88. 果たせなかった約束
「スノーフィリア様」
心地よい暖かな日の光が差す宮殿内。
水神の国の王女スノーフィリアに食事が出来た事を伝えるべく、白い使用人の衣装を着たメイドが王女の私室へと入る。
「あらあら、そんなに甘えてどうしましたか?」
退屈そうにしながら本を読んでいた王女は、メイドの姿を見た途端に本を机の上に置き、一直線にメイドの胸を目指し、到着すると間も無く飛び込んで甘えた。
「だってルリの事、大好きなんだもん」
「ふふ、ありがとうございます」
可憐で素敵で優しい姫が、ハウスキーパーとはいえ一介のメイドにこんなにも愛情をもって接してくれている。
メイドはとても幸福だった。
こんな穏やかな日々がずっと続けばいいと心から願っていた。
「さあ、お食事の準備が出来ております。国王様と后妃様、両陛下がお待ちです」
「うん!」
しかし、そんな願いはきっと叶わないだろう。
いつか王女は誰も想像しえない大きな試練と困難に立ち向かわなければならない。
その時は、私も力になりたい。
そう思いながら、メイドは王女の手を取り、まるで親子の様に仲良く部屋から出て行き食堂を目指す。
しかし、視界が白く明るくなっていき、王女の手の感覚もなくなった時……。
「……あれ、ここは?」
次に気がつくとルリフィーネは、川のわんど内に浸っている事に気がつく。
「川……? どうして?」
自分が何故ここに居るのか?
どうして今まで寝ていたのか?
ユキやセーラはどうなってしまったのか?
ただただ、解らない事だらけだったが……。
ルリフィーネは、半目のまま自分の手を見る。
綺麗なレースの裾は破れてぼろぼろになっており、拳には無数の青あざが残っている。
「そうですか……」
サクヤの館へ入り、途中で出会ったフィレに打ち負かされてしまい、手段は解らないが館を抜ける事は出来たがこうやって川の溜まりの中に居る。
今自分がどういう状態かを知覚した時、ルリフィーネは自分の身に起きた事をおおよそを理解した。
「ぐっ……! 体は動かないようですね……」
どうにか川から脱出しようと試みるが、体は衣装が水を吸っているせいと戦いで受けた傷のせいで、まるでいう事を聞かない。
無理に動かそうとすれば、ルリフィーネでも耐えられない激痛が全身を貫く。
「申し訳ございません……、約束、守れませんでした……」
自分は敗北してしまい、ユキの側に居る事が出来なかった。
宮殿で離れてしまってからずっと後悔していた。
ようやく修道院で合流出来て、それからはずっと一緒に居ようと決めていた。
でも、それは叶わなかった。
たとえ私が居たとしても、あのフィレには勝てそうには無い。
そしてフィレは、ユキ様がユキ様であられ続ける限り敵として私の前に立つ。
もう、私に出来る事なんて……。
弱気になったルリフィーネは、心までも川の淀みの中に浸していく。
体からは力が抜け、再び彼女には穏やかな眠りが訪れた。




