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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
63/232

62. 踏みしめた第一歩は

「ミズカ、幹部の皆さんを小屋の前に集めてください」

「解ったよおねえ!」

 ユキからの決意の一言を聞いたサクヤは、隣に居て頭を撫でていたミズカに他の仲間を呼ぶよう伝える。

 ミズカはサクヤと目を合わせた後に、新たな仲間となったユキ一行に好意の笑顔を見せて小屋から出て行き、大した間をおかずに外から複数の人々の声が聞こえてきた。


「みんな呼んできた!」

「ありがとうミズカ」

 ユキは恐る恐る外へと出て行き、そして集まっている人らを一望する。

 年齢、性別、服装、容姿。

 それらがなにもかも違う人達が集まり、小屋から出たユキらに注目する。

 この時はまだ雪宝石のペンダントはミズカの手にあったので、亡くなった姫君の登場にざわめきだした。


「それでは早速ですが、紹介をお願いします」

「初めまして皆様、スノーフィリア・アクアクラウンと申します。ユキとお呼びください」

 それでもユキは、敢えて隠してきた姫の名前と偽りの名前と両方を皆に伝える。

 本名を伝えた事で、周囲の動揺はますます広がったかのように見えたが……。


「おい、ミズカが捕まえた貴族の娘ってまさかお姫様だったのか!?」

「そうだよー、驚いたでしょ? 私も驚いたもん。冷静だったのおねえくらいだよ」

「さすがはサクヤ様だねえ」

「うーむ、肝が据わっている……」

「美人でしっかりしてるとか隙が無いからな、流石だな」

「ふふ。今日の晩御飯は干し肉のシチューにしましょう。国産の赤ワインを付けてもよいですよ」

「やったぜ」

 ユキがスノーフィリア姫である事による混乱は早々に終わってしまい、今日の晩御飯の話をしている。

 それは苦境を生き続けてきた人らだからこそ、成せるのだろうとユキは思いつつ感嘆した。


「ユキも名乗ってくれましたし、我々新世界(ネオ・コスモス)も自己紹介をしましょう」

「ネオ・コスモス?」

「はい。野盗なんて俗称では寂しいですからね。我々はそう自称しております。組織を打倒し、この世界に新たな秩序を打ち立てる願いを込めて……」

 サクヤの声が僅かだが低くなり、表情は少し寂しげになっていく。


「こほん。新世界は三十から四十人になるメンバーで構成されております」

 不安がらせないようにしようと努めたのか、サクヤはわざとらしく咳払いを一つだけした後に、うっすら笑みを見せると所属している組織についての話の続きをする。


「メンバー役割に応じて戦闘部隊、戦術部隊、工作部隊、魔術部隊の四つの部隊のいずれかに所属して、各々に与えられた役割をこなしているのです。この子は戦闘部隊の長をしているロカです」

