71. 最強メイドの里帰り
準備を終えた新世界のメンバー一行は、中央精霊区に行く船へと乗り込む。
容姿の見えない魔術師、女装した男性、町娘、メイド。
傍から見て、これほどに怪しげで統一性の無い集団があっただろうか?
全員はそれを理解していたため、敢えて個室へと入り人の目がつきにくいようにする。
船は出港し、中央精霊区へと一行を運んでいく。
その個室の中にて。
「ねえルリちゃん、メイド協会って実際どんなところかしら?」
「私も聞きたいな」
ユキもマリネも、メイド協会の存在自体は知っていたが直接出向いた事もない。
給仕の仕事に就く人たちの為の教育機関兼斡旋所というイメージを超えなかった。
「良い機会ですし、それではお話しましょう」
そんな彼女らの疑問を払拭するべく、ルリフィーネは笑顔で自身の出身地について語りだす。
「世界メイド協会はこれから向かう世界の中心、中央精霊区の一角にあります。中央精霊区は火竜、水神、風精、地霊の四大大国の平和を願って作られた街であり、いずれの国も支配しておらず、永世中立を掲げて平和の象徴の地として認められております」
ルリの言うとおり、中央精霊区は世界の中心にある小島にある。
元々は何も無い場所であったが四大大国お互いの平和の為に、そして唯一の中立地帯として急速な都市開発が行われてきており、平常時は観光地として、また各国の合同行事の際の場所として利用されている。
ユキも姫時代に地理の勉強にて習った事があったため、ルリのいう事を十分に理解する事が出来た。
「”建前は”そうねえ」
「建前?」
「血で血を洗う戦争が終わった直後も各国は、兵器の製造や魔術の開発に余念が無かった。このままでは冷戦になるのが誰の目にも見えていたから、実際そうなる前に各国のパワーバランスを図るため、危険な魔術や魔術の道具を封印する場所として作られた」
「そうなんですか?」
「ウワサよ。ただし、信憑性は高いけどね。ウフフ」
しかし習っていない裏の事情を聞かされたとき、ユキは思わず考えこんでしまう。
中央精霊区には巨大な図書館があって、古書や遺物が複数保管されている。
そこは入室がとても厳しくて、姫だった頃に一度来た事はあったけれど入れる場所は限られた。
マリネさんの言うとおりだったら、そこに封印されているのかな?
「コホン、中央精霊区にある世界メイド協会ですが、元々は孤児院だったのです」
話が少し脱線したせいか、話していたルリフィーネが一つだけわざとらしく咳払いをして、再び話し始める。
「そこで暮らしていた孤児達の自立を促すために、当時の孤児院長であった方の呼びかけて発足されたのです。現在は孤児院に所属している少女の中で、希望した者が入学する事を認められています」
「そこまでやってくれるのは、流石中央精霊区の孤児院ってだけはあるわね」
「どういう事です?」
「孤児院自体はどの国にもあるから、珍しくはないわ。でも殆どは院の財政状況が良くなくてね、孤児にひもじい思いをさせてたり、酷いところだと保護した少年少女を人買いに売ったりしているみたいねえ」
過去に起きた世界大戦から数十年が経って、人々は戦争から立ち直りつつある。
しかしそれでもまだ平和とは程遠く、小規模な紛争がたびたびある。
辺境の村々は、首都程の医療技術や魔術が発達していないせいか、助かる命も助からない状況だというのも知っていた。
孤児院にはそんな理不尽に出会い、家族を失った子らがいる。
ユキ自身も父親と母親を失っており、彼らの気持ちが痛いほどに解っていた。
「ユキ、やっぱりその原因の一つに組織も関係してるのかな?」
「そうですね」
「……私達が組織を倒して、それで少しでもそういう子が減ればいいな」
だからそんな人々を、悲しみをこれ以上増やしてはいけない。
組織をやっつけて、私がもう一度姫になって国を変えるんだ。
ユキの心中に、混じり気の無い純粋で強い気持ちが滾る。
「さて、そんな孤児達で構成されていた世界メイド協会も今では、家族がありながらも将来の為に給仕を目指す者や、貴族の令嬢が花嫁修業をする場として、実は孤児以外の方々も幅広く利用されているのです」
そんな中、ルリフィーネは本来の話題に戻って説明を続ける。
話を聞く前は、ユキの中の世界メイド協会のイメージは、給仕育成の最高機関というイメージだった。
元々そうであったわけではなく、変化してそうなった事を知った。
「そのメイド服って、確か首席卒業者しか袖を通せないんだっけ?」
「はい。世界メイド協会を最も優秀な成績で卒業した者のみ、本来の黒いワンピースではなく、特別に白いワンピースが渡されるのです」
「やっぱりルリって凄い」
そんな場所を最高の成績で卒業した。
そしてその人が私の側にいて、一番大好きな人だなんて。
ユキは自分の事の様に、何だか誇らしくなってしまう。
「ありがとうございます」
ユキの気持ちに対しルリフィーネは、笑顔で一言だけお礼を返した。
「まあしかし主君の命令とはいえ、自分を育ててくれた親代わりの人を敵に回すのよ? 並みの精神じゃ無理よねえ」
「ユキ様にも伝えましたように、家族同然の存在だからこそ、間違った道に進んでいるのならばこの手で正したいのです」
本当ならアジトで、セーラちゃんと一緒に待っていてほしかった。
血の繋がりは無くても、自分で自分の父親を陥れて欲しくはなかった。
ユキはルリフィーネの強い意思を見せられ、とめられなかった自分自身に後悔していた。
「だからやり遂げましょう。私の為にも、そしてユキ様ご自身の為にも」
ユキの気持ちを察したルリフィーネは、ユキの手をぎゅっと握りながらそう言う。
「……うん」
一番大好きな人の真っ直ぐな瞳とぶれの無い声のお陰で、ユキは気持ちがほんの少しだけ軽くなったような気がした。




