蒼汰 対 ニナ?
「グオーーーーーーーーーーーン」
もう何度目か途中数えるのを辞めた鳴き声が響く。デカい化け物からドロドロした触手みたいなものがレーザーのように襲いかかってくるが蒼汰はそれを避ける、又は刀で受け流すと、敷かれた石畳に穴が開いていく。無数の穴を作っては触手は元の場所に戻っていき、また突き刺しに飛んでくる。
く…避けるのはなんとかなるが創造する時間が作れないな。この触手を斬る事によってシャロの妹さん…ニナという子にどういった影響が及ぶかも分からないから下手に攻撃も出来ない。
と、そこで時間を挟み少し回復したのかシャロが声を上げる。
「ニナ!お願い!目を覚まして。お姉ちゃんだよ!ニナのお姉ちゃんだよ!分かるでしょ?」
「グオーーーーーーーーーーーーン」
シャロが声を掛けると、標的がシャロに変わり、先ほどから俺が受けていた触手レーザーがシャロを襲う。
大丈夫か?と思ったが【雷装】という自動防御でなんとか対処出来てるみたいだ。よし、そのまま攻撃を受けもってもらえると【創造】に集中が出来る。
と思ったら思い出したかのようにこちらにも攻撃を向けてくる。さっきまでの攻撃と違い黒い玉をチャージして放ってくる。鑑定で見えたスキルの1つにあったやつか…?【暗黒玉】だったか。ええと効果がーって考えてる暇は無かった。取り敢えず上にでも弾かないと。
いつも敵の魔法を弾くようにその黒い玉をはじ…けなかった。
するりと剣を飲み込み、そのまま自分を飲み込む。ああ…そういえば転送系の魔法だったか――
「蒼汰さん!・・・き、消え…消えちゃっ…た…」
「え?消えちゃったって…お兄ちゃんが?ど、どういうことですか、お、お姫様!」
そんな二人の言葉が聞こえたような聞こえなかったようなと上手く纏まらない思考もすぐ直ると、そこは真っ暗な空間だった。
「うおっ、暗っ!」
真っ暗で何も見えないな…うん、手足は動くし【危険察知】は働いていない。だけど少し進んだ所に【気配察知】で1つ生命反応がある。なんか足場がピクピク動いていてグオーーーンというさっきから何度も聞いた叫び声が聞こえてくる。もしかしなくてもここは・・・
「せいこー、しまちたか?」
と自分がどこに飛ばされたのか考えていると幼なそうな少女の声が耳に届いて来た。
「子供の声…?今灯り付けるから待ってくれ。」
「あい」
光りの魔法でパッと明るく出来れば…
---既存魔法【煌めく光】を3,000Pで会得しますか?---
楽なんだけどなーと思う前にいつもの文字が頭に浮かんできた…節約中だけど便利そうだし取っておこう。
「【煌めく光】!」
ピカアアアアアアと凄まじい光量が暗闇に慣れた二人の目を襲う。
「ぎやあああ目が、目がぁぁぁ」
「きゃぁぁぁおめめがぁ、おめめがぁぁぁ」
度々調整をせず発動してしまいやらかす蒼汰であった。
目の調子が戻ってきて、改めて周りを見渡すと、肉質なピンク色の壁が広がるちょっと気持ち悪い所だった。その壁の中から顔だけ出している子供がいる。この子が共に目にダメージを負いムス〇ごっこで遊んだ子だ…いや相手は素だろうけど。
「ご、ごめんな、魔法慣れて無くてさ…」
「だ、大丈夫でつ」
「それで成功したとかどうとか言ってたけど、君が俺をここへ呼んだのか?」
「あい、そうでつ。わたちの体が言う事を利かないせいで、ごめいわくをおかけしておりまつ…おねえちゃんの声もずっと聞こえてまつが…どうすることもできないでつ…」
「ん…っていうと君がニナちゃんでやっぱここはあの巨大な魔物の中という事か…?」
【暗黒玉】って確か悪魔特有の世界に飛ばすとかいう魔法だったよな…ここがその世界っていう訳じゃない様だけどこの口ぶりから言ってニナちゃんが魔法に干渉し転送先をここに変えたとかそんな感じだろうか。
「あい。…おねがいありまつ。会ったばかりでこんな事をおねがいするのは、ごめんなさいなのですが…わたちを殺ちて下さい。わたちはお姉ちゃんをこれ以上傷つけたくないでつ。」
――そう、か。
