ミミ対ゲイズ
週2,3回更新とか無理だった・・・!
――ミミ・ヴォルドイン視点――
天使蒼汰が突然無詠唱で【風の加護】を唱えた。この魔法は何度かミレイユから掛けてもらった事がある。初めて掛けてもらった時は体が軽くなり動きやすさに感動を覚えたっけな。今ではレベルはⅢだったはずだ。
しかし今蒼汰に掛けられた【風の加護】は次元が違う。まだ体を動かしてないが、分かる。今ならスピードでは誰にも負けないとそんな傲慢な態度になりかねない。天使蒼汰…本当に何者なんだ?まぁそれよりも、今は目の前に居る親の仇…前騎士団長トールさんの仇でもある悪魔、ゲイズ。コイツは絶対にオレが殺る。
「よう、デブ。オレの事忘れたとは言わせないぜ」
「アアー?誰だおマエ。オレに人族のシりあいなんていない。人族は成長がハヤクテすぐダレが誰だか分からなくなっちまうしナァ。ソレにオレは最近ずっと寝テタシ?」
「そうか…ところで腕、ちゃんと生えて来てみたいで良かったな?」
前騎士団長が斬り落とした腕は今では何事も無かったかのように生えていた。
この悪魔、ゲイズは前騎士団長を殺す為に使用した呪イノ風の影響で再生速度が極端に遅くなっている。その為今までずっと寝ていて体の再生を待っていたのだろう。
「ンンン?ナンデその事をシッてイル…ンン?マサカあのクソ団長が守ッたガキか?オレの復帰祝イにワザワザ御馳走ニなりにキタってか?ハッハァー!バカなやつだ!人族はもっと小さいほうが柔らかくてオイシイんだけど仕方ナイカ」
そう話しているとその体型には見合わない速度で迫ってくる。そうだ、オレはガキの頃、こいつの動きは視えなかった。だが今は――
「ギイイヤアアア!!マ、マタ、マタ右腕ガアアァァ」
視える。
頭を鷲掴みしてこようとして来たゲイズの右腕をスキルもなしに斬る。正直腕を丸ごと斬り落とせるとは思っていなかったが【風の加護】で切れ味も上がったか…いや速度が上がった事で斬りやすくなったのだろう。
「マタシテモ、マタシテモ…その剣筋、忘レテないゾ。間違いナク奴…騎士団長のだナ?トイウコトハ…オマエがイマの騎士団長…カ?」
「まぁそういう事だな。お前を殺す為にオレは強くなった。」
「グヌヌヌ…折角殺したのに人族はスグ代えが出てキテ面倒ダナ…ソレジャ、こんなのはドウだ?でてこい!【下級悪魔召喚】」
ゲイズが左手を前に出しスキル名を口にすると地面に突如出た黒い霧からゾンビデーモンが召喚される。
「そんな下級悪魔を召喚した所で…っ!?」
言っている途中で気付く。そのゾンビデーモン達に見覚えがあることに。懐かしいと感じる事に。
「母さん…父さん…兄ちゃん…」
ゾンビデーモンはただ徘徊し見つかると攻撃をしてくるウォークゾンビとは違う。
生前の強く記憶していることを喋りながら近づいてくるが、そこに意思は無い。ただ同情を誘ってくるのでやりにくいことはやりにくいのだがそれだけだ。しかしそれが知り合いとなると胸に込み上げてくる感情は嵐の海の様に荒れ狂うものだ。
「今日も土芋ばっかりで、ごめんネエ」
母さんだ。
食卓に料理が並ぶ時、必ずと言っていい程土芋を茹でただけの物が並べられた。腹持ちもよく1年中育つので貧乏な家では自家栽培してる事が多い。家も引っ越しの為節約をしていたのでその例に漏れなく育てていた。
兄と父は文句言わずに食べていたが、まだ小さかったオレは「えーまた土芋ー?」とブーたれていたせいか、土芋を出すときその言葉を毎回言うようになった。
