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勇者様はロボットが直撃して死にました  作者: じいま
ソロと聖騎士
23/23

聖騎士の本能

「・・・っというようないきさつで、ワシは魔王を倒す旅に出たのですじゃ。」


(ドロシー)の背にうつ伏せになって揺られながら、ファーガスは言った。かつては(たくま)しかったはずのその身体は老いて細くやせ衰え、喋らなければまるで死体を運んでいるように見える。


ファーガスの言葉に疑問の言葉を返したのは我らが死体どけ係・・・いや、槍使いのサーリアである。


「なるほど・・・しかし、ファーガス殿。あの剣の腕を見せられた以上、疑う余地などありませんが・・・貴殿がかの有名な聖騎士ファーガス様なら、出会った時にそう名乗ってくださればよかったのでは?」


サーリアの疑問に、ファーガスは鷹揚に笑ってみせた。もっとも寝たままなので、死から蘇った不死者(アンデッド)が笑っているように見える。


「ふぉっふぉっふぉっ・・・しかしサーリア殿、こんな死にかけの老いぼれが悪名高い聖騎士ファーガスだと名乗って信じてくださいますかな?」


「ああ・・・なるほど、そうですね。そもそも『聖騎士ファーガス』なんて、おとぎ話の中の人物です。あの剣の技を見せるまでは誰も信じないというわけですか。」


「ふぉっふぉっふぉっ・・・左様ですじゃ。こんな見た目だと、いかに剣の腕に自信があっても、それを他人に信じてもらうのは難しいのです。これでも若い頃は色男と言われ、女性には不自由しなかったものですが・・・歳は取りたくないですなぁ。ふぉっふぉっふぉっ・・・。」


サーリアは見た目は若いが、実年齢は50歳ほどである。ファーガスの話を聞いて(昔はモテたとか・・・男というのはどうしていつも見栄を張ってしまうのだろうか)などと考えていたがそこはそれ、いい大人なので一言も口にはしなかった。ファーガスは老いてはいても、その戦闘能力は尋常ではない。ここは素直に、彼が仲間になったことを喜び、仲よくやっていくべきだろう。


「ソロ殿、ファーガス殿が仲間になってくだされば1000人力ですね!ソロ殿の戦闘能力に加えてヘンリエッタ殿の銃、そしてファーガス殿の剣・・・ここまで強力なパーティー、どんな勇者の伝説でも聞いたことがありません。」


サーリアの言葉に、ソロは深く頷いた。


「ありがたいでありますなぁ・・・自分の戦闘能力で超えられない試練があるとは夢にも思わなかったので、反省であります。ところでファーガス殿、そのモテたという話をもう少し詳しく・・・できれば生々しい描写を加えながらお話していただけると」


「ソロ!」


「はいすいません!」


ドロシーに一喝されてしょんぼりするソロを先頭にして、一行はのんびりと歩いていく。一行が進む道は左右を切り立った崖に挟まれており、曲がり角では先を見通すことができない。待ち伏せに適した地形である。


メンバーがメンバーのため、大して警戒していなかったソロたちがずんずん進んでいくと、間もなく、お約束のように道を塞ぐ者たちが現れた。


「へっへっへ。こんなところまでよく来たな。さぁ、持ち物全部と女を置いていってもらおうか。」


角を曲がった瞬間に現れたのは、10人ほど・・・ソロの高度な探知機能によれば、12人の山賊であった。傷だらけの革鎧と刀身が緩やかなカーブを描いている曲刀で武装した男たちが立ちはだかり、崖の上からは4名ほどの弓兵がこちらを狙っている。


ソロは、こうした山賊に襲われたことがほとんどない。彼の強さと旅の進捗はヴァータリタ王国では知らぬものはいなかったし、わざわざそんな勇者一行を襲おうとする山賊などいるはずがなかったからである。