一応この巨大な魔物はこの子の体でもあるんだから外で一体何が起きてるのかも分かってるんだな。自分が姉を攻撃していることも。
ニナちゃんを見つめてると、にへらと笑う。…子供が無理して作る笑顔はどうしてこう、心を揺さぶるんだろうか。
あのお姉ちゃんもさっきの戦いでボロボロだったしそう長くはもたないだろう。…悪魔、か。こんな小さな子に死を決断させるなんて許せないな。あの悪魔どもも誰かの命令でここに来させられたようだったがその主謀者も悪魔なのだろうか。まあしかし
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやるから。奇跡を起して上げよう。ニナちゃんのお陰でやりやすくなったしな。」
「…むりでつよ。もう首から下うごきません。たぶん、体無い、でつ。今お話し出来てること自体が既にきせきでつ…」
「まぁ少し待ってて。」
融合した者を分離…合成した者を分離…うんぬんかんぬん…
んーやっぱり既存スキルではない、か。したら2個目の新スキルだな。よし、イメージだ。イメージ…やっぱり目を瞑ったほうが考えやすい。今俺がしたい事…それは元が2つであった1つのものを元に戻す事。日本には『合わせ物は離れ物』という諺があったっけ。合わせて一つにした物は、いつかまた離れるときがある。悪魔と吸血鬼という別々の者が合成されてもちょっとしたきっかけで別々になるかもしれない。そのきっかけとなる部分を剣に、あーこれは攻撃のつもりじゃないし鞘に付与しよう。スキル名は・・・そうだなぁ鞘繋がりで元の鞘に収まる・・・っていうのはちょっと意味が違ってくるけど妹という存在が姉の元へ戻るという意味も込め・・・
「【別離元鞘】」
---スキル【創造】により魔法『別離元鞘』を作成。…消費ポイント120,000P。残り751,200P---
おお、鞘が紫色に光ってる。触ってみると手がすり抜けた。これで斬ればいいのか…?
あ、自分を鑑定すればいいんだ。
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天使蒼汰
年齢:18歳
種族:地球人
ギルド:三羽の野兎
スキル
【創造】[751,200P]
【身体強化Ⅹ】【鑑定Ⅹ】【魔力操作Ⅹ】【次元鞄Ⅹ】【剣術Ⅹ】【弓術Ⅹ】【疾走Ⅹ】
【危険察知Ⅹ】【気配察知Ⅹ】【御者】【識字】【錬金Ⅹ】
魔法
【マス・フアッブⅩ】
【風の加護Ⅹ】
【落とし穴Ⅹ】
【大地裂傷Ⅹ】
【風魔乱舞Ⅹ】
【風圧爆散Ⅹ】
【砂束縛Ⅹ】
【精神斬Ⅹ】
【視界を欺く体Ⅹ】
【煌めく光Ⅹ】
┗光球を出し辺りを照らす。
【別離元鞘Ⅹ】
┗非殺傷武器に対象の異常を分断する力を付与する。分断したい対象のものを付与した武器で真っ二つに斬るようにすれば別けられる。分断されたものが元の綺麗な形で再構築されるかはLv×10%の確率となる
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ほう…異常を分断か。人にかかった病気とかの異常を斬ったり出来るのかな?分断した後その病気が元の形で構築されたら何が出てくるのか知らないけど…っと考えてたらいつのまにか紫色の光が収まってる。効果時間は1分くらいか。とりあえず考えるのは後にして1度ここを出なければならなそうだな。
「よし、それじゃ1度ここを出なければならないんだけど…どうすれば出れる?」
「ぁ、えっと…上のほうに穴空いてるでつ。」
「上ってあの目とか口みたいな所か…まぁいいか。それじゃ、ニナちゃん、また後でなっと」
「ぁ…行ってしまわれまちた。…何をされるおつもりなんでちょう?」
ニナが喋りおわる頃にはもう蒼汰は壁を蹴りながら登り切っていた。蒼汰のスピードに付いて行けず後から一生懸命付いて行く光の球を残して。
巨大な魔物の口から勢いよく飛び出すと、シャロの方へ集中していた触手レーザーが標的を俺に変え飛んでくるが刀でいなしながらシャロの近くへ着地した。
「おまたせ。」
