シエラ、ゼル対ギュエス
6/3 11:13 台詞のミスを少し修正
――シエラ視点――
「ふむ、俺の相手は子供と爺さんか…つまらんな」
子供と年寄りの相手じゃ余裕だと完全に見くびっている悪魔、ギュエス。
この相手をするのは
「子供だからって甘く見ないでよね!」
「爺も昔はそれなりでしたぞ。」
シエラとゼル・オルデアンだ。
ソウタに比べたら、こんなの雑魚よね。危なくなったらソウタが助けてくれる…っていう甘い考えは捨てよう。あたしもソウタの役にたちたいもの。足を引っ張るだけの存在にはなれない、なりたくない。
一緒に旅をするからには少しでも役に立ちたいと思っていたシエラは魔族の1人を相手にするとソウタに許しを貰い、敵の前に立っている。
「人間の子供、10年も生きていないだろう。自分の意思で鍛えようと思うのは早くて7年やそこら。ほんの2,3年で付けられるスキルなんてたかが知れている。」
ギュエスは知らない。蒼汰の影響でシエラがかなり強化されている事を。
シエラの魔力ブーストはⅧ、そして身体強化はⅤ…つまりレベル1の魔法でも威力は1に8と5を足されて14となる。エルフ以外はどう頑張っても威力10が限界だ。それを超える威力とはとてつもない。だがシエラは攻撃魔法を1つも持っていなかった。
「…そうだな、余興だ。ハンデをやろう。俺は今からここから1発攻撃を貰うまで動かない。好きな攻撃をするがいい。だからと言って逃げてくれるなよ?」
油断してくれてるならこのチャンスを無駄にしないようにしたい。でも1発…どうしよう、魔力ブーストを生かした攻撃をしたいけど、攻撃魔法なんて持ってない。こんなことならソウタに教わっておくんだった…。
「…シエラお嬢様。シエラお嬢様は何かお考えがありますか?」
「うーん、なんでもいいから攻撃魔法があれば少しはダメージを与えられたかもしれないんですけど…」
「魔法、ですか。ふむ…ではこちらはどうでしょう。」
そういってゼルが懐から取り出したのは古ぼけた紙をスクロール状に巻いて紐で軽く縛ってあるものが3枚。
「これは…?」
「はい。魔法のスクロールでございます。威力は御自身の持ってるスキルに依存します。ただ初級の魔法なのでとても効果が得られるとは思えませんが…無詠唱で唱えられるので不意打ちの目くらまし程度に使う物ですね」
「大丈夫だと思います!ありがとうございます。」
貰ったスクロールにはファイアーアローLv1、ライトニングボルトLv1、アイシクルアローLv.1と書かれていた。炎で出来た矢。電撃。氷の矢。魔法を扱う物が初期に練習する基本中の基本の魔法だ。それもスクロールは使い捨てなので各1発ずつしか撃てない。
「よし…おまたせ!それじゃ、後悔しないでよね。」
「ん?なんだ、爺さんじゃなく子供のほうか。…爺さんも期待外れのようだな。」
欠伸をし完全に馬鹿にしている悪魔に向かい、シエラはスクロールを持ち魔法名を口にする。
「【ファイアーアロー】!」
「ハァ…本当に初級中の初級の魔法か…そんなもの何百発撃っても…ん…!?ングフッッッ!」
目の前に赤い光が集まり、細い火の矢が飛んで行った。と思ったらその矢は敵に近づきながら肥大化し、自分の2倍くらい大きくなったファイアーアローはギュエスに直撃する。10メートル程の高さの火柱が上がり、熱風から温風くらいになった風がシエラとゼルの髪を靡かせた。
「…ファ、ファイアーアローってすごいのね…?」
「い、いえ…こんな威力は見たことが…今のはファイアーアローで間違いないのですか?」
想像以上の威力に二人とも戸惑うが、炎の中から笑いながら悪魔が出て来て気を引き締める。
「フハハハハハ!面白い。ファイアーアローと言いながら使ったのはフレイムピラーだったか。その歳で中級魔法を使えるのは大したもんだが俺を油断させるために下級の魔法名で偽るとは中々やるじゃないか。少しは楽しめそうだ」
シエラの魔法を腕で防いだのだろう、その両腕は焼け爛れていたが紫色の光が集まり再生させていく。自己再生は魔族の特徴の1つだが魔力を消費するので自分だけに使える回復魔法みたいなものだ。詠唱も何もいらないので回復を止める事が出来ないのが厄介だが。
「なんか勘違いしてるけど…流石に1発ダウンっていう訳にはいかないよね…」
すぅーはぁーと深呼吸をしてソウタと結衣とで練習した時の事を思い出しながら詠唱を唱える。
『拳に宿る炎は善心の現れ!【炎を纏う拳】』
よし、成功した!