「おお・・・なんというか、こんなテンプレのような山賊・・・ホントにいるんでありますなぁ。」


「ホントねぇ・・・なんか、ゲームでこういう人たち見たことあるわ。」


妙に感心しているソロとドロシーを手で制しつつ、死体どけ係のサーリアが前に進み出た。


「このあたりは首都から遠いので、山にこもっているような連中は我らの噂を知らないのでしょう。・・・おい貴様ら!我らを勇者の一行と知っての狼藉か!」


サーリアの声に、山賊たちの間に動揺が走る。


「ゆ・・・勇者だと?そういえば少し前に、勇者が召喚されたって聞いたような・・・。」


「マジかよ!勇者って、雷落としたり海を割ったりできるんだろ!?」


「誰だよここで追い剥ぎするとか言い出したヤツ!」


「死にたくない、死にたくないよぉぉぉ!」


動揺、走りすぎである。腐ってもヴァータリタ王国の国民である彼らは、幼少の頃から勇者の伝説を嫌というほど聞いて育っているのだ。うっかり地上最強の生物にケンカを売ってしまったことを理解した彼らは、絶望して武器を次々と武器を捨て始めた。


「勇者のネームバリュー、ハンパないであります!」


「簡単でいいわね。これなら命を奪うことなく簡単に無力化できるわ。ちょっと人数が多いけど、近くの町まで連行して引き渡しましょう。」


ソロとドロシーは喜び、ヘンリエッタは銃を使う機会がなさそうなのを察して人知れず舌打ちした。


サーリアが荷物から捕縛に使えそうな縄を出そうと振り返った瞬間・・・彼女の横をふっと黒い影が横切った。


「・・・え?」


突然全身に鳥肌が立ち、冷たい汗が吹き出す。何度も言うが、サーリアはただの死体どけ係ではなく、ヴァータリタ王国でも3本の指に入る槍の達人である。その達人サーリアがまったく反応できず、気がついた時にはその人物は自分の槍の間合いの内側、すぐ隣で肘がぶつかるほどの距離に立っている。


「ふぉっふぉっふぉっ・・・悪は斬るに限る。捕縛など不要ですぞ、サーリア殿。」


「ファーガス・・・ど・・・の?」


チンッと小気味いい金属音が響いた。それがファーガスが納刀した音だと気づいた時には、すでにすべてが終わっていた。居並ぶ山賊たちの身体に切れ目が入ったかと思うと、まるで砂でできた人形のようにバラバラと崩れ落ちた。


「ふむ・・・若い頃なら、崖の上の連中もまとめて斬ってやれたのですが・・・逃げられたようですな。歳は取りたくないでものですじゃ。あたたた・・・。」


白っぽい石畳が真っ赤に染まり、濃厚な血の匂いが辺りに充満している。血など慣れっこのサーリアでさえも吐き気をこらえ、顔を青くした。ソロは相変わらず平然とした様子で、しかし若干引いたような声でファーガスの行動に疑問を呈した。


「ファーガス殿・・・あの、噂に聞いていた通りではありますが・・・これ・・・。」


「む、なんですかな、勇者殿?」


「いやその・・・山賊とはいえ、彼らも立派な知的生命体。いきなり殺してしまうのはやめて欲しいのであります。」


そんなソロに、ファーガスはフッと笑ってみせた。その表情は、「そんな批判は聞き飽きている」といわんばかりである。


「勇者殿、先ほども申し上げたとおりですじゃ。悪は斬るに限る。情けをかければ、次にその手にかかるのは勇者殿の大事な方かもしれないのですぞ。」


「ぬっ・・・しかし・・・。」


ファーガスの言うことは極端すぎるものの、妻と子を殺された話を聞いた後では反論しにくい。黙ってしまったソロに代わって、ドロシーが言った。


「でもファーガスさん、もしあなたが斬った悪人が、本当の意味では悪人じゃあなかったら?やむにやまれぬ事情があって悪事を働くことだってあるはずよ?」


「ドロシー殿、正義とか悪といった概念は抽象的で主観的なものですじゃ。ワシはワシが悪と判断したものは斬る。それだけです。」


「そんな無茶な・・・それなら、貴方の行為そのものが悪ということはないの?この山賊たち、いくら多勢に無勢とはいえ・・・問答無用で皆殺しはやりすぎよ。過剰防衛と捉えられかねないわよ?」


