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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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68. 舞い乱れる雪の華

 戦いの決着がついた。

 誰もがそう思ったときだった。


「危ない! ミズカさん!」

 最初に気づいたのはルリフィーネだった。

 ミズカの方へ慌てて近寄り、彼女の目の前で両手を広げて立つ。


「め、メイドさん?」

 ミズカは何故、ルリフィーネがそんな行動に出たのかが理解出来なかった。

 だが、それも僅かな時間だった。


 眩みがおさまり、暗みに戻った時ミズカは青ざめた。

 なんとオルクスの体は一切傷ついておらず、それどころか口を大きく開き、ミズカが放った光線と似たような光線をミズカめがけて放ってきたではないか!


「奥義、精粋攻防! はぁぁぁああああ!!!!」

 ルリフィーネは両手でオルクスの膨大なエネルギーの濁流を受け止め、そして力に任せて強引に空へと受け流した。

 ミズカはどうにか消し炭にならずに済んだ。

 オルクスもまさかこの攻撃を受け止められるとは思っていなかったのか、目じりをピクピクと震わせて感情を露にする。


「メイドさん!」

 しかし、ルリフィーネはすぐさま倒れてしまう。

 自身の誇りであり、アイデンティティでもある純白のメイド衣装は、先の攻撃でぼろぼろになってしまい、受け止めた手には火傷らしき跡が無数にある。

 かつてここまで、ルリフィーネをぼろぼろにさせた相手はいなかっただろう……。


「よし、治ったぞ!」

「ううっ……、私は……」

 そんな激闘の最中、ようやくスノーフィリアが目を覚ます。

 意識を取り戻したスノーフィリアは、頭に重くのしかかる何かを振り払いつつも、現状を確認しようと周囲を見る。


「ああ、ルリ! ルリー!」

 倒れたルリフィーネの姿を見たスノーフィリアは、再び失神しそうなくらいに青ざめながら親愛なる人の名前を叫ぶ。


「落ち着け! 専属メイドは大丈夫だ!」

 ハーベスタにとってのスノーフィリアは、大人しくお利口で行儀の良い印象だった。

 それ故に、ここまで乱れる姿を見たハーベスタは驚きを少しだけ表情に出したが、すかさずスノーフィリアをなだめようとする。


「落ち着け! あの程度では……死なない……ん?」

 何度も気持ちを落ち着かせるように言い続けた。

 その甲斐あってか、スノーフィリアの顔に血色が戻ってゆく。

 これで冷静になってくれれば……と、ハーベスタが思っていた矢先、スノーフィリアのある異変に気づく。


「私のルリを……。絶対に許さない、許してなるものか……!」

 スノーフィリアにとってルリフィーネは家族同然か、それ以上に大切な人である。

 周りに居た人々がことごとく組織の手にかかって命を散らせ、あるいは組織が原因でスノーフィリアの下から離れていった。

 そんな中で唯一、ずっと一緒に居てくれると信じて疑わなかった存在。

 その存在が傷つき倒れ、”また”組織の魔手によって命の危険に晒されている。


「もうあなた達に私の大切な人を奪わせたりはしない! ……お前達なんかに、私の全てを奪われてたまるか!!」

 少女とは思えない程に荒々しい口調、悪魔のような形相。

 スノーフィリアは怒っていた。

 怒りに我を忘れていた。

 そして強く思っていた、ルリフィーネは絶対に手放さないと、自身の大切な者を次々と奪っていく組織を撃滅させると!


「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。古より在りし高名たる賢竜よ。人知を超えし賢智を用いて墜ちた為政者を廃滅せよ! 白雪水晶(ホワイトクリスタル・)の審判竜セピエティア・ドゥーシズ!」

 激昂に身を委ね、スノーフィリアは召喚術を発動する。

 気持ちの高ぶりがそうさせたのか?

 強い意志が呼び寄せたのか?

 別の要因が働いたのか?


「我を呼んだか……? 脆弱なる存在よ」

 呼び寄せたのは今まで呼んできた召喚体とは比べ物にならないほどに神々しく、雄雄しく、その場に居る全員が畏怖してしまう。

 穢れの一切無い純白の鱗は夜の闇の中でも燦然たる存在感を出し、聞いた者は平伏してしまいそうなほどの悠然とした声を放つ、オルクスよりも巨大なドラゴンだった。


「お願い。あいつを……殺して!」

 しかし、そんな圧倒感すらも今の怒る少女には効かない。

 スノーフィリアは、白きドラゴンに対してオルクス殺害を一切の躊躇も無く命ずる。


「……よかろう召喚者よ。ならば汝の言霊で我に命ずるがよい。」

究極奥義アルティメット・アーツ解禁(・アンロック)!」

 スノーフィリアが呼び出した純白のドラゴンは漆黒のドラゴンと化したオルクスの方を向き、目を少し閉じて考えた後に、大きく見開き……。


「沈め、奈落へ」

 純白のドラゴンが地響く声でそう言った瞬間、オルクスの頭上がまるで昼間のように眩く光輝く。

 それはまるで、オルクスが天からの祝福を受けているかのようにも見えたが……。


「いけない! みんなスノーフィリア姫の側へ逃げて! はやく!!」

 ミズカが今起きている状況の全てを意味した時、甲高い声で叫ぶ。

 彼女のただならぬ言動に、その場に居た全員はスノーフィリアの近くへと急いで避難した。


 大した間をおかずして全員の避難が終わると、周囲が真っ白な輝き包まれた後、天空からミズカが放った時の攻撃を数倍、十数倍にしたエネルギー波がオルクスへと落ち半壊していたサクヤの屋敷や、逃げ遅れた貴族達を無慈悲に情け容赦なく吹き飛ばしてゆく。

