表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
68/232

67. 苦闘

「ユキ! くっそ、いい所で邪魔とか空気読めないのかこいつは!?」

「でも効果的よね。魔術は詠唱中が一番隙があるから」

「んなもん解っている!」

 スノーフィリアはまるで動かない。

 全員の脳裏に嫌な未来がよぎる。

 圧倒的な危機を目の前にして、普段は楽観的な彼らにも明確な焦りと苛立ちが窺える。


「専属メイドとロカであいつの注意を引き付けてくれ。ミズカはあいつの動きを抑えてくれ。ユキ……、今はスノーフィリア王女殿下と言えばいいか。あいつを何とか助ける!」

 それでもハーベスタは立ち直った。

 どんな絶望的な状況下であっても最大限の努力をする。

 思考をフル回転させ、今考えられる最高の作戦を用いてこの場をやりきる。

 負けるのは嫌いであり、何もせずに諦める事を是としない彼の強い思いが彼を動かしたのだ。


「まさかドラゴンと戦うなんて……」

「ロカさん、いけますか?」

「う、うん。自信はないけれど、僕がやらなきゃみんなが危ないからやるよ!」

「同感です。主たるスノーフィリア様をお守りするのが私の使命!」

 そんなハーベスタの思いに呼応するかのよう、ただ呆然と強大な相手に対峙していたロカは、担いできた槍を持ち、ルリフィーネは体をオルクスに対して斜めになる様にして構えた。


 オルクスは、そんな二人を簡単に無残な姿へ変えられる程に鋭くて立派な爪を、何度も振るう。

 二人はオルクスの動きをしっかりと見極めつつ、幾度か避けていく。


 相手の攻撃を何度か避け、ある程度気をひきつけつつも間合いをとったルリフィーネは、ほんの少しだけ背後を見る。

「宰相オルクスの動きは鈍いですが、当たればひとたまりもないでしょう」

 彼の腕が振るった後は、壁は粉々に砕けて床はえぐれており、オルクスの攻撃がいかに苛烈なものであるかをまじまじと思い知らされた。


「おい、大丈夫か?」

「うぅ、うぁ……」

「しっかりしろ! くそ、気を失っているか。変身したままだからすぐに目覚めると思っていたが……」

 そんな激闘の中、ハーベスタは倒れたスノーフィリアの下へと駆けつけることに成功する。

 スノーフィリアの服装や纏っている光はそのままだったが、呼びかけても苦しそうな返事をするのみ。

 このまま目を覚まし、召喚術で形勢逆転を狙っていたハーベスタの思惑は外れてしまう。


「ロカ! 専属メイド! もう少し時間稼いでくれ!」

「かしこまりました」

「やってみるよ!」

「待っていろ、すぐに治療してやる」

 しかし、こんな状況下であってもハーベスタは諦めなかった。

 カバンの中から薬と取り出し、気絶したスノーフィリアの意識を取り戻そうと試みる。


 常に放っている光のお陰なのか?

 外傷は一切無く、衝撃によって一時的な昏睡状態となっている。

「くそっ、気付の魔術くらいは勉強しておくべきだったか?」

 その事が解ったハーベスタは、魔術を会得していない事を憂いながらも、数種類に及ぶ薬液を正確に混ぜ合わせた後にユキの口の中へ数滴ずつ入れてゆく。


「大丈夫ですか? ロカさん」

「はぁっ……、はぁっ……、メイドさん凄いよ。僕もう息が切れちゃって……」

 スノーフィリアの治療中も、オルクスの注意をずっと引き付けてきた。

 ロカはオルクスの攻撃を全て避け、ルリフィーネの動きについてきた。

 それだけでも常人ならば十分称賛されてよいだろう。

 だがそれも限界を迎えたらしく、ロカは息苦しそうに武器を杖代わりにした。

 もう、彼は誰の目から見てもやっとの思いで立っていられる状態だ。


「必殺、不破雷慟!」

 そんなロカを見たルリフィーネは、オルクスの攻撃を幾度か避けて懐へと入ると、拳を強く握り無数の連打を繰り出す。

 それは雷が落ちたような轟音と共に、オルクスの腹部の柔らかい部分を何度も叩きつける。

 オルクスは我慢できずに怯み、自身の翼を使って空中へ逃げてしまう。


「メイドさん!」

「後は私にお任せ下さい。スノーフィリア様やミズカさんがきっとやってくれるはずですから」

 オルクスの注意を一身に受けた事を悟り、ルリフィーネとオルクスの一騎打ちが始まる。

 先ほど繰り出した技も、今までの敵だったら致命傷なりうる攻撃だった。

 しかし、オルクスに対しては怒りを買った程度でしかない。


「頑丈ですね。ですが……、まだまだいきますよ!」

 オルクスの頑強な肉体を利用した攻撃をぎりぎりのところで回避しつつ、それらの攻撃を足場にしながら空中で戦い続ける。

 ルリフィーネの息も動きも一切乱れることはないが、オルクスへの有効打になりうる攻撃も出来ずにいた。


「詠唱終わったよ! みんな離れて!」

 そんな中、ミズカが叫び全員の避難を促す。

 それを聞いた新世界の仲間はオルクスから離れていき、彼らが去ったのを確認するとミズカは自らがかぶっていた魔法使いの帽子をとり、中から自身の身長程の丈がある杖を取り出す。


「みんなの思い、感じるよ。今こそ湧き立つ私の魔力!」

 杖を強く握り、宙に幾度か大きく振るう。

 ミズカの目の前には、瞬く間に光り輝く魔方陣が描かれていきそして……。


永久な(インフィニティ・デ)る崩壊(ィステグレイション)!!!」

 詠唱が完遂すると魔方陣が強く輝き、そこから極太の光線が発射される。

 光線はオルクスを貫き、空に散っていた雲を砕き、夜空を切り裂く!


「これをまともに食らえばどんな相手だって……」

 この術はとっておきの一撃であり、組織が目をつけていた力の一つでもあった。

 人間相手に使えば、どんな頑丈な鎧を着込もうともまず跡形も残らず蒸発してしまう。

 それ程に強力なため、ミズカ自身もずっと使うのを躊躇ってきたのだった。


 誰もがミズカのそんな力を認めており、オルクスも同じ様に消し飛んでいるだろう。

 そう思っていた、全員が疑わなかった。

 そんな期待まじりの思いの中、照らされた夜空に本来の暗さが戻ってゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