「!生きてたのね。跡形もなく消滅してしまったのかと思ったわ…」
「君の妹のおかげでね。とりあえずニナちゃん助けるぞ。」
「どういうこと…?まあいいわ、何か策があるなら私が囮になる……もしだめでも、ありがとう」
ずっと声を掛けていたのか、声が少し掠れて来ている。なんの反応も示してくれない妹にもう駄目かもしれないと思っているのか、暗然とした顔で笑いながら言った。
姉妹だな…笑い方も似てる。次は幸福時の笑顔をみたいものだ…いや見せてもらおう。
シャロが離れた所でまた声を張り上げると攻撃がシャロに集中する。
それじゃ成功してくれよ…
「【別離元鞘】」
魔法名を口にすると、再び鞘が紫色に光る。さて、真っ二つって言っても相手がデカすぎて厳しくないか…?と斬る相手を見定めると
「うぉっ!?」
鞘が滅茶苦茶伸びた。これならいけそうだが伸びるなら伸びるって教えてよ…無理か。
一拍入れ駆けだす。大丈夫だとは思うけど思いっきりいっておこう。走り出すと触手がこちらにもとんでくるが、【風圧爆散】で空中回避し【砂束縛】で触手を縛り踏み台にしさらに跳び、とてつも長い鞘で半円を描きながら斬りつけた。真っ二つに紫の線が入り敵の動きを止める。そしてギチギチと音を立て分断されたと思ったら魔物全体が紫色の光に包まれ片方が小さく人の形に。片方が更にでかく手足が生え赤錆色の悪魔…ジャイアントグレーターデーモンの本来の姿になる。
そりゃそうだよね。ニナちゃんが元に戻るならもう片方も元に戻るよね。
ニナちゃんを空中キャッチして一度巨大悪魔と距離を取る。とシャロもこちらに近づいて来た。
「ニナ!ニナ…!」
俺の腕に居るニナちゃんに自分のマントを掛け、妹の存在を確かめるように抱きしめる。…マントを掛けたのは裸だったからね。無事助かった?のにシャロの表情は優れなかった。「ちょっと待っててね」と言葉を残し、もう片方の方向する巨大悪魔に向かっていった。
「GUGYAAAAAAAAAAAUUUU」
巨大悪魔はこちらへ向かって来ようとするが体が思うように動かないようで、片膝を付く。
「時間無いから…早くいなくなって…!『黄龍よ、我が血を贄に古き雷の力を持って我と共にせん。器は雷、今ここに神門を開き、人界と神界を繋げ。【黄龍召喚】』!!!」
シャロの遥か上空に生まれた丸い魔法陣が開き、幾千の落雷が起こり、それが留まるという不思議な光景が繰り広げられていくと思ったら徐々にそれは龍の形へと成る。全長は巨大悪魔ジャイアントグレーターデーモンより少し大きめだ。その迫力は凄まじい。
シャロの奥の手だったのか使った本人は顔が少し青い。そういえば詠唱の始めが俺との戦いで最後使おうとしてたのと同じだな…止められて良かった。
「やって!」
シャロがそう合図をすると雷で構成された龍は口からドラゴンブレス…いや分かってたけどこれもまた雷だ。龍の口の前で圧縮されていく黄色い玉が敵へと放たれる。空気を打ち叩く重い光がつづけざまにはためき、轟く雷鳴が頭上を左から右へ走り去る。
弱っていた為?巨大悪魔ジャイアントグレーターデーモンその魔法1つで穴が開き、黒い粒子を散らし消え去った。
「おねーちゃんは、いつ見ても、自慢のおねーちゃんでつ。」
合成させられていたのを強制的に解除したためか、俺の腕の中で息を荒くした顔色の悪いニナちゃんが弱弱しく呟いた。
「うん、強くて優しいお姉ちゃんだな。っとそうだ、誰か回復魔法…」
「…それは、無駄よ…」
大魔法を放ち少しふらふらになりながらも戻ってきたシャロが覚悟を決めたような、泣きそうな顔でこちらに戻ってくる。
「私達吸血鬼はこの世界で使ってる魔力というのを血で補ってるの。普段はその血を敵から貰い、体内にある器に溜めて使うんだけど…器にある血で足りない場合は自分の血から使う事になるの。ニナの症状は血をギリギリまで使った状態に近いわね…」
さっきあいつの体内で見た時は元気そうだったが…そういえば体が無いと言ってたっけ。体が再構成されたけど血までは無理だったとかそんな落ちなのか…?
