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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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78. 波乱、動乱、混乱

 ブカレスとの対談が成されてから以降、船上では何も特別な事は起きなかった。

 あの日以来も幾度か会話しているが、組織に関して有用な情報は得られず時間だけが過ぎ去っていき、そして。


「皆様、長い船旅ご苦労様でした」

「ええ、いろいろとありがとう」

「いえいえ、ご武運をお祈りしていますよ」

 船は水神の国の港に到着する。

 新世界の一行は、意外な協力者であるブカレスとの別れを惜しむ。

 まさか国の高官で、正教でも高い地位にある人間が組織とは無関係で、頑なに中立を保っているなんて。

 そんな事実がユキも含め、全員は心の傾斜を良い方へ傾けた。


「それでは先に……」

 ブカレスはいつもの穏やかな笑みを見せながら、いち早く先に船から出る。

 彼を見送れば、マリネ達は隠れ家へ戻って一連の出来事を報告する……はずだった。


「ぐっ……!」

「!? ブカレス大主教!」

 目の前でブカレスが崩れ落ちる。

 大主教が着ている白色の法衣が、胸の部分からゆっくりと血の色に染まっていく。

 その光景はユキの父親が殺害された時や、欲望から解き放たれたアレフィの命が奪われた時と同じ。


「い、いやああああ!!!!!」

 過去のトラウマを刺激されたユキの顔から血の気は引き、金切り声を上げて絶叫した。


「落ち着いてくださいユキ様!」

「なんだなんだ?」

「どうした?」

 ルリフィーネが恐怖で翻弄されているユキをどうにかなだめようとしている中。

 ユキの声を聞いた、ブカレスと共に同じ船に乗っていた正教関係者らが、次々と船から下りてくる。


「こ、これは……!」

「お前らか!」

 力なく倒れ、すっかり生気を失ったブカレスの姿を見た正教関係者一同が驚愕し、そしてブカレス殺害の疑惑を側に居た新世界のメンバーに向けかけてくる。


「違う! 私達じゃない……」

「他に誰が居る? しらばっくれるな!」

「おい、そこの兵士! 大主教閣下殺害の犯人だ、捕らえてくれ!」

 そして正教関係者の一人が、近くで騒ぎを聞いて来た兵士に対し、罪を擦り付けられた新世界のメンバーを捕らえるよう命じてしまう。


「まずいわね……」

「いったん引きましょう」

 こんな状況で弁明をしても、一度不当に押し付けられた濡れ衣は着せられたままであり、誤解を招こうにも自身らがやっていないという確固たる証拠も無い。

 だからと言って周囲の雰囲気に飲み込まれ、このまま兵士についていってしまえば、まず疑いなく処刑台へ送られてしまうと察したルリフィーネとマリネは、とりあえずはこの場から逃げ出す事を決め、ルリフィーネはただ震えて立ち尽くすユキを強引に担いで一行は港からの脱出を図った。



 脱出自体はあの場に居合わせた全員が動揺していたせいか、無傷かつ誰一人脱落する事無く出来た。


「何とか抜けられました。追っ手は来ていないみたいです」

「でも顔がばれてしまったわ。まず間違いなく特定されているわ。私の顔の手配書が出回るのも時間の問題ね……」

 しかし、過去は暗いままだった。

 人通りの多い港町で兵士にも顔がばれてしまった以上、やがてはマリネから足がつく。

 元々高名だったマリネの偽りの悪名が広まり、二度と表道を歩く事が出来なくなってしまう。


「マリネ様……」

「それもどうするか考えないといけないけれど、……ルリフィーネちゃん見たかしら?」

 しかし、マリネはそれ以上に別の事を考えており、その事をルリフィーネへ確認する。


「陛下の時は近くで見る事が出来ず解りませんでしたが、あの傷口は銃撃によるものですね」

「なるほど銃ねえ、魔術の力を利用した物かしら?」

「音から察するに火薬で弾を発射するタイプかと思われます」

「どこから狙ったか解る? 正直あの辺りって隠れる場所無いのよね」

「可能性としては灯台からでしょうか?」

「確かに、灯台なら誰の目もつかないわ。でも正直、灯台からブカレスの急所を撃ち抜くなんて不可能なのよね。だってそんな遠い距離から撃っても現在の技術では届かないもの、火薬式なら余計にね」

「組織の新技術でしょうか?」

「もしもそれが方法として確立されているのなら、かなりヤバイわね……」

 二人がブカレスと国王の死因について様々な考察をしている間も、ユキはずっとルリフィーネへ抱きついたまま震え続けている。


「あまり人目のつかない道を選んでアジトに戻りましょう」

 ルリフィーネは何とかユキを慰め、ユキが落ち着きようやく一人で歩けるようになると、一行は人気の少ない道を選びながらアジトを目指す。



 そうやって警戒しつつも寄り道や通り道を可能な限り減らし、途中馬を調達出来た幸運もあってか、港から脱出してから半日後にはアジトへ到着する。


「おお、戻ったか」

 どうにか無事かつ、ばれずにアジトへ到着した一行をハーベスタとミズカが出迎えてくれた。


「やほー」

「あらミズカ、涼しそうな格好してるじゃない?」

 ハーベスタはいつも通りだが、ミズカの着ている衣装はここを出立する前より随分露出度が上がっており、スカートの丈も短く胸を覆っている布の面積も限りなく小さい。

 それはもはや服として機能しているかも怪しい程だ。


「そ、そんなに見ないでよ!」

 当人もこの格好が恥ずかしいせいか、物珍しそうに見る人らに対して頬を赤らめながら、局部を自身の細い腕と手で必死に隠そうとしている。


「どうして薄着なのですか?」

「エーテルとの親和性を高める為ね、ユキちゃんがあんな力を見せたから、ミズカは意地になって今まで抑えていた力の全てを出せるようにしたって感じかしら」

「ふんっ、これでもう負けないよ!」

 そしてこの薄着の原因を聞いたユキは、何ともいえない表情でミズカの方を見たが、そんなユキに対してミズカは両手を腰に当てて誇らしそうにした。


「おい、イチャつくのは後にしろ。まずい事が起こった」

「私達も大変な目に……ってどうしたの?」

 そんな穏やかなやり取りが僅かに続いた後、いつも以上に真剣な表情でハーベスタは他の新世界の面々へと話題を振る。


「なんだお前達もか? まあいい、そっちから先に言え」

「実は――」

 しかしハーベスタは、マリネ達が中央精霊区や港で起きた事の報告が優先と思ったのか、先ずはマリネの話から聞こうと腕を組む。

 マリネは、余り時間が無い事を察したのだろう。

 今まで起きた出来事を手短にかつ、的確にそして簡略にハーベスタへ伝えた。

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