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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
73/232

72. 自ら見て、出会い、そして

 それから数日後。

 退屈な船内生活を経た一行は、ようやく世界メイド協会がある中央精霊区へと到着する。

 どこの国とも違った閑静で落ちついている雰囲気に興味を引かれながらも、ルリフィーネの案内によって協会本部としている建物へ向かう。


 島自体は小さく、また港から近かったのもあり協会本部は徒歩で半日もかからず着いた。

 首席卒業の証であるメイド衣装を着たルリフィーネを見た門兵は、笑顔でこちらへと近寄ってくる。

 ルリフィーネはここへ来た目的を門兵へ伝えると、少しだけ待たされた以外は大した手続きも無く一行は中へと案内される。


「よく来てくださいました。マリネ殿とお付の方、そしてお帰りなさいルリフィーネ」

 そして中へ入ると、そこにはルリフィーネよりも少し年上の顔立ちの良い女性が出迎えてくれる。

 使用人の衣装がルリフィーネと同じく白色という事は、彼女もまた、メイド協会を首席卒業した才能豊かな人物なのだろうとユキは思った。


「ただいま戻りました。お姉様」

 その顔立ちの良い使用人に対してルリフィーネは立ったまま、頭を軽く下げて挨拶をする。


「お姉様?」

「ええ、彼女は私の二年前に首席卒業し、今は講師として在籍しているのです。私もお姉様にはいろいろと教わりました」

「ルリフィーネはとても優秀で稀有な存在です。給仕の仕事に限らずどんな事も出来るのだから、何にだってなれたはずなのに」

 立場は同じはずの首席卒業者にも、ルリが優秀である事を伝えられると、やっぱり凄い人なんだなとユキは感じてしまう。


「そういえば、火竜の国王に仕えた後は水神の国の王女殿下に仕えていたと聞きました」

「はい」

「水神の国は謎の襲撃者達によって国王陛下と王妃殿下、そして王女殿下の命が奪われるという痛ましい事件が起きましたが、……敢えて言いましょう。無事でなによりです」

「ありがとうございます、お姉様」

 確かに、あそこからよく生き延びれた……。

 襲撃した組織の人らはお父様やお母様や私は勿論、他の貴族も手をかけていたのに。

 私が知っている限りで逃げ切れたのはルリと私、新郎だったコンフィ公、そしてサクヤかな。

 他にも居るかもしれないけど、本当に酷い出来事だった。


「以降は別の貴族に仕えているのですか?」

「はい、こちらのユキ様の身の回りのお世話をさせていただいております」

 ユキが今の状況へ追い込まれたきっかけとなった事件を思い出し、もやもやとした気分になっている中、話題はいつの間にかユキへと移っている事に気づき。


「初めまして、ユキです」

「ごきげんようユキ様。このような場所でよろしければゆっくりとしていって下さい」

 ユキはスカートを少しだけたくしあげ、頭を軽く下げて挨拶する。

 顔立ちの良いメイドの女性はユキの挨拶に対して、頭を深く下げて挨拶を返してくれた。


「さあ、立ち話も何ですから中へお入り下さいませ。会長のブカレス様もちょうどいらっしゃいますから」

「はい」

 そんな一連のやり取りが終わると、顔立ちの良いメイドは一行を協会本部のさらに奥にある、会長の執務室へと案内する。



「失礼します。マリネ様とルリフィーネを連れてまいりました」

「どうぞ」

 会長の執務室へ入ると、そこにはオルクスとは違って温和な眼差しと物腰の柔らかい初老の男性が、執務に励んでいる姿が見える。


「ブカレス様、お久しぶりです」

「おお、ルリ! 無事であったか……!」

 初老の男性はこちらの姿を見ると急に立ち上がってこちらへ近寄り、ルリフィーネの体を何度も触って無事を確認する。


「はい」

「水神の国の事件に巻き込まれたと聞いて、正直不安だったのだぞ?」

「ご心配をおかけして、申し訳ございません」

「よいよい、そなたの元気な姿を見れただけで満足だ」

 大主教ブカレスには何度か出会っているし、ほんの少しだけど会話もしたことはあった。

 しかし今はペンダントにかかった錯覚の魔術のお陰で、ユキがスノーフィリア姫である事がばれておらず、まるでこちらには興味を示していない。

 それにしても……、この人も、”ルリ”って呼ぶんだ。


「マリネ殿、此度はよく中央精霊区まで来られました。代表して感謝の意を示します」

「いいのよ。優秀な人材育成は明るい未来にとって必要不可欠なのだから」

「こんな場所ですが、どうぞごゆっくりとしていってください。皆様の部屋をすぐに用意させますので、今しばらくお待ち下さい」

 姫だった頃から思っていたけれども、大主教という高い地位に居るのに彼はとても頭が低い。

 そんなブカレスの姿は、オルクスや他の元老院に所属している大貴族達に比べても圧倒的に異質だった。


 そんな態度を間近にして、ユキの心中を疑念が駆ける。

 本当にこの人が組織の一員で、あらゆる悪事に手を染めているのだろうか?

 この人も、オルクスと同じなの?

 どうして、私の命を狙っているの?

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