両手に燃え盛る紅蓮の炎は良く見ると濃い色をしている。これも限界を超えている証だ。エルフは力が弱い為近接戦闘はほとんどしないので【炎を纏う拳】を使う者はいない。ドワーフとエルフの混同種族だからこその選択だ。
「魔法がメインかと思ったら武闘家でもあるのか?面白い。『我が魂に宿る闇を体現せよ、【闇に堕ちた手】』
「―!シエラお嬢様、気を付けて下さい。【闇に堕ちた手】は過去に受けた傷や病気を再現させる悪魔族の技。防御ではなく避ける事に徹してください。」
「過去の…病気…。分かったわ」
洞窟で暮らしていた時の魔力飽和と魔力汚染…あれは病気に入るのかな…とにかく避けるしかないようね。
「今度はこちらから行かせて頂きます。」
近くで声が聞こえると思ったら敵の黒い拳が顔の近くまで来ていた。
「くっ―あぶ、ない。」
嫌な感じがする拳が顔の横を通り抜ける。思ったより早く動けたのはソウタに掛けてもらった【風の加護】のおかげね。
助かった…と1息つく間もなく2発3発と続けて繰り出してくる。危ういながらも躱していくが、無茶な体制で避けた時転んでしまう。
「『肉体は影にあり。【影縛り】』」
ギュエスの攻撃が転んだシエラに届く前に、ゼルの【影縛り】が入る。だが血色の月の月明りでは影が薄く、十分効果が発揮出来ずに一瞬で解除されてしまった。しかしシエラが攻撃を回避し、1発攻撃入れる事は出来る。
「やぁーっ!」
自分なりに気合を入れた掛け声(可愛い)と共にギュエスの腹部に炎の拳が当たる。当たった瞬間爆発したかのように炎が弾け、相手の身を焦がしながら吹っ飛んでいった。
シエラはそこから追撃に走る。ゼルも後ろから走りつつ詠唱しながら付いて来た。
「『我は我に在らず。在るはただ影のみ。浮き出ろ!冥暗の現身達よ!【影分身】!』」
ゼルさんが唱えたのは【影分身】という魔法らしい。レベルが4なので出てきたのは4体だ。ゼルさんそっくりなのが4体現れるかと思ったけど、ただ影が立体化したかのような黒い人達だった。その人たちも一緒に並走し始める。後に、影が無いと【影分身】は消えちゃうんじゃないの?と聞いたら「私たちは今地球の影に立っておりますから」と返された。なるほど…?
「私を信じ、攻撃に専念して下さい。」
「うん、分かったわ」
思いっきり助走をつけジャンプし隙だらけだが威力の籠ったパンチを放つ。
「「「「「『肉体は影にあり。【影縛り】』」」」」」
「ぬっ!?こんなもの…!」
1人では一瞬で破られてしまった【影縛り】でも5人なら少しはもつ。その時間は5秒程だが、それに合わせてシエラの攻撃がギュエスに届く。殴る度に炎が弾ける。影で縛られている為吹き飛ばず、100%の威力を3発叩きこむことに成功し、そして懐から1枚スクロールを取り出し唱える。
「『【ライトニングボルト】』!」
轟音。目の前に落雷したかのような音と共に太い稲妻が何本も束になって放たれた為、電磁加速砲みたくなった技がギュエスの半身を消失させた。
「これもついで!『【アイシクルアロー】』!」
【ファイアーアロー】と違い青い光が矢の形になり、これもまた自分の2倍くらいの大きさになりギュエスを瞬時に氷漬けにする。
「やりましたか・・・!」
ゼルさんの言う通り流石にこれで終わりかな…どうしよう、あたしの攻撃が化け物みたいな威力になってる…これも全部ソウタのおかげ、いや、ソウタのせいだ。責任とってもらわないと…!
