66. 国に巣食う闇
「な、何奴!?」
宰相オルクスを、サクヤの屋敷内にある小部屋へと招き入れる事に成功した新世界の一行は、すぐさまオルクスを取り囲んで彼を縛り上げていく。
「賊め、何が狙いだ? 金か? それとも命か?」
「違うな。情報だ」
「くっ、やめろ……!」
ハーベスタはオルクスの質問に雑然と答えつつも、カバンの中からミズカの魔術が宿っている水晶玉を取り出してオルクスの顔へと向ける。
組織に関して聞かれると察知したのか、表情が強張ったかのように見えた。
しかし水晶玉は淡く青白く輝きだし、放つ光がオルクスを照らした途端に彼の顔から表情が消え、操り人形のごとくうな垂れてしまった。
「さあオルクス、答えて貰おうか。お前は秘密結社トリニティ・アークと繋がりがあるか?」
「……ある」
ハーベスタの強引な質問に対し、催眠の魔術にかかったオルクスは少しの間を空けて淡々と答えてゆく。
「何をしていた?」
「……元老院での決議内容を伝えていた」
「他は?」
「……国王殺害の際、組織の暗殺部隊を手引きした」
そして父親母親殺しの加担をしていたという発言をした瞬間、ユキは酷く悲しみ、そして怒ってしまう。
心の熱に任せ、催眠状態のオルクスへ復讐をしようとするが……。
「ユキ様……」
「まあ待て、もう少し聞きたい」
もう少し情報を聞き出したいハーベスタはユキを止める。
ユキもハーベスタの思いをどうにか理解し、怒りの炎を何とか鎮めようと胸に手を当てて幾度か深く呼吸した。
「他に組織に関して知ってることを言え。特に人事内容だ、組織のリーダーは誰だ?」
「……組織は三人の総帥から成っている」
トリニティ・アークは三人の総帥によって支配されているという事実。
それは新世界の同志達も、そしてユキやルリフィーネも知りえなかった。
新たな事実に、全員がそれぞれの思いを抱く。
「その名前は?」
「……」
さらにハーベスタはその総帥の名前を聞き出そうとしたが、今まで催眠状態で意識もぼんやりとしていたオルクスにある異変が起きだす。
「答えろ!」
「……やめろ、き、聞かないでくれ」
下唇をがくがくと震わせ、総帥の名前を頑なに喋ろうとしない。
オルクスの言動は、まるで催眠の魔術に抵抗しているかのようにも見える。
「ちっ、催眠の効果がもう切れだしたか」
催眠の魔術は個人によって効き方にムラがあるのは事前に解っていたが、こうも早く切れてしまうという事は、オルクスには魔術の素質があったということか、それとも総帥の名前だけは絶対に明かせないという鉄よりも固い忠誠心が成した結果なのか。
「最後に言え! 総帥の名前を、さあ早く!」
「……や、やめろ。やめてくれ」
あまりにも頑なな態度に、新世界のメンバー全員が顔を合わせて考え込む。
そして、オルクスの言動から導き出される結論を推測して全員が共通の結論へと至ると、言いようの無い寒気を感じてしまう。
”言えば恐ろしい目に遭う”
オルクスを催眠の魔術から奮い立たせていたのは忠誠心でも魔術の効き云々でもなく、絶対的かつ圧倒的な恐怖だった。
だがその場に術者のミズカが居たの事は、オルクスにとっての災難だった。
ミズカは何ら躊躇いも無く、魔術の力を上げていく。
その結果、オルクスは再び深い催眠状態へと落ちてしまい、しばらくは戻る気配を見せなかった。
「さあ言え、組織の総帥の名前をな」
「……ぜ、絶望の」
「今なんていった?」
力なくオルクスは口を動かすが、上手く聞き取れない。
催眠の魔術が強すぎて逆に喋れなくなってしまったのだろうか?
「休むな! 早く言え!」
「……ぜ、絶望の黒――がはッ!」
「くそっ、最後までいいやがれ!」
それでもハーベスタはオルクスに繰り返し質問し、ようやく正体が聞きだせようとした時だった。
オルクスは全てを打ち明けようとした瞬間、口から黒いドロドロとした液体を大量に吐き出してしまう。
「ケイコク! ケイコク! ケイコク! ケッシャキミツジコウ ニ テイショクスル ゲンドウ アリ!」
「これは!」
「な、なんだ!?」
そしてオルクスは、白目を向きながら無機質に口を動かし続け、声のトーンを甲高く一定に保ちながら大音量で叫びだす。
余りにも異様な光景にハーベスタは思わずオルクスから離れるが、ユキはこの状況がどういう意味か解っており、すかさず変身の為の意識集中に取り掛かった。
「キミツボウシ! キミツボウシ! コレヨリ ハイジョモード ヘ イコウ!!」
「これは……!」
ユキがどうにか精神集中をしている中、オルクスは自らが吐き出した黒く粘度の高い液体に包まれてゆく。
黒い液体はオルクスの全身を包み込むと凄まじい速度で膨張していき、館の屋根や壁を破壊していく。
ユキ達は潰されないよう、どうにかその場を脱出しようと試みてぎりぎり成功したが……。
「な、なんだこいつは!? 組織の奴等、何研究してやがるんだ!」
新世界の人々は外へ出て、変わり果てたオルクスの姿を見る。
その姿はサクヤの広い屋敷の半分程の大きさを持ち、背中には大きな一対に翼があり、馬すらも容易に噛み千切れそうな牙を生やし、太い尻尾は逃げ惑う貴族達を無意味になぎ倒してゆく。
例えるならば、各国で特定危険生物に指定されているドラゴンのようだった。
アレフィやコンフィ公の時とは違い、ドラゴンと言う秩序ある形を保っているが、それ故に対峙した新世界の面々を驚かせ、十二分に怯えさせてしまう。
「ユキ様!」
「解放する白雪姫の真髄!」
組織が何らかの方法で与えたこの力と戦うには、私がやらないといかない。
ユキはすかさず解放の言葉を高らかに言う。
「雪花繚乱! スノーフィリア聖装解放!」
夜の闇や黒く濡れたオルクスの皮膚を明らかにするほどの輝きに包まれ、ユキはスノーフィリア姫へと変身し、ドラゴンへと成り果てたオルクスを打ち倒せる勇士を呼ぼうと、一切躊躇わず召喚術を発動しようとした時だった。
「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。忘却の虚ろに潜――きゃあっ!?」
アレフィやコンフィ公の攻撃を退けた召喚中に発生するドーム状の光の結界を突き破り、ドラゴンの腕がスノーフィリアへと直撃してしまう。
召喚術発動に必要な詠唱は中断され、瓦礫に体を強く打ち付けられてしまい、その場でぐったりとしてしまった。