「それを判断するのは現代の法ですじゃ。しかし法など、古いものでもここ100年ほどの間にできたか、改正されたものでしょうな。ワシの正義は300年前から続く、神聖で揺るぎなきもの。そんな未熟で不完全な法に縛られるものではありませぬ。」


「ええ・・・ええっと、じゃあ、こう考えるのはどう?この山賊の仲間の生き残りとか、家族が復讐に来たらどうする?それであなたの代わりに、あなたの家族が襲われることもあるかもしれないわよ?」


「ふむ・・・。」


「あなたの正義は、あなたの大事な人を守るためにあるのよね?でも、むやみに人を斬っていたら逆効果になることもあるわ。」


「なるほど・・・。」


「でしょう?だからその、あんまりこういうのは・・・」


「斬ります。」


「え?」


ファーガスはまっすぐに、まったく迷いのない目でドロシーを見た。その目には鋼のような意思が宿っていて、何を言っても無駄であることを如実に物語っている。


「復讐に来るものも、その仲間も、すべてワシが斬ります。それで万事解決ですな。」


「そんな無茶苦茶な・・・。」


頭を抱えるドロシーに、しかしファーガスは余裕の笑みを見せた。


「ふぉっふぉっふぉっ・・・ドロシー殿はワシの正義がお気に召さないご様子。しかし・・・勇者殿とドロシー殿も戦士なのでしょう。なら、必ずやご理解いただけると思いますぞ。」


「・・・どういうこと?」


「いるでしょう、ドロシー殿にも・・・出逢えば必ず斬らねばならぬ・・・そんな敵が。」


「・・・あ。」


ソロとドロシーは作られた存在である。


ゲノムという生物を宇宙から駆逐するために作られた存在である。


ひとたびゲノムを確認すれば、速やかにその存在を抹消するために行動を開始する。それは彼らの根底に刻み込まれたもっとも基本的なプログラムであり、いわば本能。いかに高度に発達したAIである彼らにも、この本能を無視することはできない。


つまり、ファーガスにとっての「悪」が、自分たちにとってのゲノムなのだとすれば。


それを自分たちが否定することはできない。


ゲノムを確認した後で、それを無視して生かしておくとはできないのだ。それは本能に反する行為であり、彼らの存在意義そのものに関わってくるルールなのである。


ドロシーはソロと並んで黙り込み、さらに頭を抱えた。


(どうしよう。この人と一緒に行動すれば、きっと何かのトラブルに巻き込まれるわ。かといってこの戦闘能力は見過ごせないし、野放しにするとかえって危ない気もするし・・・。)


黙ったまま、勇者一行は旅を再開した。


ほどなくして付近の村に到着すると、例によって村人たちから盛大な歓待を受けた。噂の勇者たちの一行に、伝説の聖騎士ファーガスが加わったのである。村人たちはその新しい情報にいっそう盛り上がり、村は勇者とファーガスの話題で持ち切りになった。ファーガスの噂が遠い町に住む可愛い子孫のエリアに伝わるのも時間の問題だろう。


歓迎の宴の中、満足そうに酒を飲んでいたファーガスの耳にある噂が入ってきた。


「この村の近くに、【白鬼団】と名乗る、傭兵くずれの危険な盗賊団がいるのです。」


自分が斬った盗賊団かと思ったが違うようだ。【白鬼団】は全員が騎士のような甲冑で武装し、構成員には魔法使いまでいるという。


村人たちは「危険な連中だから、勇者たちが避けて旅を続けられるように」その情報を教えてくれたのだが、もちろんそんな話を聞いて大人しくしていられるファーガスではない。翌朝早く、村人に聞いた【白鬼団】のアジトに出発するファーガスを慌ててソロたちが追いかける形で、勇者一行は出発した。


