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魔帝戦記  作者: 愛山 雄町
第三章「聖都攻略編」

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第三話「帝都上空の戦い:後篇」

 五月二十一日の午前九時半頃。

 グラント帝国の帝都フィンクラン上空では、史上最大の空中戦が行われようとしていた。


 攻撃側はグレン大陸の南東に位置するバーギ王国の精鋭、飛竜騎士団約二千騎。

 百騎単位で編隊を組み、高度百メートルほどと比較的低空を最高速度で飛行し、真っ直ぐ帝都に向かっている。


 防御側は帝国防衛軍の防空部隊約八百。

 約五百体のアークグリフォン隊は飛竜騎士団とほぼ同じ高度で待機しているラントが乗るエンシェントドラゴンのローズを中心に左右に展開し、その下方にはデーモンら百体が陣形を作って待機していた。


 また、大型のロック鳥百体と攻撃力の高いフェニックス百体は上空二千メートル以上の位置でゆっくりと旋回している。


 彼我の距離が一キロメートルを割った時、バーギ王国の将軍マッキンレーは敵影を発見し驚愕する。


(敵が待ち構えているだと! どうやって我らに気づいたのだ? 龍は一体だけだが、思った以上に敵の数が多い。これはある程度の損失は覚悟せねばならんな……)


 マッキンレーは高高度に上がっているロック鳥たちを見逃していた。これまでの常識では、同じ高度で待ち受けるか、慌てて地上から飛び立つかであり、地上への注意は払っていたものの、上空は完全に意識の外だった。


 強力なロック鳥たちを見逃したため、帝国軍は自軍の三分の一程度の数しかなく、互角以上に戦えると誤認した。


 マッキンレーは前進を命じる。


『このまま前進せよ』


 飛竜騎士団では念話などの通信手段がなく、飛行中の連絡はすべて手信号が使われていた。そのため、細かな指示は出せないが、長年の訓練の成果もあり、意思疎通に問題はなかった。


 その時、帝国軍から声が聞こえてきた。


『グラント帝国第九代魔帝ラントである! バーギ王国の飛竜騎士団よ! 降伏すれば命だけは助けてやる! 直ちに速度を落とし、着陸せよ!』


 その声は帝国軍の中心にいるコバルトブルーのエンシェントドラゴンから聞こえ、マッキンレーは魔帝がいると直感した。


(龍に乗っているということは本物か……ロセスにいたはずだが、我々の行動は筒抜けだったということか……いや、それならば龍を率いてくるはずだが……いずれにせよ、魔帝を倒せずとも奴が指揮する部隊に勝てば、魔族の士気は下がるはずだ……)


 マッキンレーは神聖ロセス王国にいるはずのラントが帝都いたことに疑問を持つが、空中戦ということで深く考える時間がなく、即座に攻撃を決断する。


『十一番隊から十五番隊は敵左翼に回り込め。十六番隊から二十番隊はそれに続け。一番隊から十番隊は待機し、命令を待て』


 続けざまに指示を出していった。


 飛竜騎士団の半数、一千騎が右に旋回しながら帝国軍に向かっていく。その機動は単純なものではなく、敵左翼を包み込むように上下に開き、十個の部隊が等間隔で展開していく。


 ラントはその様子を見て感心し、ローズにそのことを言った。


「なかなかの練度みたいだ。油断せずに最大戦力を当てて正解だった」


『そうね。でも、しょせん飛びトカゲよ。敵ではないわ』


 ローズがそう言った直後、帝国軍が動いた。


 距離が三百メートルを割ったところで、下方に待機していたデーモン隊が一斉に魔法を放つ。


 魔法自体はファイアボールという比較的初歩の単体魔法だが、それが同時にかつ一ヶ所に集中した。


 狙われたのは下方から接近しようとしていた一団で、高位の魔術師が放つ戦術級魔法に匹敵する膨大な熱量を受け、瞬時に十騎ほどが墜落し、五十騎ほどが編隊から脱落する。


「さすがはアギーが直接鍛えたデーモン隊だ。素晴らしい」


 ラントは満足げに呟く。


『ほんとに凄いわね。あれが当たったら、私でもダメージを負うわ。でもあれって、あんたが天魔女王に命じたものでしょ?』


「確かにそうだが、私はアイデアを出しただけだ。それを戦闘に使えるまで洗練させたのはオードだし、実際に使えるようにしたのはアギーたちだ」


 魔法の集中使用はラントが提案したものだ。発想自体は人族でも知っている。しかし、地上では配置できる人数が限られるため、威力の向上が見込めず、実用化されなかった。


 ラントは柔軟な配置が可能な空中であれば、魔法の集中運用ができると考え、魔導王オードと魔導研究所に研究させた。その結果、同一種族で念話を用いて運用することで、実用レベルになることが分かり、飛翔可能なデーモンたちに訓練を施したのだ。


