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異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~  作者: わんた


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その人の器

「ふぁ~~」


 あくびをしながら起きた。


 リリィの防具作りに熱中してしまって2時間ぐらいしか寝ていない。


 マジックアイテム化作業も順調に進んだので文句はないんだけど、30歳を超えた体にほぼ徹夜の状況は辛い。


 棚から生ぬるい覚醒ポーションを取ると一気に飲む。


 生臭く苦い! けど、これで疲労がポンとすっ飛んで元気になる。


 数日も街の外で過ごす冒険者には必須のアイテムで、現役時代には大変お世話になったな。


「パパ~ おはよう~」


 起きたばかりのリリィがドアを開けて部屋に入ってきた。


 可愛いピンクの寝巻きを着ていて、頭の角には帽子みたいな布をかぶせている。


 目をこすりながら歩いていたからか、躓いて転けてしまいそうになったので慌てて抱きしめる。


「まだ寝ぼけているみたいだな。今日はお留守番するか?」

「それは嫌!」


 俺から離れてから、指を使って目を大きく見開いている。


 起きてますよとアピールしているみたいだ。冗談を言ったつもりだったんだが、本気だと受け取られてしまったのだろう。


「だったらすぐに着替えはできる?」

「うん!」


 リリィは部屋を出て行ったので、その間に俺は防具を着けていく。体が重く感じるが、それが意識を切り替えるスイッチとなる。


 今日は未発見のダンジョンに潜るのだ。


 油断せず、慎重に行こう。


 アーティファクト化させたグレートソードを背中に着けると、リリィが戻ってきた。


 動きやすいようにパンツスタイルだ。上着は厚手の布で作られた鎧下を着ている。直接、鎧を肌に着けると擦れた痛いし、金属鎧の場合は凍傷や火傷の原因になるから重要な装備だ。もちろん、俺も着けている。


「防具を着けてあげる。こっちにおいで」

「は~い」


 俺の前に立ったリリィをくるりと回転させて背中を向けさせた。


 俺の鎧よりも軽いが、確かな重みを感じる胸当てを取ると、リリィの頭を通して身につけさせる。動かないようにベルトで固定すると完了だ。フィットしているので戦闘中にズレる心配もないだろう。


 続いてガントレットもベルトを通し、ブーツの紐を結んでいく。これらは全て魔物の皮で作っているので、ギシと低く鳴いた。


「少し動いてくれ」


 素直にその場でぴょんぴょんと跳ね、槍を突くマネをしている。まるで戦乙女のような凜々しい光景だ。一枚の絵画になるほど美しい。


 この目にリリィの姿を焼き付けながら、声をかける。

 

「ズレたりしないか?」

「うん。ちょうどいいよ」


 動きは問題なさそうだ。


 その他、細かいチェックを終えるとリリィは俺を上から下まで見てから、にんまりと笑う。


 何か嬉しいことがあったんだろうか。


「防具の色がお揃いだね」


 胸当てと同じ色を選んだので、俺たちは赤い装備をしている。それが嬉しかったみたいだ。


 純粋な想いをぶつけられて嬉しい。俺も同じ気持ちだよ。抱きしめてあげたいほど愛らしいんだが、これからのことを考えると気を抜くわけにはいかない。


 今は冒険者モードだ。義娘を愛でるのは後にしよう。


 自重するしかなかった。


「そうだな」


 頭を撫でてから、俺たちは家を出て近くの武具店に行く。


 店主は知り合いということもあってたたき起こす。


 小言を言われながらも、リリィの顔に免じて許してもらえた。


 やはりカワイイは正義だな。


 金属製の槍を買ってあげてから、代官が住む屋敷の前まで移動した。門番はいないようだ。金がなくて雇えていないのだろうか。


 朝日が上がったばかりの早朝だ。


 シアとルカスはすでに到着しているみたいで、俺たちを待っていた。


 友達を見つけたリリィは駆け出して二人に合流する。


「赤い防具かわいいね!」

「でしょ! パパとお揃いなんだ~」

「いいなー。私もお揃いのが欲しいんだけど、ルカスが許可してくれないの」

「恥ずかしいじゃないか!」

「それって私とパパが恥ずかしいことをしているって言いたいの?」

「違う! そうじゃなくてな……」

「じゃあなに? 私とルカスがお揃いの時だけ恥ずかしいの? どうして?」


 シアに詰められている。ルカスは助けを求めて俺を見たが、首を横に振って突き放した。


 少女とはいえども相手は女性だ。男が言葉で勝てるわけないだろ。


 恥ずかしいなんて言って機嫌を損ねたルカスが悪いのだ。しっかりと反省するがいい。


 シアがルカスを問い詰め、リリィが援護する時間を楽しんでいると、馬車が近づいてきて屋敷の門が開いた。


 俺たちの前で止まるとドアが開く。

 

 降りてきたのはクラリッサだった。白銀の鎧と片手で持てるスモールシールドを身につけていて、腰には片手剣があった。マジックアイテム化はされてなさそうだが、それなりの魔力を保有しているので頑丈そうだ。


 そこそこ腕のいい鍛冶師に作らせたのだろう。


「おはよう。みんな揃っているわね」

「代官様を待たせるわけにはいきませんから」

「その心意気は買うわ。さっさと移動しましょう」


 すぐに会話を切り上げるとクラリッサは中に入っていった。


「じゃれ合いは終わりだ。馬車に乗るぞ」


 三人に声をかけてから俺も馬車入ると、空間を少しイジっているようで外の見た目より中は広かった。馬車のマジックアイテム化か。話には聞いたことはあったが実物を見るのは初めてだ。非常に珍しい。ヴァルモントにあるはずもないので、実家から持ってきたのだろうか。


「中が広くて驚いたかしら?」

「ええ。ビックリしました。このような馬車もあるんですね」

「手切れ金として実家からパックって――」

「お嬢様、そこはプレゼントしてもらったといった方がよろしいかと」

「そ、そうね! お父様が最後のプレゼントをしてくれたの」


 次期王妃になるため、修行していたはずだったよな?


 素直というか、ちょこちょこ失言をするタイプだな。


 人として素直だし好感は持つんだけど、権謀術数には向いてなさそうなので追放されたのは正解だったんじゃないかと思う。


 地方の代官、よくて小規模の領主という立ち位置ぐらいがちょうどいい。


 そう考えるとクラリッサの器にあう立場なんじゃないかな。

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