90. 究極の格闘術を受け継いだ者達
「さて、どこから話すかな……」
火竜の国の王サラマンドラは、身なりこそ粗末だが圧倒的な強者の風格と威厳を保ちながらも、腕を組みルリフィーネへ説明をする為の順序を考える。
「あの、私から質問してもよろしいでしょうか?」
「そうだな、お前が気になっている事に答えていくか」
私が眠っている間に、国王陛下が考えるほどの何かが起きた。
ひょっとしたら、水神の国が凍土になってしまった理由やネーヴェと呼ばれる姫君に繋がることが聞けるかもしれない。
でもまずは……。
「ありがとうございます。それではサラマンドラ国王、どうしてあなたはここに居られるのですか?」
何故一国の主がこの場所に居るのか?
とても視察や旅行という雰囲気ではなさそうだし、シウバさんが没落とか匿うとか言っていたから、何かただならぬ事でもあったのでしょうか?
具体的な内容を知れば、世界が変わったとつぶやいてた理由も解るかもしれませんね。
「火竜の国には数年に一度、玉座をかけた戦いがある。お前も知っているだろう?」
国王の言うとおり、火竜の国は武に重きを置いた国で、国民は子供から老人まで皆強くあるべきだと日々鍛錬に励んでいる。
その国で行われる王座決定戦では、国内外問わず技を磨き、体を鍛えぬいたつわもの達が集まって戦い、たった一人勝ち抜いた真の猛者が次の王座決定戦までの間、火竜の国の全権を支配出来る。
「俺は十数年間、ずっとその戦いに勝ち続けて王の地位を確立してきた」
そう、彼はその戦いを勝ち抜き実力で至高の座に就き、そして幾度と訪れてきた戦いでも挑戦者を寄せ付けない程の圧倒的な力を見せてきた。
「もう絶対に負ける事はない。極竜の闘法を破れる奴なんて誰も居ないと思っていた。だが、そんな時にあいつが来た」
「典型的なうつけ者やな、こんなのが血の繋がりは無いにしても息子だったと思うと情けないわや」
「んだと!? てめえ今度こそ潰すぞ?」
国王が扱う拳法は極竜の闘法と呼ばれており、過去に新世界でハーベスタさんが話したとおり、究極至高で絶対無比な格闘術と言われている。
それだけ強ければ門下生とか弟子がたくさん居てもいいとは思っていましたが、シウバさんやサラマンドラ国王の性格から察するに、そこまで教えを広めてはいないみたいですね。
だからこそ、私も正直信じ難かった。
極竜の闘法を身に着けたサラマンドラ国王の強さは、はっきりいって並みの人間では絶対に届かない境地なのだから。
そんな絶対的だった国王を打ち負かす程の相手……。
「あいつというのは、フィレですか?」
もしも倒せる人がいるのならば、私が知っている限りはたった一人。
フィレ・テンダーロイン。
私がサクヤ邸で出会った白い服の女性。
「そうだ」
サラマンドラ国王は真っ直ぐこちらを向き、頷きながら答える。
「俺はあいつと戦い……、そして負けた」
この人が負けた事も衝撃的だけれど、それ以上にこの人を負かしたフィレに対して驚いていた。
あの方も闘法について言っていたから、まさかとは思っていましたがそこまで強い方だったとは……。
私では到底勝てなくて、サラマンドラ国王ですら勝てないなら、一対一の肉弾戦で彼女に勝てる人は恐らく居ないでしょうね……。
「今じゃ国王は俺じゃなく、あいつだ」
「……正直信じがたいです。お強い方とは思いましたが、まさかあなた様を負かすなんて」
それならば、フィレは力を誇示するために火竜の国王の座を奪ったという事でしょうか?
それとも別の理由が……?