「よ、よろしくお願いしますっ!」

 最初に紹介されたのは、戦闘部隊を仕切っているらしいロカという名前の少年だった。


「戦闘部隊は実戦において前線で戦う人達を集めた部隊です。彼はこう見えても、新世界で最高の腕前なのですよ」

 実戦での強者という割には年齢はユキと似たような感じで、かつ細い腕と足、おどおどとした態度で緊張しているのか目も泳いでいる。

 お世辞でも頼りになるとは思えない……。

 サクヤの言葉をユキは素直に信じられずにいた。


 そんな中、気弱なロカの頭を雑に撫でながらも、一人の男が三人の自己紹介に割ってはいる。


「戦術部隊長のハーベスタです。スノーフィリア様、以後お見知りおきを」

 その男は口調こそ限りなく丁寧だが、ロカとはまるで正反対の屈強で色黒な男だった。

 ロカが繊細、気弱だとするならば、この男の人は大胆、剛毅というところか。


「これでいいか? サクヤ」

「満点ですね」

「だろ? 俺もやれば出来るだろう?」

 この人が戦闘部隊の長と紹介されたなら、ユキも違和感が無かっただろう。

 ユキはむしろ役割が逆なのではないかとも思ってしまう。


「戦術部隊は実戦の指揮や作戦の立案を行う部隊です。ハーベスタは見た目は粗暴ですが、広い知識と視野を持った稀有な存在なのです」

「俺は負けるのが嫌いだからな……っておい、褒めてるのか貶しているのかどっちなんだぜ?」

 まだ口には出していないユキの疑問を見抜くかのように、サクヤはハーベスタについて話す。

 確かに年齢は三十代に見えるから新世界の中でも比較的年長者の部類であり、だからこそ様々な知見があるのだろうとユキは思いながら、ハーベスタとサクヤのやり取りを苦笑いで見守った。


「工作部隊長のマリネよ。お姫様はやっぱ可愛いわねぇ」

 次に紹介されたのは……。

 顔はどうみても男の人……、だよね?

 でも化粧はしっかりとしていて、女性用のワンピースを着ている。


「え、えっと」

「なにかしら? 遠慮なくいってごらん」

「だ、男性の方……ですよね?」

「ウフフ、違うわよ」

「じゃ、じゃあ女性?」

「正解は、お・と・め」

「う、うん……」

 貴族の中には変わった人が居て、女性の格好……、例えばパーティドレスを着て楽しんでいる人が居るというのは姫だった頃から知っていた。

 この人もそういう人らと同じなのかもしれない。


「工作部隊は、実戦で使用する武器や道具の調達と製造、後は新兵器の開発を行っています。マリネは魔術工学界隈では神の手と呼ばれていて、魔術兵器の初期型アーティファクトを創ったのも彼なのです」

「まーた懐かしい事言っちゃってー、サクヤちゃんったらエッチねぇ」

「誤解されるような事言わないで下さい」

 ロカやハーベスタよりも奇抜な容姿と、それに見合わない役職にユキは今まで以上に驚きてしまう。

 その結果、マリネとサクヤのやり取りに参加出来ず、ただ呆然とするだけだった。


「魔術部隊は、魔術に関する事全般を引き受けている部隊で、そこを仕切っているくろです」

「よろしくお願いします」

 マリネの次に紹介された人。

 その人は襟の長いローブを深々と着込み、つばの広い魔術師の帽子で目線を隠しているせいか、男性か女性か、年齢はいくつかまるで解らない。

 それでもいかにも魔術について熟知している、今まで見た目と役職の一致しない人達と比べれば解りやすい。

 しかし……。


「……」

「あ、あの……」

 くろは何も言わず、一切動かない。

 

「こ、こんにちは!」

「……」

 最初は聞こえていないと思ったのか、もう一度ユキは話しかける。

 それでもくろは、ユキに対して何の反応も示さない。


「ごめんなさい。彼はあまり喋らないの。でも魔術の腕前は本物よ、雷帝と呼ばれているわ」

「そうなんですか!?」

 寡黙な人の意外な呼称にユキの声が裏返ってしまう程に驚く。

 あれ、じゃあ魔術の詠唱も無言のままなのかな?


「あ、えっとそれなら、ラプラタ様はご存知ですか? 風精の国の宮廷魔術師長で有名な人だって――」

「……人ならざる者に興味はない」

 もしかしたらと思い、かつてお世話になった人でもあり魔術師の間では名前の通っているラプラタ様について話してみる。

 くろさんは、ようやく喋ったと思ったらたった一言それだけ。

 やっぱラプラタ様って凄い人だったのね、人じゃないって呼ばれているくらいだもの。


「あれ? ミズカちゃんは……?」

「ミズカは長達を取り纏めている、新世界の代表です」

「じゃーん、私がリーダーのミズカだよー! えっへんー」

 小屋の椅子に座っていたし、魔術師の格好をしているから魔術部隊の偉い人なのかなと思っていたけれども、まさか全体の長だったなんて。

 一番意外かもしれない……。


「じゃあ、サクヤは?」

 ユキは、てっきりサクヤが新世界の取り纏めをしていると思っていた為、ふとサクヤの事を聞いてしまう。


「私は裏で政治工作や資金援助をしているので、あまり表立って行動が出来ないのです。だから長には向かないと思い長としての役職を辞退したのです。一応建前は戦術部隊に所属しております」