 一方、純白のドラゴンの攻撃をまともに受けたオルクスは、苦痛による叫び声や呻き声を一切あげる間も無く、僅かな肉片を残さずして完全消滅してしまった。

 膨大な力の奔流は、サクヤの屋敷の周囲一帯を白色に染めてゆく。

 この時、不思議と音は一切聞こえなかった。



 光がおさまり、あたりに再度夜の暗闇が戻った頃。


「すごい……、これがスノーフィリア姫の召喚術の力なの?」

 一番早く視界を取り戻したミズカが周囲を見回した瞬間、戦慄してしまう。

 鬱蒼と茂っていた木々も、サクヤの立派な邸宅も、何もかもが綺麗に消し飛び周囲は平地になっていたからだ。


「おーい、大丈夫かー?」

 その場に残っていたのは術者であるスノーフィリアと、逃げる事に成功した新世界のメンバーだけ。

 パーティに参加していた他貴族も、館で働いていた無実の給仕達も、宰相オルクスも、もう居ない。


「ルリ……」

 スノーフィリアは戦いの決着がついた事を確認すると、元のユキへと戻る。

 宰相オルクスは倒せた。

 けども、ルリが酷く傷ついてしまった……。

 私は、私はまた大切な人を守れなかった。

 自責の念に駆られながらもユキは、自らが大切な人が倒れている方を振り向く。


「お呼びしましたか? ユキ様」

 そこには倒れてぐったりとしているルリフィーネではなく、いつもの穏やかな笑顔でユキの命令を待つルリフィーネが立っていた。


「ルリー! 無事でよかったー!」

「私はユキ様をお守りするという命を受けております。それを果たすまでは倒れはしませんよ」

「もー! 心配したんだから!」

 ユキはルリフィーネの無事を知ると、泣きながらルリフィーネへと飛び込み抱きつく。

 そんな主人に対してルリフィーネは、ほんの少しだけぎゅっと強く抱きしめた後に、優しく何度もユキの頭を撫で続けた。


「ふー、すげえないろいろと……」

「世の中にはあんな凄い人たちがいるんですね」

「いや、あの人達が特別なんだと思う……」

 あれだけの相手と戦い、そして勝ち抜いた現実。

 あれだけの激闘を経てきたのに、生還した事実。

 ハーベスタやロカ、ミズカらこの作戦に参加していた新世界の幹部一同は、二人に対してただただ驚くだけだった。


「皆様は大丈夫ですか?」

「サクヤも無事そうだな。安心したぞ」

 そんな中、幹部一同の背後から埃に煤けてしまったパーティドレス姿のサクヤが現れる。

 高級であろう服も、綺麗な髪もすっかり汚れてしまったが、命は無事だった事を喜んでハーベスタは敢えてそう言った。


「ごめんなさい、あなたの帰る家を巻き込んでしまった。関係ない人も……、ううっ……」

 オルクスを倒すには仕方が無いとはいえ、サクヤの館ごと消滅させてしまった。

 そこには何も悪くない使用人たちや、無関係な貴族もいたはずなのに……。

 ルリフィーネが無事だった喜びは消え、散らせてしまった命の重さがユキへ圧し掛かる。

 ユキは、そんな重さとやりきれない思いを胸に詰まらせながら、そして泣きながらサクヤの目の前へ行くと大きく頭を下げて深く詫びた。


「多くの罪の無い人々を巻き込んでしまった。……ですが敢えて申し上げましょう。助けてくださってありがとうございます」

 今回の件がああするしか方法の無かった事を解っていたサクヤは、それでもユキを叱らず恨まずお礼の言葉を告げた。


「さあ、それでは皆様はアジトへ戻ってください。私は残って事後処理をしますので」

 あれだけの大騒ぎを起こして、何も無かったなんて無いよね……。

 組織の事も、新世界の人達の事もばれてしまうかもしれない。


 疲労したユキですら、これほどの問題点を思い浮かべてしまう。

 サクヤは、それらを一人で処理しようとしたのだ。


「私も手伝います。手伝わせてください」

「……ありがとうございます。ですがこれ以上新世界の事が公になるのは得策ではございません。ユキもあれだけの力を使って疲れているはずです。どうかここは私にお任せ下さい」

 ユキはそれが申し訳なく思い、また少しでも役に立ちたいと思い手伝おうとする。

 しかしサクヤは首を三度ほど横に振り、ユキの手伝いを拒否した。


「もうすぐ迎えの馬が到着しますので、皆様はそれで先に帰っていてください」

 それでもユキはどうにか力になりたかったが、サクヤの思いを察してハーベスタは二人の間に入り、ルリフィーネがユキを連れて行く。


 ユキは、馬が到着するであろう場所へと連れられていった。

 連れられてゆく道中もユキはサクヤの方をずっと見ており、サクヤはそんなユキをいつもの凛とした態度で接するだけだった。


 新世界の隠れ家へ帰る道中、ユキの顔に笑顔は戻らなかった。

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