そうなると。
「でも先ほど匿って欲しいと言いましたけれども、どうして追われているのです?」
「あいつは玉座を奪った途端、反逆の目を摘むという意味で俺の命を要求してきやがった。まさか国王から指名手配者になるとは思ってなかったけどな」
「なるほど……」
やはり玉座以外に何か狙いがあるに違いない。
国王の地位や勝者としての名誉が欲しいだけなら、前王の命まで奪う必要が無いですからね。
仮に再度挑戦してきたならば、公の場で改めて打ちのめせば良いし、それが出来る実力があるのに敢えてそうしたというのが余りにも不自然すぎる。
「昔の戦友はどこへ行ったか解らなかったからな、こんなとこしか隠れる場所が無かった」
「嫌だったら出て行け!」
「しゃーねえだろ。命には代えられん」
傭兵時代の仲間も散り散りになり、本当に頼れる人も居ない窮地の中、ここにたどり着いたという訳ですか……。
「あの、国王陛下」
「もう国王じゃない。敬称もいらん、呼び捨てで構わん」
「ではサラマンドラ様」
「呼び捨てと言ったはずだ」
「はいサラマンドラさん」
「……好きにしろ」
もう既に国王では無くなったサラマンドラさんは、一つだけ大きくため息をつく。
私にとってはあなたは強く雄々しく、王者という単語が最も似合う人物だと思っております。
たとえ今は地位を失われても、あなたならきっと再び実力で勝ち抜き、あるべき場所へ帰ると信じております。
「どうしてフィレはあれだけ強い力を持っているのでしょうか?」
私はそう質問したが、それは新たな情報の収集と言うよりかは確認に近いものだった。
自身の予想が正しければ、フィレはサラマンドラさんと同じ師の下で苦楽を共にしてきた師弟なはず。
「あいつは元々、弟弟子だ。そこのジジイのな」
やはりそうだった、私の予想は正しかったですね。
サラマンドラさんと同じ格闘術を扱えるならば、確かに見よう見真似で覚えた私では到底勝てませんね。
ですが、いつかは決着をつけなければいけない時が来る……。
その時までには私も力をつけておかねば。
ユキ様をお守りするためにも、ユキ様が正当な地位を回復なされるためにも。
「最後に……、ネーヴェという方をご存知ですか? この国の姫君らしいのですが」
「お前が言いたい事は解る。スノーフィリア姫に取って代わったネーヴェという存在がきになるのだろう?」
気がかりはやはりネーヴェと呼ばれる謎の姫君の存在だった。
ネーヴェと言う存在が何者かも気になりますが、それ以上にユキ様はどうなってしまったのか。
正直、私はユキ様がまだどこかで生きているような気がしてならない。
根拠や確固たる証拠はないし、希望とか願望なのかもしれないけれど。
ただ、あのままサクヤ邸で最悪の結果を迎えられた……なんて、そんな終わり方をするような人ではない。
だってあの方は……、あの方は……。
「悪いが俺も解らない。表を歩けない身になってしまったからな、実際に見た事すら無い。しかし、水神の国をこんな風にしてしまう奴だ。想像もつかない力を持っているのは間違いないな」
……まずは目の前の問題をについて考えましょう。
確かに、サラマンドラさんは命を狙われている。
ここへたどり着く道中も、人目を避けて来たのかもしれない。
まあ、追跡者くらいなら片手一本で返り討ちに出来そうな気はしますが、無用な騒ぎを起こして不利な状況を招きたくないのでしょうね。
そんな方が一国の姫君の姿を見れるとも思えないですからね。
兎も角、まずはユキ様を探して合流せねば。
セーラさんや、ホタルさんとも連絡を取ったほうがいいかもしれない。
他にも新世界に所属していた人々や、迷惑をかけるのを覚悟でラプラタ様の力を借りるの事も考えないと。
「そうですか。いろいろとありがとうございました」
情報を一通り聞き、そして次に何をするべきかを決めた私は、ユキ様を探す旅に出ようとする。
「おい」
私は一回だけ深くお辞儀をしてサラマンドラさんやシウバさん、アルパさんに感謝の思いを伝えると、まずはネーヴェ姫の姿を見るべく凍土と化した国の都を目指そうとした時、サラマンドラさんが私を呼び止めてきた。
「はい、何でしょうか?」
「ふむ……、死ぬなよ」
「勿論です」
今は体も動く、頭だって正常に物事を考えられる。
諦めなければきっと切り開ける。
いえ、私が切り開いていく。
ユキ様……、待っていてください。
このルリフィーネ、必ずやあなた様の下へ向かいます!
「痛っ! 何しやがるこのクソジジイ……」
「この馬鹿もん! そうじゃないやろ!」
一度は挫けた決意を再び固めて出立しようとした時、シウバさんは見送るサラマンドラさんの足を蹴る。
「ったく、解ったよ……」
そうじゃないという事は、シウバさんには何か他の考えがあるという事でしょうか?
「そんなぼろぼろの装いで主人の下へ戻る気なのか?」
「それは……」
私はそう言われ、自分の服装を見直す。
そこらじゅうが解れ、破け、汚れも酷い状態だ。
ですが、メイド服は道中で直せば問題ないでしょう。
「アルパは裁縫が得意だから直してもらえ、その間俺が修行をしてやる」
「本当に、よろしいですか?」
国王時代から身近のお世話をしてきて解った事。
サラマンドラさんは、失礼ながら面倒見がいいわけではない。
それなのに、私に稽古をつけてくれるというのでしょうか?
「構わんよ。せいぜいこの馬鹿野郎をこきつかってやれ」
「ジジイ、てめえが言うなよ……!」
ユキ様を探す道中でフィレ嬢と出会えば、まず間違いなく戦いになり、そして結果は前回と同じになってしまうでしょうね……。
今度こそ、命も奪われてしまいユキ様と二度と会えなくなるかもしれない。
そうならない為にも、今は時間がかかっても遠回りする事が正解でしょうね。
シウバさんも認めてくれていますし、こんなチャンスはもう無いかもしれませんし。
「お言葉に甘えます。ありがとうございます」
ユキ様、あなた様に出会うのが少しだけ遅れるのをお許し下さい。
ですがルリフィーネ、必ず今以上に力をつけて戻りますから!




