アンチポイズンリング作り
アンチポイズンリングを作るため、作業場の隣にある素材庫から小さめな銀塊を持ってくると、作業部屋にあるテーブルへ置いた。
依頼をもらったときに指のサイズは確認しているので後は作るだけである。
普通の指輪であれば細工師ジョブの出番になるのだが、今回は装備者の身を守る効果を付けるため、鍛冶師ジョブのスキルでも発動してくれる。
小さめな銀塊に手をかざして魔力を放出すると、鍛冶師ジョブのスキル効果によって光る糸が出てくる。一部が金属の塊に入り込んでいくと、粘土のように柔らかくなった。
マリオネットのように光の糸を操作してリングの形にしていく。
簡単な形状だったのですぐに形は完成した。
定規でサイズを測ってみるとクラリッサの左小指とサイズは一緒である。
「完璧だな」
一発でサイズ合わせが完了できたのは俺の腕が一流であるからだ。普通は数度の調整が必要となる。
下準備が終わったので、今度は倉庫から赤黒くゴツゴツとした魔石を10個持ってきた。どれも中級サイズで買えば銀貨数十枚はくだらない。今回はこれをタダで使うのだから、店としては大赤字である。金のことを考えると、ため息しか出ないな。
指輪を囲うようにして魔石を配置すると、再び鍛冶師ジョブのスキルを発動させる。
光の糸が魔石に伸びて、内蔵されている魔力を吸い取っていくと、灰色になってパリンとガラスが割れるような音をするのと同時に砕け散っていった。
10個の魔石から魔力を吸い取ったのだ。
赤黒くなった光の糸を束ね、先端を細くすると指輪に魔法文字を書いていく。一文字、一文字に魔法的な意味が込められていて、文字数が多いほどより多くの効果を発揮する。
一般流通しているマジックアイテムは一文字か二文字で、アンチポイズンリングは四文字必要となる。ちなみにアーティファクトと呼ばれるのは八文字以上でその分、特殊な効果は増えている。
また素材によって書き込める魔法文字の限界があって、銀は親和性が高いと言われているけど、それでも五文字以上書き込もうとしたら魔力に耐えられず砕けてしまう。アーティファクトを作るのは鍛冶師の腕だけじゃなく、素材も一流のものが求められるのだ。
先端を細くした光の糸を操って複雑な魔法文字を指輪に刻みながら、魔石から吸収した魔力を注いでいく。
一つ目の文字は刻み終わった。神経を使うので脳が疲れるが、中断できる作業ではないため続けて二文字、三文字と刻んでいく。
汗が出てきたけど拭う余裕はない。
軽い頭痛がしてくる。
操作している指や腕、肩の筋肉を酷使しているので疲れてきたが、気合いで作業を進めていく。
最後の一文字を刻んで魔石の魔力を使い切った。
「ふぅ~」
完成したアンチポイズンリングを見る。刻んだ魔法文字は魔力が定着していて、魔力を通すと赤黒く光る。
起動も問題なさそうだ。
アンチポイズンリングは装着者の魔力を自動で吸い取って発動するタイプであるため、もし魔法文字が光ったら体内に毒が入った証拠になる。
我ながら良いできだと満足していると、店の方が騒がしくなった。
客でも来たのかな。
小さな袋にアンチポイズンリングを入れて、作業部屋のドアを開けて店内に入った。
「あ、パパだ! ただいま!」
店に入ってきたのはリリィと、駆け出しの冒険者であるルカスとシアが入ってきた。二人は恋人同士なのか手を繋いでいる。リリィとは友達として接しているのだろう。俺はほっと安心する。
ルカスとシアはボロボロの服から卒業したみたいで、穴は空いていない。衣服に金を回せるほど金は稼げているようでだ。
今日はオフの日らしく、二人とも武具は着けていない。
「珍しい組み合わせだな」
「一緒に遊んでたの!」
「よく会うのか?」
「うん!」
店で会話をしてから仲良くなったみたいだ。
寂れてしまったこの街では同年代の子供はいないので、遊び相手が見つかったのはいいことだな。彼氏の心配をしなくていいところもポイントが高い。
二人とも遠慮がちに入ってきたので、近況を聞いてみることにする。
「冒険者稼業は順調か?」
「はい。盾のおかげで怪我をすることなく、お金が稼げています」
「でもこの前、ゴブリンの集団に突っ込んだときは焦ったよ。私の援助が間に合わなかったら大けがじゃ済まなかったんだから」
「ごめんって! あれは反省している!」
調子の良いことを言っていたルカスは、パーティメンバーのシアに頭が上がらないらしい。
戦闘では突っ込み気味の前衛と慎重な後衛か。人数が少ないことに目をつぶればバランスは悪くないな。
生き残って経験を積めることができればランクも順調に上がっていくだろう。
「盾の調子はどうだ?」
「すごくいいです! ゴブリンの剣をまともに受けちゃったんですが、浅い傷が付くだけで壊れることはありませんでした!」
俺の商品は、どうやらルカスの命を助けたみたいだ。
防具専門店としてこれほど嬉しい報告はないだろう。
「それはいいことだが、シアが言う通り慎重に行動はするんだぞ」
「ガルドさんまでそんなこと言わなくても……。わかってますって」
「ならいい。今度来るときは盾を持ってきてくれ。娘と遊んでくれた例としてタダで点検してやる」
「わかりました!」
リリィとシアに囲まれて「よかったねぇ~」とルカスは言われていた。
あんなにはしゃいでいる姿は初めて見る。店番や勉強ばかりさせていたから、友達との交流は楽しいのだろうが、親としては少し複雑な気持ちだ。
男の子と仲良くするなとは言わないが、まだ異性は早いと思ってしまう。もし恋人を作るようなら、一度は叩き潰してやらないと。
何度倒れて死にかけても、それでも立ち向かう根性があるなら、リリィを安心して任せられるというものだ。
「パパ~、外で遊んでくるね!」
将来に来るだろうリリィの彼氏を叩きのめす想像をしていると、店の外へ行ってしまった。
何をしに戻ってきたんだと思ったが、黙って見送ることにした。




