新しい資源
数分の時間が経過すると、クラリッサは顔を上げて俺を見た。
「ごめんなさい。結婚の話は一旦なかったことにして欲しいの」
「一旦なんですね……」
ここまで言ってもまだ諦めていないようだ。それほどアーティファクトの生む利益が欲しいのだろう。
平民との結婚なんてバカげた考えをするぐらいは追い詰められているのであれば、悪魔と契約して反乱を起こすのも時間の問題だと思われる。
自暴自棄になってもらったら困るぞ。
かといって、アーティファクトを渡して売るなんてことをさせたら俺とリリィの身が危ない。積極的な協力は難しい。
何とかしたいのだが、動けないのはもどかしいな。
どうするべきか頭を悩ませると、新しい客が店内に入ってきた。
「いらっしゃい」
シアとルカスの二人だ。外から戻ってきたばかりなのか、顔や服に泥が付いていて汚れている。
興奮しているのか俺にしか目がいっていない。
ぱっと見で貴族とわかるクラリッサを無視してカウンターの前に来た。
「すごいのを発見しました!」
「レアな素材でも手に入れたのかい?」
冒険者が興奮するなんてそのぐらいしか思い浮かばなかったが、どうやら違うようだ。
ルカスは首を横に振って否定した。
「穴があったんで入ってみたんですが、広い地下空間でした! ここら辺じゃ見かけない魔物が出る上に、倒すと魔石を残して消えるんです。すごくないですか!!」
驚いたのは俺だけじゃない。求婚してきたクラリッサとアリシアも同じだ。
「その話は本当かしら?」
クラリッサは、ルカスの肩に手を置いてガクガクと前後に揺らしながら聞いた。
鋭利な目が今だけは丸くなっていて、気迫がすごい。アリシアは店の出入り口に立って、二人を逃がさないようにしていた。主従のすばらしい連携だな。
シアはいきなり知らない人に絡まれて怯えたのか、ルカスの背に隠れてしまっている。そんな中、リリィだけは平常運転だ。
「パパ~。ルカスくんは何を見つけたの?」
「報告した内容が正しければダンジョンだな」
魔力濃度が濃い場所に自然発生すると言われているのがダンジョンだ。最下層にはコアと呼ばれる特大の魔石が出現し、一定間隔で魔物を生み出す。
自然界にいる魔物との違いは実体を持たないことだ。
倒せば核となっている魔石だけを残して消えて死体は残らない。
「あれがダンジョンなんですか!?」
俺の言葉でようやく、揺さぶられているルカスも偉大な発見をしたと気づいたようだ。
ダンジョン内に出てくる魔物は絶滅する心配がないため、魔石が大量に手に入る。鉱山みたいな場所だ。
資源が全くないヴァルモントにとって、これほどの朗報はないだろう。
「そうよ! ダンジョンよ! これで一発逆転ね!!」
「クラリッサお嬢様、おめでとうございます」
パチパチパチとアリシアが小さく手を叩いている。
ルカスは目を回して座り込んでしまった。
盾がなくなったシアは涙目になりながら俺の腕を取る。
「あの女性は……何なんでしょうか?」
「この街の代官だよ。貴族だから失礼のないように」
「貴族様! 私には無理です!」
忠告してあげたのが悪手だったらしい。カウンターを乗り越えて俺の後ろに隠れてしまった。今はリリィがなだめている。
貴族にトラウマでもあるのだろうか。横暴な人も多いので、あの反応も普通ではある。近所に住んでいるロディックも、案内したらすぐに逃げたしな。
「冒険者ギルドには報告したのかしら?」
「まだです。先にガルドさんに報告をしようと話していて……」
「貴方は最高の判断をしたわね!」
ダンジョンは大きな資源であるため、発見者がどこの所属かによって利益の分配が多少変わってくる。
もしルカスが冒険者ギルドに報告をしていたら、ダンジョンの売上の何割かを支払う必要があっただろうが、今はまだ未発見の状態である。
代官の配下が見つけたとなれば、売上のほぼすべてをクラリッサが手に入れられ、冒険者ギルドはおこぼれを頂戴する形になるのだ。
「ええっと……どうしましょう?」
困ったルカスは俺に聞いてきた。
駆け出しの冒険者にこの手の話題を判断する知識はないので、助け船を出そう。
「クラリッサ様から発見者としての褒美は出るだろうから、冒険者ギルドには報告しないでくれるか?」
「僕はいいですけど、シアは?」
「ガルドさんにお任せします!」
「じゃあ僕もそうします」
なんと丸っと投げられてしまった。
こうなったら最後まで助けてあげるか。
「クラリッサ様、ダンジョンの真偽を確認して、もし本当なら発見者にはそれぞれ金貨一枚の報酬を渡すかたちでどうでしょうか?」
「そんなお金……」
「俺が立て替えます」
「決まりね!!」
とことん金がないんだな。まさか報奨金まで俺の懐から出ることになるなんて。
「それじゃ今から行くわよ!」
「クラリッサ様も?」
「もちろん! こう見えても学園じゃ戦闘の成績はトップだったのよ。ダンジョンを探索した経験もあるし、足手まといにはならないから!」
本人の申告が不安だったのでアリシアを見る。
うなずいているので問題ないとの判断をしたようだが、駆け出し冒険者のシアとルカスだけじゃ荷が重いだろう。
これもクラリッサが絶望して悪魔と契約しないためだ。
俺も手伝ってあげよう。