「なるほど」

 大貴族の当主が一国の権力にも勝るとも劣らない組織に敵対しているなんて、知れてしまえばただでは済まない。

 個人の問題ではなく、志が異なる親戚縁者にまで迷惑はかけられないというサクヤの配慮を、ユキは垣間見たような気がした。


「なんかすごい人達ばかりです……」

「ええ。ここまで来るのに、かなりの時間をかけてきましたから」

 それでもサクヤは自分の出来る事をし続けてきて、その結果今のこの状態がある。

 これだけのすごい人たち、いくら貴族のサクヤだってすぐに集められるわけがない。

 きっと長い間、ずっと静かに頑張ってきた。

 組織を打倒するため、新しい世界をつくるため……。


「雪宝石のペンダントはお返ししましょう。仲間を信じていない訳ではありませんが、無用な動揺を招きますからね」

「その方がいいな。姫の正体を知っている奴は最小限でいい」

「あ、あのっ」

「なんでしょう?」

「実は私、不思議な力を使えるんです」

 雪宝石のペンダントの行方を話している最中だった。

 サクヤの言動に心を打たれたユキは話に割り込みながらも、自身の最大の秘密を打ち明けると精神を集中させ、ラプラタに教えてもらった感覚を思い出しながら……。


解放する(リリースオブ・)白雪姫のホワイトスノープリンセス・真髄エッセンス! 雪花繚乱! スノーフィリア聖装解放!」

 力強く解放の言葉を口にする。

 すると、ただの少女ユキは召喚術を扱える水神の国の姫君スノーフィリアへと変身した。


「ほおー、これは凄いな」

「あら、素敵じゃない……」

「……」

「ほぇ……」

 今までの年相応だった町娘の格好をしたユキとは違う、雪宝石と評された美麗で悲劇の姫君スノーフィリアを見た全員は、ただ感動し感嘆していた。


「お、驚かせちゃったかな?」

「ええ、正直申し上げますと驚きました。……ですが確信しました。スノーフィリア様を擁立する作戦は必ず成功させます、私の家の名にかけて誓いましょう」

「ありがとうございます。私も力を惜しみません」

 それはサクヤも例外ではなく、何か確信めいた強い光を瞳に宿しながら、半ば強引にスノーフィリアの手を握り、新世界の目標成就を誓う。

 スノーフィリアはそんなサクヤの意思に気圧されながらも、手を握り返して答えた。


「擁立した後はどうされるおつもりでしょうか?」

「いいところに目をつけましたルリフィーネさん。擁立した後は組織の影響を弱めていき、やがては完全に廃するという大まかな方針はありますが、それを実行する為の具体的な計画はまだ決まっていないのです」

 スノーフィリアは自身の能力を周囲が理解したと思い、変身を解く。

 その直後、ルリフィーネはユキを擁立した後の事をサクヤへ聞いた。


「擁立作戦自体は綿密に下準備を続けており、想定外の事が起きなければまず失敗しません。しかし、今日の夜が迎えられるか解らないのに明日の朝食の話をするのは、いささか気が早いかと思います。先ずはスノーフィリア様の擁立を目指しましょう」

「かしこまりました」

「さてと、ここからはその擁立作戦について話しましょうか。ハーベスタ、お願いします」

「おう。サクヤは茶でも飲んで休んでいな。俺が説明する」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて私も聞く側に回るとしましょう」

 こうしてユキはサクヤと共に、組織打倒に向けて動く事となる。

 大切な人を救うため、輝かしい未来を取り戻すため、本当の意味でユキがスノーフィリアへと戻るために……。

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