80. 采配
ハーベスタから打ち明けられた驚きの事実。
”サクヤは裏切っている”
今まで仲間と信じ、彼女の助力を受けてきたのに……?
「え、どういう事なの?」
ユキにはまるで理解出来ず、反射的にハーベスタへ言葉の意味を問いかける。
「どういう事も何も言葉の通りだ。あいつは組織側の人間だ」
「私も理解できません。詳しく説明をしていただけませんか?」
その場に居合わせたルリフィーネも同じ考えだったらしく、重大な事実をどうにか解るために、不安げな表情を見せながらハーベスタへ説明を願う。
「……あいつの行動には不審な点がいくつかある」
ハーベスタもあまりに突拍子も無い事を、口に出したと自覚したのだろう。
鼻を大きく鳴らした後に、どうしてその結論に至ったのかを語り始める。
「まずオルクスと国王が狙撃された時、どちらも近くにはサクヤが居た」
「そう言われれば……」
「しかも、お前さんの結婚式って見境無く貴族が襲われてたんだろう? そんな中で生き残るって事は専属メイドのような猛者か、かなりの強運の持ち主か、組織の構成員が事前に気をつけるくらいの重要な人物なのだろうな」
ユキは過去の出来事を思い返す。
確かにそうだった。
サクヤは婚約の儀のあった王城に居たし、オルクスが命を奪われた港でも居た。
じゃあ同じ様に殺されたアレフィは……。
今私達が居る新世界の隠れ家は、アレフィが殺害されたコンフィ公爵の別邸に近い。
もしも灯台から狙撃したのがサクヤだったら、館から外に出たアレフィの命も狙える……。
そうなると、サクヤが実行犯なの?
サクヤが私のお父様を殺した仇の正体、……なの?
「付け加えて、オルクスは催眠術で組織の秘密を明かそうとした時は妨害されたが、ブカレスが船上で組織の秘密を話しても何とも無かった。サクヤは船には居なかったからな」
ユキは過去の記憶を呼び起こす。
そう言われればアレフィも、出会った貴族の名前を言おうとしたら狙撃された。
もしかして、あの時言おうとした名前がサクヤだったら……。
三人とも、名前がきっかけになっている?
サクヤは真犯人である事を隠そうとしてきた?
「次にサクヤは必ず俺達と一緒に居た」
「新世界のメンバーだったら当然なのでは?」
「だったら行き先を偽ったり、誤魔化す必要はないだろう? 素直にそこへ行くと言えばいい。それをしなかったという事は、あいつに何か隠したい事や後ろめたさがあったというわけだ」
中央精霊区には私達だけだと思っていたけれど、サクヤも居た事をマリネさんは言っていた。
しかもその時、別の用事があると言っていた。
ハーベスタの言うとおり、同じ新世界の仲間なら嘘をつく必要なんてなかった。
ユキは視線を落として過去と現在の出来事を紐付けて行き、あるひとつの結論へ至った。
”サクヤは何らかの方法でほぼ常に側に居て、私達の動向を見ていた”
「奴の真の作戦はブカレス、オルクス、アルマンジはユキを擁立するための踏み台と思わせてだ」
ブカレスは組織とは無関係でかつ、知られたくなかったであろう組織の総帥に関する情報を持っていた。
他の二人は……、確かめる術が無いけれども。
もしも、組織が邪魔とするなら。
「本当は組織にとって不都合な人間だから、新世界の勢力を使って消すって感じか?」
サクヤはアルマンジの下へ行くと言っていた。
もしかして!?
新世界のメンバーに三人を害させ、最終的に罪を新世界に押し付けさせるという事なの?
ブカレスとオルクスは居なくなり、アルマンジをサクヤが何らかの方法で殺害すれば、新世界はもう用済みになってしまう。
「じゃあ、先に向かった皆が!」
「安心しろ、マリネにこの事を伝えてある。サクヤの別邸へは行かずに他の場所へ向かうよう連絡済だ。正直危うい状況だが……、あいつらならどうにかそこまで逃げてくれるさ」
サクヤの館への誘いが危険な死の罠と察したユキは、血相を変えてハーベスタに救助を願おうとする。
しかしハーベスタは既に手を打っており、サクヤからばれないようにマリネ達を逃がしていた事を伝えた。
「じゃあ私達も身を潜めましょうか?」
「いや、お前達には敢えてサクヤの別邸へ行って欲しい」
ルリフィーネは真剣な眼差しを向けながらそう言うと、ハーベスタはゆっくりと首を横に振り、敢えて罠に飛び込む事を提案する。
「どういう事?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず……ですか?」
「まあ、そんなところだ。俺もはめられっぱなしでは癪だからな」
確かにこのまま逃げ切れたとしても、組織は私と新世界の人々を放ってはおかない。
ありとあらゆる手段を使って追い込み、そして酷い目にあわせてくるに違いない。
……結局戦うしかない、どんな不利な状況であったとしても。
私達が生き残り未来を掴むには組織を打つしか方法が無い。
「それにユキを狙う理由が解らん。そもそも本当にユキの命が欲しいのかあいつら?」
「それは間違いないと思う、だって散々危ない目にあってきたから」
私がこんな境遇に落ちた原因となった婚約の儀の時、アレフィと対峙した時、審問官に襲われた時、地下水路でコンフィ公爵や改造されたココと再開した時。
あらゆる場面で私は命を奪われそうになってきた。
そんな危機的状況を私は変身して召喚術を扱ったり、または周りの人が助けてくれたりしてどうにか切り抜けてきた。
私の命をとろうとしてきているのは解りきっているのに、今更どうして?
「でも助かっているだろ? 俺がいいたいのは、それすらも予定調和じゃないかと思ってな。だがな、それをしてあいつらに何の得があるかまでは解らない。そこも知りたい」
私を窮地に追い込んで、苦境へと追いやって、その為に周りの人を犠牲にして……。
精神的に私を苦しめたいの?
私を追い詰めたいの?
解らない、組織が何を考えているのか、何が狙いなのかがまるで見えない。
そんな事をして何のメリットがあるの?
「後は灯台からの銃撃。奴等はどんな手を使ったのか知らないとな、都合が悪くなれば狙撃されて終了じゃ作戦も何もありゃしないからな」
遠方からの狙撃、しかもたった一発で狙った人の命を奪える。
それがどんなに脅威で危ない事かは解る。
ハーベスタがどんな作戦を考えても、一瞬で無駄になってしまう。
「お前達、頼めるか?」
「……はい」
「解りました」
サクヤへの信頼、そんなサクヤが裏切っているという現実、そこから芽生えた不信感。
尊敬、憧れ、不安、未来への展望。
そして真相を直接確かめたいという、甘く危うい好奇心。
ユキは心中を様々な色で染めながらも、ハーベスタの秘密作戦の参加へ同意し、各自はそれらに向けて準備していく。