そんな思考が出来るくらい余裕が生まれ、油断してしまう。
「『呪印解放、瞬間的超悪魔化』」
パキーンと甲高い氷が割れる音が響く。
「えっ?」
その身に呪印祝福を受けた上位魔族が使える短い詠唱で撃てる呪いの技。これを手放すと撃った魔族は再生能力が著しく弱くなる。ゲイズと違ってギュエスのは自己強化系だ。
ゲイズは昔の騎士団長相手に使ってしまいもう使えなくなっていたがギュエスはまだ使ってなかった。再生能力が著しく弱くなるはずだが、ギュエスに空いた穴は塞がり、無くなった腕も再生された。自己強化の際に再生もセットであり、このままじゃ再生が追い付かず死ぬと判断し呪印を開放した。
一言唱えただけでギュエスの身体能力が跳ね上がる。
「『深淵よ破ぜろ【破ぜる暗晦の闇】』」
簡略化された詠唱で唱えた魔法は闇のエネルギーを爆発させる魔法。【闇に堕ちた手】と同じ効果を持つ。その爆発はギュエスを中心としわずかな範囲だが二人を捉えるには十分の距離だった。
「きゃうっ」「ムハァッ」
2人とも爆発に巻き込まれてしまう。その衝撃でゼルの影達も消えてしまった。
「ぐっ…油断しました。こ、この傷は昔タイタロスに斬られた時の傷…か…」
蒼汰の【風の加護】に守られ、爆発自体のダメージは結構軽減されたものの、昔の傷を再発させるという効果でゼルは肩から腹部まで大きく切傷が出来ている。
「うぅ…ぐ…熱…い…!」
「シエラお嬢様!」
これは…やっぱり病気認定されるのね。たった数日ぶりだけど何年も続いたこの感覚…ソウタが言うには魔力飽和と魔力汚染が原因だって言ってたけど…。
「だい、じょうぶ…ちょっと魔力が溢れそうなだけだから…」
この状態はまだ軽いほうだ。ソウタと会った時はほとんど意識を保ててなかった。そう考えればまだ動けるし戦える。魔法を使えばなんとかなるかも
「『世界樹の根は、世界を、覆い、その根は、悪を捕縛する!リ――』っ!」
もう少しで魔法が打てる所でギュエスが【闇に堕ちた手】が残ったほうの手で攻撃してくる。もうそれは避けられる速度じゃなくなっている為防御する形になってしまうがそれは防御にはならない。
「かはっ…ぁ…ぁぁ…」
物理的なダメージは防げるが、その能力が付いた攻撃は漏れなく効果を発揮し、シエラの魔力飽和がさらに進む。
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その頃ミミのほうでゲイズが倒された所だった。
さっきからちらちら聞こえる爆発、轟音が気になっていたのでそちらに目を向ける。
「ちっ、あのガキやばそうだな。ゼルももっと鍛えたほうが良さそうだ」
ミミが走り出そうとした瞬間、火精霊がミミの体から抜け出し、シエラのほうへ飛んで行った
「え、お、おい?」
今まで火精霊が勝手に飛んで行ってしまうなんて事が無かったので茫然と見送るミミであった。
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そして、ミミから抜け出してきた火精霊はもう目が霞み意識を手放そうとしているシエラの前にふわふわと心なしか心配そうに漂う。
この子は…ミミさんの周りをよくふわふわ飛んでた…?
――契約する。資格ある。する?
声が聞こえてきた。聞こえるというよりは頭に直接語り掛けて来てる感じ。
契約?どういうことだろう…駄目、頭がボーっとする。
――熱いの治して上げる。契約、する?
え…?治してくれるの?それは助かるわね…良く分からないけど…じゃあお願い――。
火の精霊が私の中に入って来た。胸の所に確かにその存在を感じる。温かくて体が燃えてるような…あれ、本当に燃えてる!?
ガバッと慌てて起き上がり火を消そうと体をはたくが熱くない事に気付く。そしてさっき感じていた苦しみもなくなっていた。
――悪い物は燃やしたよ。でも魔力がいっぱい。危険。だから、精霊降ろす。
「あ、ありがとう。精霊…さん?降ろすって?」
――正義の、味方
「…助けてくれるの?」
――うん、続いて。…七大精霊が1人、火の精霊王、正義の火精霊よ。
「…あっ、な、『七大精霊が1人、火の精霊王、正義の火精霊よ。』」
――今、精霊宿し我が魔力を捧げる。
「『今、精霊宿し我が魔力を捧げる。』」
――名はシエラ。善を尽くす者なり。大いなるその力の一端を望む者。
「『名はシエラ。善を尽くす者なり。大いなるその力の一端を望む者』」
――願いは
「『願いは、目の前の悪魔を打ち破る事!精霊降臨!』」
最期は不思議と言う言葉が分かった。
自分の魔力が一気に抜けていく。200%くらいあったものが15%ぐらいまで減った。急な魔力消費により目眩がしたが、次の瞬間自分に降りてきた者により力が漲る。
燃える体の炎が更に縦に伸び、炎が人の形となった。
「貴様…ソノ姿…精霊降ろしダト?だがそれくらい!」
ギュエスが叫びながら、【闇に堕ちた手】を再度掛けなおし両腕を使い猛ラッシュしてくるが、炎の壁を抜けてくることが無かった。逆にギュエスの手が灰となる。
「ナ・・・コの炎は・・・マサカ、精霊王――」
【精霊降臨】は下位精霊を宿した体に魔力を捧げる事に寄って中位精霊以上を体に宿し力を借りる精霊魔法。魔力が多い程上位の存在を降ろせるのだが、シエラはエルフの血が流れている為人族より魔力は倍以上ある。それが魔力飽和状態によりさらに多かったのだ。結果降りて来たのは精霊王。
「もうよろしいですか?では、【精霊炎】」
「ヤメ――」
精霊王の人格が混ざり、口調が若干変わったシエラが一言スキル名を放つと天ま届く火柱がギュエスを焼き付くした。
――束の間でしたが、久々に降りられて良かったです。
「うん、ありが・・・と」
「っと危ない。・・・シエラか。蒼汰といい三羽の野兎のメンバーは化け物揃いか?」
気絶したシエラを受け止め、その強さに嫉妬するミミが何も残さず焼き尽くした悪魔が居た場所を見つめながら1人つぶやく。
いつも読んで下さりありがとうございます。




