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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Another one. ルリフィーネの再起
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87. 止まらない運命

 夜。

 とある場所にて。


「おい……、ここがそうだぜ」

 誰から見てもがらの悪い男二人が、やたら大きな荷台を取り付けた馬車を引き連れ、明かりのついていない館に指をさす。


「アニキ。本当にこんな場所にお宝があるんですかねぇ?」

「間違いない、俺が組織に入ってた頃に仕入れた情報じゃ、ここは組織幹部が使っていたらしいからな!」

「流石っすアニキ!」

 彼らの目の前にある屋敷。

 外観は綺麗で庭の草木の長さも整えられているが、まるで人気が無い。


「よーし、片っ端から金目の物を頂いていくぜ!」

「ほいさっさ!」

 がらの悪い男達の、今日の仕事は始まる。

 馬車を適当な場所に止め、彼らは大きなカバンを抱えて今は主無き館へ何ら遠慮無く入ってゆく。


 彼らの仕事は順調に進み、馬車の中には高級な美術品や館の主が身につけていたであろう貴金属類、着ていたであろう高級ドレスが次々と外に停めてある馬車の中へと運び込まれていく。


「ね、ねえアニキ」

「ああ? なんだ?」

 そんな一見順風満帆とも言える状況で嬉々揚々と仕事を進めている中、柄の悪い男の一人が身を震わせて一つの部屋の扉を指差す。


「な、なんかその……、嫌な空気ですぜ」

「お前びびっているのか?」

 その扉の外観は、特別他と変わりは無い。

 しかし、男は何かよからぬ雰囲気を察知したのか、もう一人のアニキと呼ばれている男へ注意を促そうとする。


「俺の情報ではな、もうここには誰も居ないんだよ!」

「そ、そうっすよね」

「ほら、さっさと奥に行くぞ!」

 アニキ分の男はそんな雰囲気に気がつかなかったのか、それとも自分が仕入れた情報を信じて疑わなかったのか、実は気づいていて敢えて嫌な雰囲気を払っただけか。

 彼の注意を一切耳に入れず、言葉を乱暴に否定して館のさらに奥へと入っていく。


 それからしばらく経ち、柄の悪い男の二人組はある部屋を見つけて入ってゆく。

 その部屋は他の部屋と比べて広く、天井も高く、そして物が無くて殺風景であり、まるで何かをするためにわざと空けているとも捉えられなくは無い。


「なんでこんな広い部屋……。あ、アニキ! あれ!」

「ったく、なんだぁ……?」

 そして男は、部屋の中央で何かを見つける。

 心もとない明かりのせいか、いまいちそれはよく解らなくて、アニキ分の男は確かめようと目を凝らしながらだんだん近寄っていき……。


「げっ……。し、死んでいるのか?」

 遂にその床に落ちていた物の正体を知り、思わず身を引いてしまう。


「服装からしてこの館の使用人でしょうかね?」

 床に落ちていたと思われていた物。

 それは頭にフリルをあしらったカチューシャを着け、パフスリーブと数段にも及ぶ姫袖が特徴的な白いワンピースに、同じ色のエプロンを纏っている十代中盤から後半と思われる使用人の少女の、力なく横たわっている姿だった。


「館って誰も居ないはずですよね、アニキ?」

「う、うるせぇ! 死体があるなんて聞いてねえよ!」

 アニキ分の男も、まさか使用人の亡骸があるなんて想像もしていなかったらしく、また死体が残された状態で廃館となった背景を各々が想像すると、二人の男はただただ怯え狼狽してしまう。


「で、でもこの服、結構高そうだな。……お前、脱がして奪え」

 それでも盗人としての性なのだろうか。

 アニキ分の男は、力尽きた使用人の少女の着ている衣装が高値である事を見抜き、もう一人の男へそれを無理矢理奪おうと指示する。


「ええええ!? そんなん嫌っすよー! 大体、メイドの服なんて高く売れるんすか?」

「うるせー! つべこべ言わずさっさとしろ! 今日の食事、お前の分だけ量減らすぞ!」

「酷いっすよアニキー!」

 生娘の服を自らの欲望のままに脱がすのならばまだしも、物言わぬ死体をどうこうするのは流石に気が引けるらしく、もう一人の男は頑なにアニキ分の男の命令を拒絶したが、男の思いは受け入れられず食事を盾にされてしまい、あがなう事が出来ずしぶしぶと使用人の服を脱がそうとする。


「はぁ、何でこんな役を……。ん?」

 もう一人の男が、愚痴を漏らしながらも倒れている使用人に手をかけた瞬間、ある事に気づき手を止める。

「ああ? どうした?」

 アニキ分の男は、そんな彼の異変に気がついたのか声をかけてみるが……。


「アニキ! アニキ! こいつ、生きてますぜ!?」

 もう一人の男が声を荒立てながら、アニキ分の男へそう伝える。

「はぁ? こんな傷だらけで倒れているのに生きているわけ……マジかよ」

 まさかこんな捨られた館の中で倒れている少女の息があるなんて、想像もしていなかったアニキ分の男は、笑いながら半信半疑で倒れている少女の顔に触れてみるが、手から少女の体温を感じてしまい思わず真顔になってしまう。