「なるほど、吸血鬼と言うからには人から吸って補給出来ないのか?」
「普通の吸血鬼なら出来るんだけど、私達兄妹は特殊で…混血なの。こっちでは混同種族って呼ばれてるみたいね。」
「混同種族か…なんか混同種族に縁があるな俺。しかしそれだと何が問題なんだ?」
「言っても分からないと思うけど…ケツエキガタというものがあって、混同種族で生まれてきた私達は血に種類が出来ちゃったの。それが合わないと違う種類の血が混ざりあって地獄の苦しみを味わい最悪の場合死んでしまう…っておじいさまが言ってた。唯一人から吸える血がおじいさまの血だけだったのだけどたとえ私達の世界に戻れてももうおじいさまはいないわ…」
「…ん?血液型?血液型って…A型とかB型とか?」
「え…!知っているの!?わ、私達はエーガタなの。だから同じエーガタの血があれば…」
「ならよかった。俺と結衣…あー妹はA型だ。なんとかなりそうかな?」
「ほ、ほんとに…!ぁ…でも私は貴方たちの事を殺そうと…」
「いいから。悩むのは後だ、妹を助けるのが先だろ?」
「…!ありがとう、ありが、とう!ニナ、大丈夫?この人の血、分けてくれるって。怖いかもしれないけどお姉ちゃんを信じて分けてもらって。」
「あい、分かった、でつ」
ニナちゃんは何も疑わず俺の首に腕を回して起き上がり、首筋に噛みついた。痛いのかと思ったけどそんなことはなく、ニナちゃんが血を吸うのに慣れていないのか、唇がはむはむ動いてそれがちょっとくすぐったい。
………あれ、結構吸ってない?
「ぷふぅっ、すごいでつ!とても美味しいでつ!」
もう顔色が良くなってきてる。良かった…っとと結構吸われたせいかよろけてしまった。栄養あるもの食べて今日はゆっくりしよう。
「ニナ…!本当に……良かった、良かった!」
「おねーちゃん、ニナも、ニナも良かったでつ。これからもまだおねーちゃんといっしょにいれるでつ。」
二人で抱き合い生存を泣きながら喜び合っている。うん、良かった。これで一件落着かな…やべ、もらい泣きしそう…
危険がなくなったのが分かったのか、結衣とセーラ姫がこちらに走って来た。
「お兄ぢゃぁん、良かっだぁ」
「おっと…どうしたんだ?結衣」
胸にダイビングしてくる妹を受け止める。
「途中でソウタさんが黒い玉に包まれて消えちゃったから心配して……私もびっくりしてつい口走っちゃったものだから。結衣ちゃんにまで心配かけさせちゃたの…」
「な、なるほど…心配かけてごめんな結衣、大丈夫だから…」
結衣がわんわん泣いているとシャロとニナの姉妹が何事だという感じでこちらを見ている。あれかな…自分が取り乱しそうになった所を他の人が先に物凄い取り乱してると逆に落ち着いてしまうとか良く聞くよね。
「あの…天使蒼汰、さん。」
「んん?もうお礼とかならいらないよ。」
「あ、いや、その…それも言おうとしましたがもう一つありまして…い、言いにくいんだけど、私もその…最後大きい魔法を使ってしまった訳で…」
ふむふむ…魔法には血を使うんだっけ。……大きい魔法もさぞかし大量の血を使うのだろう。……なんか嫌な予感が
「ちょっと血が足りなくて、ね。……いい、かな?」
「あ、ああ…どうぞ。」
そんな顔を赤くしてモジモジしながらお願いされたらちょっと断りにくいしそれが原因で倒れられたら困る訳で、しょうがないよね…………あれ、ちょっとじゃないの?吸いすぎじゃない?あ、やば…
バタンと貧血を起こし蒼汰はそのまま倒れてしまう。
「あ、お、美味しくてつい…」
「お兄ちゃん!!??」「ソ、ソウタさん!」
その後蒼汰はミミに担がれ、シエラと共に宿へ連れて行かれたのでした。
起きたのは血色の月事件から2日後。街は何事も無かったかのように平常運転に戻っている。シャロに操られていた人も記憶は残っていたみたいだが特に何をされたわけでもない為、特に深刻に捉えていないらしい。
変わったのはその日から幼い姉妹があちこち謝りながら街の修復の手伝いをしている姿がチラチラ見かける様になった事くらいだそうだ。