「将来が、楽しみダナァ」
父さんだ。
こんな辺境な村に居たら将来なれるものなんて農家ぐらいだ。そんな決まったつまらない未来を子供達に与えたくないとお金を稼ぐ為畑を一所懸命耕していたが、普通に耕しているだけじゃお金は全然貯まらなかった。なので普通の畑とは別に普段とは違う物を肥料にして作る実験畑をやっていたのだが、それを成功させる。
ここで出来た野菜は甘み、ツヤ、そして大きさ全てが良く値段が一気に倍になった。貯金が増えてきて引っ越しの目途が立つと、その言葉が口癖になっていた。
「今日は何して遊ぶ?コレが終わるまで考えてオイテ?」
兄さんだ。
明るい内は兄さんは畑仕事を手伝っていた。父さんも母さんも疲れるのが早くなってきたと言っていたのでかなり兄さんは感謝されていたが、時折父母が申し訳なさそうにしていたのも知っている。
そんな兄さんはオレが暇そうにしているとそんな言葉を掛けてきてくれた。遊ぶと言っても特に遊ぶ道具なんてものはない。砂遊び、かくれんぼ、時には兄さんが好きなチャンバラをした。その時のオレはただの少女だったので、不格好に木の枝を振り、兄さんが受け止めるだけであったが。
「っ…こんな偽者で、オレが剣を引くとでも!」
【疾走】は…使わなかった。
その姿、偽物でもいいから少しでも目に焼き付けておこうと思ったんだ。だがそれが良くなかった。
炎を纏わせた剣を振りかぶるが、またゾンビデーモンが話し掛けてくる
「今日はちゃんばらかい?気を付けるんだよ?」
「ミミは女の子なんだから、お淑やかな遊びにしてほしいのに」
「違うよ、母さん。ミミは優しい子だから、たまに僕の好きな遊びをしてくれるんだ」
手が止まる。体が言う事を聞いてくれず、剣を振れない。
こんな言葉は聞いた事が無かった。
ゾンビデーモンは心の中の想いも口に出す。皆、こんなことを思っていたのか。チャンバラ…兄さんに合わせてたの、バレてたか…
「あらあら、どうしたのミミ?目に砂でも入っちゃった?」
「大変だ!母さん!目薬草はあったか?」
「ほら、目、みせてごらん?」
くそ…涙…か?泣いてるのか?オレが?クッソ、止まらねえ…泣いたのなんて何年振りだ、くそ、くそ!!
「―めろ…やめろ!くそ、なんなんだ!同じ顔で、同じ声で、オレに話し掛けるな!!」
自分に喝を入れゾンビデーモンをまた斬ろうとする。
「ミミ・・・?」
「どうしたの、ミミ?」
「大丈夫か?ミミ」
優しい目で、知っている目で、大好きだった目で、名前を呼んでくる。
「くそ…くそ、くそ!!斬れるわけねえ…こんなの、斬れるわけ、ねえ…」
カラン。剣を落とし、燃えていた剣の炎が消える。そこから出てきた赤い妖精、火の妖精が出て来て、目の前の魔物を倒せと抗議してるかのようにペチペチとミミに体当たりをするがミミは動けなかった。
「ハイ、目薬草よ。」
されるがままにゾンビデーモンに上を向かされ、目薬草…ではない何かを目に入れられる。
「グアアアアアアアッぐうう…」
ジュウウウという音と共にミミの左目が視力を失う。
「もう1つのほうにもね。」
そういい右目にもその何かを入れようとしたが、憚れる。
「――【風圧爆散Ⅱ】!」
ミミとミミの家族の形をしたゾンビデーモンとの間に風の玉が生まれ、爆発し、4人とも吹き飛ぶ。吹き飛ばした本人はミミを受け止めた。