「どうします?」

「んーむ……」

 弔う事もせず、身包みをはがすだけのはずだった哀れな少女の処遇を、二人は唸りながら深く考える。


「よし、こいつを連れて引き上げるぞ」

「ええっ、連れて行くんですか?」

 放置するわけでも、服を奪うわけでもなく、まさか体ごと持っていくと想像もしていなかったであろうもう一人の男は、声を裏返らせて思わず聞きなおしてしまう。


「女だろ? 生きているなら人買いに売れるじゃないか。お宝が目の前にあるのに、放っておかんだろ?」

「そ、そうっすね!」

 人身売買は、ならず者達が資金を調達する上での常套手段であり、それを熟知しているアニキ分の男はさも当然の様にもう一人の男へと答える。


「でも、もういいんですか? まだ奥にも部屋はありそうですよ!」

「もう荷物は馬車に乗らねえよ。それにな……」

「それに?」

 倒れた使用人を連れて行く理由に納得した弟分の男は、次に引き上げる理由について聞いてくる。

 それに対してアニキ分の男は答えていくが、みるみる顔色を悪くしていき。


「この先は本気で嫌な予感がする」

「嫌な予感ですか?」

「ああ」

 先ほど、弟分の男が言ったように意味深な発言を真面目な表情でする。

 それに対して同じ様な表情で受け答えをする。


「……」

「……」

 二人の間に重苦しい空気が漂う。

 この場に居る全員がそんな空気に飲み込まれ、そしてシリアスな雰囲気が少しの間続いていき……。


「ぶわぁっはっはっはぁ!!」

「ひゃあっはっはっはっ!!」

 まるで子供が顔を突き合わせてにらめっこをし続け、耐え切れなくなった時のように、二人は館中に伝わるくらい大声で馬鹿笑いを始めた。

 その行為には何ら意味は無かったが、それ故に彼らは可笑しかったのかもしれない。


「よし、行くぞ」

「へい」

 そして僅かに余韻を残しながら、未だに目を覚まさない使用人の少女を乱雑に馬車へと放りこむと、”もう誰も居なくなったであろう”館から出て行った。



 ある場所の渓谷沿いの街道にて。

 ならず物の二人が、馬車から溢れ出そうな程の大量の戦果を運びながら、意気揚々と岐路へつく。


「にしても、今日は大漁だな!」

「そうっすね!」

「全部売れれば、しばらくは遊んで暮らせそうだ」

「酒も飲み放題、女もやりたい放題!」

「おうー!」

 館の主が残したであろう品の数々はどれも貴重かつ高額な品物ばかりで、今日の戦利品を売り払えば男達の半生を約束する程の金銭を得られる事に間違いはなかった。

 勿論二人ともその事を知っており、これから訪れるであろう明るい未来を妄想する。


「俺な、実は夢があってな……。わ、笑うなよ?」

「どうしたんすかアニキ」

「俺、実はこうみえても手先が器用でな、アクセサリーとか装飾品作るのが得意なんだ。だから今日の金を使ってどこかの都で店を出そうと思っている」

「まじっすか!? すげーっすよ!」

 アニキ分の男が明かした意外な特技に、弟分の男は目を丸くして驚いている。

 意外そうな反応に、アニキ分の男はどこか誇らしげに鼻を鳴らした。


「そこで俺の作った物を売ってなー」

 弟分の男の食いつきが意外と良かったと察したのか、アニキ分の男は自身の将来の夢をさらに語ろうとしたが……。


「っておい、聞いているんか?」

 しかし、今まであった弟分の男の気配がまるで無い。

 夜も遅く、疲れて眠りについたのかと思いながら、アニキ分の男は何気なく振り返る。


「だ、誰だお前!?」

 そこには弟分の男は影も形もあらず、代わりにフードを深々と被った男が複数人、馬車のいたるところに乗っていた。

 アニキ分の男は、その事に気づき腰に下げていた曲剣を抜いて応戦しようとするが……。


「あの屋敷に入ったな? 悪いが死んで貰う」

「お、お前ら……、組織の……ぐあっ!?」

 彼の行為も虚しく、フードを被った男達の正体が解った瞬間、武器を振るう間も無く短剣で胸を突かれてしまい、馬上から転げ落ちてしまった。


「馬車はこのまま谷へ落とすぞ」

 フードを被った男の一人が、右腕に仕込んでいたボウガンで荷車を引く馬の尻に矢を射る。

 今まで道なりにひたすら走っていた馬は一際甲高い鳴き声をあげながら急に速度を上げていき、制御しきれず谷底へ馬車ごと落ちていってしまう。

 勿論、中にあった荷物も全て共連れになり、全ては光も届かない暗い場所へと落下していった。

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