「ふぉっふぉっふぉっ・・・また悪を斬れると思うと心が高鳴りますなぁ。」


「ファーガス殿・・・あの、できればその、バラバラにするのはやめてほしいのでありますが・・・。」


「ふぉっふぉっふぉっ・・・確かに、バラバラはやりすぎましたな。あれでは賞金首でも金を受け取るための証明ができませぬ。首から上は斬らないようにしますじゃ。」


「ええ・・・そうじゃなくて・・・。」


「ソロ、北西300メートルの位置に複数の生命反応。おそらく【白鬼団】よ。」


そこは、木々が生い茂る山の中、山道を少し外れたところにぽっかりと空いた洞窟である。洞窟の入り口には大きな焚き火あり、数名の甲冑に身を包んだ者たちが火を囲んでくつろいでいた。ファーガスは腰をさすりながら、特に隠れることもなく堂々と洞窟に近づいていった。甲冑姿の1人がファーガスに気づいて、驚いた声をあげる。


「うおっ・・・なんだ爺さん、道に迷ったのか?」


「ふぉっふぉっふぉっ・・・いやなに、ちょっと人を探しておってな。お前さんたち、【白鬼団】の連中かの?」


「それを知ってるということは・・・ただの迷い人ではないようだな。一体誰のさしが」


言い終わる前に、男の首は胴体に別れを告げていた。そばで見ていた別の男も、座ったまま首を飛ばされる。凄まじいまでの早業にソロ達は頭を抱え、銃を撃つ機会を奪われたヘンリエッタが人知れず舌打ちしていた。


その時、洞窟から1人の男が現れた。斬られた男たちと同じような甲冑に身を包んでいるが、その身のこなしには全く隙がない。歳の頃は50歳前後だろうか、髪は真っ白で歳を取っていることを感じさせるが、しかしその身体はたくましく活力に満ちている。顔にはいくつも迫力ありる大きな傷跡が走り、歴戦の戦士であることを示していた。


男はファーガスを見ると、これ以上ないほどに苦々し表情を浮かべた。


「ちっ・・・なぜ、こんなとこにいる。」


対するファーガスは、男のことなどまるで気にせず斬りかかる・・・と思いきや、なんと棒立ちのまま硬直している。その顔には驚きの表情が張り付き、しばらく口をパクパクさせたあとでようやく声を発した。


「おんし・・・なぜ、こんなところに・・・なぜ、盗賊団など、やっておる・・・。」


ファーガスの言葉に、男は応えない。ただ苦々しい表情のまま、静かに剣を抜いた。ただ事ではなさそうな雰囲気に、ソロはたまらず声をかけた。


「ファーガス殿・・・知り合いでありますか?」


「あ、ああ・・・勇者殿・・・これは・・・その・・・。」


珍しくファーガスはモゴモゴと、言いにくそうに口ごもった。


「ファーガス殿・・・?」


代わりに応えたのは男の方だ。彼は剣を抜き、まっすぐにファーガスをにらんだまま低い声で言った。


「孫だよ。」


「え?」


「俺はその男・・・聖騎士ファーガスの孫のヒュージ。ヒュージ・ファーガス・ホーネンハイムだ。」


「え?・・・マジでありますか、ファーガス殿?」


ファーガスはヒュージに目を向けたままゆっくりと頷く。いつも白い顔色は白を通り越して真っ青に染まり、よく見ればカタカタと震えている。


ソロはヒュージをまじまじと観察した。言われてみれば、確かに似ていなくもないかもしれない・・・あっちの方が圧倒的にイケメンなナイスミドルだが・・・。だが、ソロは少しだけ安心した。すでに部下を2人ほど斬ってしまったとはいえ、まだ取り返しはつくはずだ。孫が相手なら、いくらファーガスでも問答無用でぶった斬ったりはしないだろう。


「ええっと・・・感動の再会でありますな?ではここはひとつ、落ち着いて話し合いを・・・。」


ソロの言葉は虚しく響した。・・・ファーガスは返事をすることもなく、剣の柄に手をかける。


「・・・悪は、斬る。」


「え、斬るんでありますか!?」

週2更新だと話が進まない・・・。

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