【風圧爆散】は吹き飛ばしや飛来物の軌道をずらしたりと使う物で、攻撃手段ではない。魔法そのものにダメージはないが吹き飛んだ後の事は知らない。
「ミレイユ、か。」
「なにやってるのよ馬鹿ね…私が持ってるポーションじゃ治らないわよ。でも一応飲んで」
「悪ぃな…」
ポーションを飲むと少しスッキリした。ダメージはこの目だけだが知り合いを視野に入れる事が出来たおかげで少しは冷静さを取り戻せたのかもしれない。
「私がゾンビデーモンの相手をしようか?あのくらいなら多分私でも勝てるわよ。」
「……いや、オレにやらせてくれ。」
自分以外の人には任せられない。だがやはり家族の形をした者を斬るのは中々出来ない。ならば…術者を狙うまで。
「火精霊…また頼む。『我が刃に断罪の炎を!【炎を纏う剣】』!!」
【火精霊の誓い】を持つミミはそのスキル名の通り火精霊と契約している。精霊は普通は視えないのだが、ある条件により視える様になるのだ。火精霊により使える魔法が増えるのもあるが、通常の炎系統の魔法も恩恵がある。
【疾装】により走る速度を上げ、起き上がり再びこちらに向かってきていたゾンビデーモンの間を抜けゲイズの元へ行く。こうなることを見越してかゲイズはスキルを発動させる。
「【魔素体化】ハッハァッ!これでお前はオレに手を出せないだろ、ハァ…また再生するまで休暇をもらわねえとナァ…とりあえずお前が家族に喰われるショーでも見て行くかァ」
紫色の霧みたくなり漂う物からゲイズの声がする。
「芸がない奴だな。『火精霊よ、我が鎧に免れの炎を!煉獄を纏いし我が肉体で悪を討つ誓いを示さん!【炎を纏う鎧】!!』
精霊と契約した者にしか使えない魔法。その体を炎と化し、敵の攻撃を通さない。
現に今、追いついて来た家族の姿をしたゾンビデーモン達はミミに触れようとし、触れた瞬間すり抜ける。今のミミを触るのは、炎を掴もうとするのと同じ事。当然ゾンビデーモンは手から燃えていく。救いなのは燃える恐怖で上げる叫び声がゾンビデーモン特有の声である事だろうか。
「そんな手品が出来たノカ、つまらんナ。今回はヒキワケというコトニしておこウ。次会った時はお前のシヌ時ダ。ハッハァッ!」
そう言い紫の霧が移動しようとすうる。
「引き分け?はっ、ふざけんなよ。逃がす訳、ねえだろ!!!」
ミミの体の温度が上がる。【炎を纏う鎧】を唱えても普通の人間に見えるが、今は明確に燃え上がっている。
「『龍神齎すは普く白炎、地に這いずりし者達を焼き滅ぼせ』」
ミミを纏う温度が上がって行く。その温度は2000度。まだ修行中の身でありながらこの温度であり、最高レベルになると1万度に達すると言われているその炎。だがゲイズ相手なら2000度で充分事足りる。
「『【駆ける龍炎】』!」
「ナ、ナニ!あつ、熱い!クルナ!ンァアアア!!こォ、コンナ所デ、コンナ、や…ツ…に」
ミミの燃えている身体の炎の形が巨大な白い龍となり、自分の側面やや後ろに剣を地面に突き刺し、地面を斬りながらゲイズの方へ振り上げると白炎の龍が咆哮を上げながら飛び、ゲイズを呑み込んだ。
当然そんな技を使えばゾンビデーモンも余波で白く燃え上がり、灰が舞う。
ーーありがとう
ーーちゃんと食べるのよ
ーーがんばれ
そんな言葉が聞こえた気がした。
多分気のせいだろう、ゾンビデーモンはその人の記憶を詰め込んだだけの傀儡。その人が生き返った訳ではない。だから消え際に個人的に言葉を掛けてくるはずがないんだ。




