日はあまり作っていなかったためすぐ売り切れになってしまい、買えなかった人がものすごく落ち込んでいる。
明日から本格的に開店するのでと説明して帰ってもらった。大判焼き凄い…。
「…よし、約束もしてたし設備もあるからドーナッツでも作るか」
「お、お兄ちゃん!ポン・タ・いちごみるく!!ポン!タ!いちご!みるく!」
「分かった分かった。後は無難なチョコのオールドパッションとアンドーナッツあたりでいいか」
「やった!お兄ちゃん大好き!やった!」
結衣の喜びようがすごい…そんなに凄い物なの…どうしよう、楽しみ!お菓子だったわよね…
どうやらそれも明日の本開店に合わせて新商品として売るらしく、従業員となる3人に作り方を教えながら作るそうで私達は2階で絶賛待機中です…何故か皆正座です。あたしもなんだけど。
確かパランルーナに来る前に結衣がどんなお菓子か言ってたわよね…あの時はちょことか分からなかったけど今なら分かるわ。今回も美味しいおかしなよかん!エド族の皆にも分けてあげたいなぁ。
あー…なんか香ばしい匂いが2階まで届いてくる。そろそろかな?セーラ様も頬が緩んでソワソワしてるしああ…楽しみ過ぎる~
そこでガラガラと引き戸が横にスライドされ、あたし達は期待を込めて音が鳴った入り口に目を向けると、そこにはゼルさんが居た。
「失礼します。姫様、お迎えに上がりました。」
「………えっ」
「どうされましたか?太陽が真上に来る頃お迎えに上がると申したはずですが。」
「うん…うん、聞きました。でもね、でもですよ。ジイ…今、大事な…大事な大事な時なの。今私は、ここを離れられない…」
「さ、行きますぞ。そろそろ面会希望者が着いてしまいます。お手を失礼」
「ま、待って、お願い!だめ!ああ!ぁぁあ!私のどーなっつが!うそ…なんで、どうしてええぇぇ---...」
「……また夜逃げて来そうね。」
「うん…お兄ちゃんが作るデザートは絶対美味しいから、お姫様も分かってて期待してたと思うしちょっと可哀想…」
「ソウタにセーラ様の分もとっておいてもらいましょ」
「うん」
その後ソウタが持ってきたどーなっつはとても素晴らしい物だったわ…ごはん前だから3種類の内1つを選べなんてソウタも意地悪よね…デザートは別腹なのに。今まで生きて来た中で一番悩んだ結果、今回は結衣と同じのにした。あんなに幸せそうに食べてたら気になっちゃうよね。苺も美味しかったし!
あぁ…次はいつ食べられるのかな。




