主人のためなら毒までくらう
翌日になるとクラリッサとメイドのアリシアが店にやってきた。
客はいつものごとくいない。リリィは食料の買い出しに行っているので、三人だけだ。
「例のリングはできているかしら?」
相変わらず鋭い視線を俺に向けてきている。嫌っているわけじゃないだろうことはわかっているので不快感はないが、美人なのに初印象で損をするタイプだなとは思う。
王子に捨てられた要因の一つかもな。
「完成している。確認してくれ」
カウンターにアンチポイズンリングを置いた。新品なので光を反射してキラキラとしている。魔法文字も刻まれているので、知識のある人が見れば一発で本物だとわかるだろう。
「確認いたしますね」
一歩後ろに立っていたアリシアが前に出ると、銀の指輪をつけた。
さらに袋からクッキーを取り出す。紫色だ。ツンとする酸っぱい匂いがしていて、明らかに普通じゃない。
「もしかして毒が入っています?」
「はい。これを食べて確認いたします」
「まって……!」
止めようとしたが少し遅かった。メイドのアリシアはクッキーを口に入れてしまう。
ボリボリと音を出してから飲み込むと、二人の視線はアンチポイズンリングに向かう。
装着者の魔力を自動で吸い取って魔法文字が赤く光っていた。
「体は大丈夫?」
「はい。問題ありません」
「よかった~~」
安堵したようでクラリッサは胸に手を当てながらほっとしていた。
俺も同じだ。必ず動作するって自信はあったけど、目の前で毒物を食べられるのは心臓に悪い。
普通するか?
「もし発動しなかったらどうするつもりだったんですか?」
「私が死ぬだけです。問題はありません」
「体が痺れる毒とかじゃなかったんですね……」
「はい。即死するほどの毒が、無効化できるか確認しなければ意味ありませんので」
にっこりと微笑みながら恐ろしいことを言った。
主人のためとは言っても覚悟が決まりすぎている。
婚約破棄され、寂れた街の代官になったクラリッサに付いてきただけはあるな。
「クラリッサお嬢様、効果は確認できましたので指にお着けください」
「うん」
左の小指にぴったりとはまってくれた。
地球ではピンキーリングと呼ばれていたので、チャンスや幸運が訪れるお守りとしても使えるだろう。
「これで取引は成立ですよね?」
「ええ、あなたの正体は黙ってあげるわ」
よかった。これで面倒な貴族からの脅しに頭を悩ませなくて済む。
「それと依頼すれば、マジックアイテムは作ってくれるわよね?」
「アーティファクトじゃなければ」
普通のマジックアイテムなら、出所を聞かれても商人から買ったと説明すればいいだけなので、前に約束したとおりそのぐらいなら対応するつもりだった。
「タダで?」
「それは無理ですね。素材の持ち込みで割引か、提示した金額をお支払いください」
「後払いでも?」
俺が作ったマジックアイテムをどこかに売って利益を得るつもりだな。
貴族のくせに商人みたいな発想をする。
断っても不利益にはならないだろうけど、希望を失って自暴自棄になり、反乱コースに入られたら困る。
シナリオがどうなるかわからないが、クラリッサに助力することで得られる利益もあるのだから、協力する姿勢は見せた方が良いだろう。
「答える前に一つ確認させてください。そんなに財政が厳しいんですか?」
「最悪よ。今すぐ逃げ出したいぐらい」
はぐらかしてくると思っていたけど、正直に教えてくれた。
街が終わったらリリィと普通の生活をするのも難しくなる。クラリッサの依頼を断っても何も言ってこないだろうが、衰退していく街は救えない。協力してもいいか。
「後払いなら対応出来ますよ」
「本当?」
「嘘はつきません。俺の商品をどうやって売るんですか?」
「商隊を作ろうと思っているの。他国まで行ければマジックアイテムは高く売れるわ」
悪くはないアイデアだ。マジックアイテムを作れない小国とかあるので、品質次第では計画通りに行くだろう。
戦争に使えるような攻撃力の高いマジックアイテムは輸出禁止されているが、日用品であれば国も邪魔しないはずだ。
「浄水、着火、冷風辺りであれば輸出はできそうですね」
「ええ、そうよ! あるかしら?」
「倉庫にいくつか眠っています。店で販売している防具もまとめて買い取ってくれるなら、売りましょう。どうします?」
「商品が増えるのは歓迎だけど……品質はどうかしら。確認させてもらうわよ」
「どうぞ」
許可を出すとクラリッサとアリシアは、店内に展示している盾や鎧をチェックし始めた。
彼女たちでも品質はわかるようだ。貴族だから良いものをいろいろとみてきて目が肥えているのかもしれない。
「王都の有名店と同じか、それ以上の品質じゃないかしら」
「私もそう思います」
「お眼鏡にかなったようですね。取引は成立と思っていいですか??」
「これならどこに持って行っても売れるでしょう。全部、商隊で引き取りますわ」
良くて一つか二つだと思っていたので、全部持って行くとは思わなかった。後払いだから強気だな。
売れなかったらどうするんだろうと思うが、俺が心配することじゃないか。
「太っ腹なお客さんに、これをプレゼントしましょう」
カウンターの下にしまっていた銀製の指輪を取り出して、クラリッサに渡した。
「これは?」
「プロテクションリングはご存じで?」
「着用者の魔力を使って自動で攻撃を防いでくれる指輪ですよね……まさかこれが!?」
これもアンチポイズンリングと同じく四つの魔法文字を使って作っているが、さらに複雑な文字を使っているので作れる職人は限られている。この国で作れるのは数人だろう。
需要も高い商品なので、売れば金貨100枚ぐらいにはなるはず。
気軽に渡す商品じゃないので、二人が驚くのも無理はない。
「大口のお客様には長生きしてもらいたいですからね」
「ありがとう! あなたの期待に応えられるよう頑張るわ!」
クラリッサは目に涙を溜めるほど喜んでくれた。
ゲームのシナリオから推察するに、人の善意に触れるなんてあまりしてこなかっただろうから、嬉しい、幸せだと感じてくれたのであれば助かる。
これで少しは、クラリッサが反乱を起こす可能性は下げられただろう。