 デーモン隊は更に攻撃を加えていく。

 ファイアボールという初級魔法であり、デーモンたちは五秒程度の間隔で連射が可能だ。そのため、デーモン隊に近い竜騎士たちは次々と撃墜されていった。


『上もデーモン隊を見て焦れたようね』とローズが笑いを含んだ念話でラントに伝えた。


 ラントが上を見ると、ロック鳥たちが垂直に近い角度で急降下していた。目標は左翼側に向かった部隊ではなく、待機している部隊に向かっていた。


「ここからでもやる気が満ちていることが分かるよ。地面に激突しなければいいんだけど」


 ラントが言った通り、重力を生かした通常では考えられないような速度でそのまま地面に激突するのではないかと危惧していた。


 飛竜騎士団も遅まきながら上空からの強襲に気づいたようで、慌てて散開を始めた。

 しかし、気づくのが遅れたために間に合わず、ロック鳥たちは飛竜騎士団の中央部を突き抜けていく。


 すれ違う際にロック鳥は風のブレスを、フェニックスは炎のブレスを放ち、そのまま騎士団の中をすり抜けていく。


 通過した時も減速しておらず、地面に激突するかに見えた。しかし、地面ギリギリで上昇に転じていく。


「よかった……」とラントは犠牲者が出なかったことに安堵する。


 ロック鳥たちが通り過ぎた直後、数百の竜騎士がバラバラと墜落していった。


『グリフォン隊も圧倒的ね』


 ローズの念話にラントは視線を左に向けた。

 デーモン隊によって隊形を崩された飛竜騎士団にアークグリフォンたちが襲い掛かっていた。


 アークグリフォンたちは二体一組の最小単位を基本に、格闘戦(ドッグファイト)を挑んでいる。これもラントの提案を基に考えられたもので、単騎で戦う竜騎士たちは翻弄され、次々に落とされていった。


 飛竜騎士団の団長、マッキンレー将軍は目の前の光景に言葉を失っていた。


(何が起きているのだ? 魔族が戦術を使うなど聞いたことがない……このままでは全滅してしまう。だが、大人しく逃がしてはくれんだろう。ならば……)


 マッキンレーは生き残った竜騎士たちを脱出させるため、予備兵力に命令を出した。


『地上を攻撃せよ』


 彼は帝都を攻撃することで敵を引き付けることを企図した。


 マッキンレーは空に向けて三発のファイアボールを放った。

 これは撤退の合図で、気づいた竜騎士たちは翼を翻して敵から離れていく。


 地上に向かった部隊に帝国軍は反応した。また、脱出しようとする竜騎士を追う者もおり、帝国軍も僅かに混乱する。

 マッキンレーは直属の五十騎に命令を発した。


『魔帝に突撃せよ』


 そして、自らが先頭に立ち、混乱する帝国軍に突っ込んでいった。

 アークグリフォン隊はマッキンレーらに気づいたものの、味方の多さが仇となり、突破を許してしまう。


『こっちに来るわよ』とローズが念話で伝える。


「君に命を預けている。すべて任せた」


『任せなさい!』と言うと、マッキンレーらに向けて真っ白なブレスを放った。


 マッキンレーはそのブレスを紙一重で回避したが、部下たちの多くがその犠牲になった。

 それでもマッキンレーの戦意は衰えず、真っ直ぐにラントに向かっていく。


『しっかり掴まっていなさい!』とローズはラントに命じ、翼を翻して急降下する。


 そのジェットコースターのような急激な機動にラントは恥も外聞もなく、「うわぁぁぁ!」と悲鳴を上げる。


 ラントに見る余裕はなかったが、彼の周囲をロバートらアークグリフォンの護衛が守り、追従しようとする竜騎士に対応していた。


 ローズの大胆な行動とロバートらの冷静な対応に、マッキンレーらの決死の突撃は空振りに終わった。


 ラントはまだ心臓がバクバクと言っているが、ローズに礼を言った。


「君に任せて正解だった。助かったよ」


『当然よ。私はあんたの騎龍なんだから』とつっけんどんな感じの念話が届くが、その中にテレがあることにラントは気づいていた。


 周囲を見回すと、飛竜騎士団の編隊はズタズタに引き裂かれ、まともに飛んでいる者は当初の四分の一以下になっている。


「そろそろ終わらせよう。降伏勧告を行うから、拡声の魔法を頼む」


 ローズは上昇しながら拡声の魔法を掛けた。

 それを確認したラントは飛竜騎士団に降伏勧告を行った。


「飛竜騎士団よ! 既に勝敗は決した! これ以上の抵抗は無意味だ! 降伏の意思がある者は直ちに着陸せよ!」


 ラントの呼びかけに竜騎士たちは次々と地上に向かった。

 その中にはマッキンレーもいた。彼自身は最後まで戦うつもりでいたが、騎竜が傷つき、墜落に近い形で地上に降りていたのだ。


(完敗だ……どうしてこうなった? これが新たな魔帝の力なのか……)


 茫然自失で立つマッキンレーら竜騎士たちを、到着した地上部隊が拘束していった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 待ち伏せくらってそこにラスボスがいたなら損害を無視して首狩り戦術に行くしかなかろうに。中途半端にまともに戦おうとしたのが敗因……いや、さすがにどうやっても勝てませんねこれ。
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