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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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64. 従者の資格

 サクヤの計画したパーティが開催される当日。


 数十人のエリート騎士達に囲まれ、貴族の中でもごく一部の者しか所有していない豪奢な馬車が夜の山道を走る。

 その馬車の中にて。


「本日はどうしてブロッサム家のパーティへ?」

「どうしても来て欲しいと頼まれたのだ。本来ならば私もあんな辺境の小娘貴族の相手をしている程暇じゃないのだが」

「旦那様、それならば断ればよろしいかと思われますが……」

「ふむ。……貢物も貰っている。無碍に断り、あらぬ噂が立つのもいただけない」

 一人は、体格こそは枯れ木のようにみすぼらしいが、瞳と服装は若者のようにぎらつきた老人。

 今夜の標的であり、ユキから多くのものを奪うきっかけを作り出した張本人の宰相オルクスである。

 もう一人はオルクスよりは若いが、それでも十分年をとった部類に入るであろう顔立ちと服装がしっかりとした専属執事だ。


「大方、臣下たる私の名前を使ってパーティを盛り上げたいところだろう。ブロッサム家に恩を売っておけば、使える時がくるやもしれん」

「確かに」

 二人はサクヤの屋敷へと向かっている。

 サクヤの屋敷は水神の国でも比較的辺境の高地にあるせいか、道中はとても薄暗く両脇は木々が鬱蒼としていて視界も悪い。

 馬車の窓から外を見ても夜の闇が広がっているだけで景色を楽しむ余地も無い。

 ぼやくご主人の機嫌をこれ以上損ねない為にも、執事は退屈な時間を何とか紛らわすべく気を利かせようとした最中。


 馬車が大きく揺れだし、護衛の騎士達が乗っているであろう馬の鳴き声が聞こえる。


「どうした!?」

「ぞ、賊です! 賊が木の上から矢を!」

 恐らくさっきの声は矢で射られた時の悲痛な叫びだろう。


「このまま飛ばせ! この森をぬければすぐにブロッサム家の敷地だ」

 あごに手を当て、僅かな時間考えた後にオルクスはこの場からの即時離脱を御者へ命じた。


「よろしいのですか? 応戦しなくとも」

「馬鹿を言うな。こんな木々に囲まれた場所で相手は地形を利用してきているのだぞ? それに奴等は動けぬ。ならばここは押し通るまでだ」

 このまま応戦していれば犠牲は拡大する一方であり、たとえ賊を追い払ったとしてもオルクス側の損害も馬鹿にならない。

 万が一にも自らが負傷すれば、”辺境の小娘貴族へ会いに行く途中、賊の襲撃を受けて怪我した哀れな宰相”という不名誉な名がたちまち知れ渡り、間違いなく社交界の笑い者になってしまう。

 そもそも相手は地の利を得ている以上、その場で戦うのは悪手という結論を瞬時に出したのだ。


 そしてオルクスの采配は、良い結果となった。

 数名の騎士が脱落した以外にけが人を出さず、オルクスや付き人達全員が無傷で済んだのだ。


「たったこれだけの脱落者で到着するとは……、流石です」

「当然だ」

 オルクスは根っからの文官だったが、趣味で戦略研究や戦術に関する書物を読んでいた事もあった。

 それらの経験と年の功が成せる業なのだろう。

 執事はただ感嘆の声をあげて、主人を尊敬の眼差しで見つめるだけだった。


「賊はどうされますか?」

「敷地内に入ってしまえば奴等は手が出せないが……。ふむ、そうだな。護衛の騎士を何人か道中へ向かわせろ、賊を見つけ次第殺せと命じてな」

「かしこまりました」

 ここでもオルクスは少し考えた後に、お付の執事に指示を出す。

 切り抜けたはしたが、主の危機を排除するべく執事は一つだけ頭を下げて騎士達に命令を伝えるべくその場を離れた。


「ようこそいらっしゃいました。オクセル宰相閣下」

「うむ。ブロッサム女史も壮健で何よりだ」

 そんな執事と入れ替わるかのように、館の主であるサクヤが現れる。

 服装はユキが新世界のアジトで出会った時のような村娘の格好ではなく、結婚式の時に着ていた東方の国の衣装デザインを流用した物でもなく、ごく普通のロングドレスだった。


「道中、襲撃にあったそうですが、お怪我はございませんか?」

「問題ない。今護衛の騎士を討伐に向かわせている。国王があのような形で亡くなり、まだ混乱から完全に立ち直っていないのも事実。また、辺境の国政が滞っているのも事実だからな。ここは我々が始末をつけよう」

「お気遣い感謝します。どうぞこちらへ」

「うむ」

 格好や立場は変われど、サクヤの美貌と凛とした態度は変わらず。

 オルクスもそんなサクヤの態度に心地よさを感じたのか、襲撃を受けた時の厳しい表情が若干和らぐ。


 そしてそのやり取りを、建物の影からハーベスタとユキ、新世界の同志達が見ていた。


「まずは上々といったところか」

「どうして道中で捕らえなかったのです?」

「道中で捕らえようとすれば、護衛の騎士も相手にしなければいけない。流石に騎士相手は骨が折れるからな」

「つまり、陽動と?」

「ああ、道中で襲撃するふりをする、襲撃を受けた宰相は自身の兵力を割いて道中の”賊退治”をする、そうすればパーティ会場の守りは手薄になるわけだ」

「なるほど……、でも森に居た新世界の人たちがこのままじゃ」

「もうとっくに逃げ出している。騎士達は今頃誰も居ない暗い森の中を必死で探しているだろうな」

 賊の襲撃も全てはハーベスタが仕組んだ作戦の一環だった。

 全てが思い通りにいったせいか、ハーベスタはどこか勝ち誇った笑顔を見せながらユキへと説明した。


「次の作戦はどうしますか?」

「やる気あるねえ、ここはサクヤの家だからな。後はどうとでも――」

 このまま事が推移すれば、宰相オルクスから組織の関わりを聞き出すのも時間の問題。

 そんな空気が新世界の同志達の間で流れた時だった。


「大変ですハーベスタさん!」

 伝令役の仲間が血相を変えてハーベスタへと駆け寄ってくる。

 彼の様子から、ただならぬ気配を感じたのか。

 その場に居る全員の表情が、再び引き締まっていく。

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