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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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81. 招かれた場所へ

 準備は手際よく終わり、日が没する頃に後発隊は出発する。

 新世界の隠れ家を出てから馬を飛ばし、周囲の明かりが各自の持っているランタンだけとなった時。


「ここで一時別れだな」

「はい」

 後発隊は一旦、平原の中にある雑木林へと身を隠す。

 ここからハーベスタは新世界の仲間を避難させ、ユキら三人はサクヤの別邸へ行く事となる。


「ここから西へ半日ほど馬を飛ばしていけば貧民街がある。そこにマリネ達も居るから、お前達も仕事が終わったら来てくれ」

「解りました」

「やばくなったらすぐに撤退してくれ。裏切者の作戦をそのまま採用し続けるのは気に入らないが、ユキを擁立するのは俺達にとって最も有効な手だからな、だからユキが居なくなっては困る」

「うん」

「ユキ様は必ずこの私がお守り致します」

 自分が必要とされている。

 そう感じたユキは心地よい高揚感に身を委ねられながら、ハーベスタや他の仲間との再会を約束する。

 この時ルリも同じ思いだろうし、何も言わないけれど一つだけ小さく頷いたセーラちゃんだってそうだと疑わなかった。



 ハーベスタから離れた三人は、雑木林を出て地図を頼りに、サクヤの別邸までの道を馬で駆ける。

 時間をおいてはサクヤに不信がられてしまう。

 そんな思いか、それとも別の何かが作用しているのか、妙な焦燥感が背中を押す。


「ユキ様」

「ん? どうしたの?」

 そんな道中、並走していたルリフィーネはユキへと話しかける。

 馬上は揺れて話しにくいのに、何か伝えたい事があるのかな?


「……私はずっとあなたの側に居ますから、たとえどんなに離れたとしても、私はあなたがどうなろうとも一生ついていきますから、どうか――」

 ルリフィーネは、いつもの優しい笑顔に少し寂しさを混ぜたような表情をしながら、ユキへそう伝える。

 言葉の最後が小声だったのか、上手く聞き取れなかったけれども……。

 いきなり何を言い出すの?

 そんなのは言わなくても解っているよ。

 あなたとは主従の関係なんかじゃない、家族同然だよ。


「ありがとうね、ルリ」

「はい」

 でも、直接口に出して言ってくれる事が嬉しかった。

 こんなにも私を大切に思ってくれている人が居るって事、解っただけでも十分だよ。

 ユキはうっすらと涙で目を潤ませながら、感謝の思いを伝えた。



 それから馬で走り続け……。

 夜の闇があたりを完全に支配し、静寂と休息の世界へ移り変わった時。


「ついたね」

「はい」

 三人はサクヤの別邸へ到着する。

 当然他の新世界の人々が居ないせいか、人気はまるで無い。

 各々は馬から下りると、本人達は意識したわけでも無いのにユキを囲うかのような配置になっていた。


「このまま私が先頭に、殿はセーラさんで、真ん中にユキ様という順番で進んでいきましょう。どんな辛辣な罠があるかもしれません。ハーベスタさんの言うとおり、少しでも危ないと思ったらすぐに出ましょう」

「うん」

 ルリフィーネの指示の下、ユキとセーラは言われた通りの順番でサクヤの館へと入っていく。

 館の中は、魔術で明かりが生成されているお陰か意外と夜の暗さは誤魔化せている。


「静かだね……」

 しかし、人の少なさだけはどうしようも誤魔化せなかった。

 いくら新世界の人たちが来るとはいえ、そして夜とはいえ、使用人や見回っている衛兵が誰も全く居ないというのもおかしい。


「我々は建前であっても招かれた身です。出迎えが一切無いのが気になりますね」

「うん」

 ルリの言うとおりだ。

 これじゃあ館のどこに行けば良いかが解らない。


「ですが、立ち止まっていても仕方ありません。先へ進みましょう」

 このまま待っていても出迎えの来る気配が無いので、一行は仕方なく先へ行く。


「……」

 全員は何も喋らず、終始無言だった。

 足音と、三人の気配しかない世界。

 寂しげな館内を警戒しながら、ゆっくりと奥へ歩いていく。


 本内ならば頼もしい明かりですら、ユキの恐怖心を煽り立てる。

 背中に汗の伝う感覚、風が吹いていないのにそわそわする肌、原因不明の耳鳴り。

 それらがユキの心の中に隠れていた魔物を呼び覚ましてゆく。

 ユキはそんな魔物に負けない様、ルリフィーネの手をぎゅっと強く握る。

 ルリフィーネはそんなユキを察したのか、笑顔をそっと向ける。


 一行は、形容しがたい不安感と戦いながらゆっくりと警戒しつつ、館の奥へ奥へと入っていく。


「ここも入れないよ」

「こっちも行き止まりですね」

 部屋数は多く、サクヤの館は意外と広い。

 しかし、大半の扉は魔術で頑なに施錠されており、入る事が出来なかった。


「ねえルリ」

「なんでしょう」

「これって、誘導されているよね……?」

「そうですね……」

 各自は何ら手がかりが無かったため、扉を見つけては開けようと試み、開いたら入っていくを繰り返してきた。

 その結果、無秩序ではあるが館の奥へと進んでいる感じはあった。

 しかしユキは、特定の場所へ誘き寄せているようだと思いルリフィーネへと相談する。

 ルリフィーネも同様に不信がっている様子は見せたが、このままでは何の収穫も無いので、結局一行は先へと進むしかなかった。


 そして館のさらに奥へ奥へと進んでいき、ある扉の目の前でセーラとルリフィーネの足が止まる。


「セーラさん、気がつきましたか?」

「うん。この先に気配が一つ」

「用心して入りましょう」

 私にはまるで解らなかったけれど、ルリとセーラちゃんは気づいたらしい。

 目の前の扉の先には誰かが居る。


 ルリフィーネは扉をゆっくり押して開けていく。

 いきなり攻撃を仕掛けられても対処できるよう、周囲を見回しつつ警戒しながら入っていく……。

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