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異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~  作者: わんた


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やればできるクラリッサ

 馬車が止まった場所は、街から徒歩で30分ほど歩いた場所だった。


 草原の中にぽっかりと下へ進む穴が空いている。距離的にもちょうどいいので、知れ渡れば冒険者達は多く来てくれるだろう。


 最初に来るのは競争に負けた低ランクの冒険者だろうから、ダンジョンにいる魔物は弱い個体が多いことを祈る。


 俺たちは馬車から降りると装備の最終点検をしつつ隊列を整理することにした。


「未開拓のダンジョンは何が出てくるかわからない。先頭は……」

「わたくしがやるわ!」

「危険ですよ。どうしてですか?」

「代官としての責務を果たしたいからよ」


 俺たちは守るべき領民みたいな扱いなのか。危ないことは使い捨ての冒険者に任せればいいのに、責任感が強い女性だ。


 悪役令嬢の設定はどこに行ったんだと思うぐらい純粋な人だな。


 求婚されたときは驚いたけど、人間としては好きだ。嫌いにはなれない。


「わかりました。アリシアさんはクラリッサ様と一緒ですよね?」

「はい」

「ではその後ろはルカス、シア、リリィに任せて、最後尾は俺が担当しよう」


 一番後ろにいればバックアタックの警戒もできる上に、味方全体を見ることもできる。


 危険があればすぐに動ける場所なので、悪くはない配置だろう。


「中は明かりがない。みんな松明は持ってきているか?」


 冒険者であるルカスとシアは、さすがに準備してきたようでうなずいた。俺はリリィの分も持ってきているから大丈夫だ。


 クラリッサとアリシアを見ると首を横に振っていた。


 明かりの所までは気を使えなかったようだ。


「それでは、これを使って下さい」


 俺の荷物から腰に着けられるランタンを取り出した。


 魔石を消費して明かりを出すタイプなので、激しい動きをしても消えることはない。便利な品だ。


「ありがとう。助かるわ」


 使い方はわかるようで、二人は腰に付けてから灯りを付けた。


 シアとルカスは松明の準備をしている。お金がなくて魔石消費型のランタンを買えなかったんだろう。


 俺とリリィも腰にランタンを付ける。さらに数日探索できるように用意した食料と水の入った袋を背負うと、準備は完了した。


「探索にそんな大荷物が必要なの?」

「何が起こるか分かりませんから、通常は数日分の食料と水を用意するものなんですよ」

「そうなのね。知らなかったから助かるわ」


 平民に対して貴族がお礼を言うなんて珍しい。


 選民意識が薄いようだ。


「行きますわよ」


 クラリッサとアリシアが穴の中へ入っていった。ルカスたちも後に続き、残ったのは俺だけだ。


 馬車は街に戻ってしまった。帰りは歩きだ。


 周囲に誰もいないことを確認すると、俺も穴の中へ入った。


 短い坂を下りると広い空間があった。左右の壁が見えないほどだ。大きな武器でも十分に振るえるので戦いやすいが、目印が何もないので迷子になりやすい。


 クラリッサは剣を抜いて盾を構えながら慎重に歩いている。アリシアはレイピアを持って左右を気にしているようだ。


 後ろは俺たちがカバーしているので、死角はない。


 緊張していて誰も話していない。リリィは怖がっているかと思ったけど、堂々と槍を構えて歩いている。メンタル面は大丈夫そうだ。


 しばらく歩いているとカエルの鳴き声が聞こえた。


「グァ! グァ!」


 明かりの範囲外にいるみたいで姿は見えない。


 俺たちは立ち止まり警戒を高めていると、先頭のクラリッサに長い舌が伸びてきた。足を引いて回避すると剣を振り上げてカエルの舌を切断する。


 流れるような動きだ。戦いになれているな。


 普段の言動とは大違いで、落ち着いて頼りがいがある。


 アリシアは攻撃してきたカエルに近づいて、レイピアで頭を一刺しする。何の抵抗もなく脳を貫いて絶命した。


 一匹倒したぐらいで戦いは終わらない。近くにいる他のカエルをクラリッサとアリシアのコンビが倒していく。


 危なげない戦いに俺たちは手を出す必要はない。他の魔物が来ないか警戒をしているだけで、全てが片づいてしまった。


「ふぅ~。久々の戦いだったけど、上手く動けたわね」


 自信ありげな顔をしてクラリッサが戻ってきた。


「ベテラン冒険者並の戦いでした」

「そうかしら?」

「ええ」


 肯定すると照れくさそうな顔をしているが、内心では喜んでいそうだ。


「クラリッサ様! すごいです!」


 今度はリリィとシア、ルカスが集まって、褒め称えている。


 勢いに押されてクラリッサは戸惑っているが、悪い感じじゃなさそうなので放置していても問題はないだろう。

 

 俺は他の魔物が来ないか警戒を続けていると、アリシアが戻ってきた。手には魔石があるので回収していたのだろう。


「魔石の分配はどうしましょうか?」

「俺とリリィの分は不要なので三等分でお願いします」

「よろしいのですか?」

「その代わりじゃないですが、商隊の売上には期待していますよ」


 言いながら荷物を地面に下ろして、グレートソードを抜く。


 一瞬だけアリシアは驚いた顔をしたが、すぐに気づいたようでレイピアを構えた。


 ずしんと地面が揺れるほどの音がする。


 近づいてきたのは身長が3メートル近くある灰色の肌をした人型の魔物だ。目は一つ、頭に角があり、手には錆の浮いたグレートソードがあった。


 俺と同じ武器だが、巨人サイズに合わせているので二倍ぐらい大きい。


 重量差を考えるとクラリッサやアリシアには荷が重いだろう。


「俺が行きます。他の魔物が来ないか警戒をお願いしますね」


 グレートソードに魔力を流すと魔法文字が光る。


 効果は、耐久度、切れ味、スキル威力向上の他に、使用者の肉体強化アップ、戦意向上など肉体や精神に効果を及ぼす物まである。世間ではアーティファクトと呼ばれるものだ。


 これほどの魔法文字を刻んで、武器が崩壊しないのは俺だからできることだ。


 俺が振るうグレートソードを使えば、駆け出しの冒険者でも巨人相手に対等以上に戦えるだろう。

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