60. 再びめぐりあい
馬車には窓がついてなく、外の様子をうかがう事も出来ず、ルリフィーネやセーラは依然気を失ったまま。
そんな絶望的な状況下、魔術師の少女やその護衛であろう野盗らと一緒に、ユキはどこかへ連れて行かれる。
ユキは魔術師の少女の方を見て、これからどうなるかを聞こうとした。
しかし、ユキが目を合わせると同時に魔術師は満面の笑みでユキの方を見たため、ユキはそんな彼女の無邪気な行為に面食らってしまい、結局何も言えないまま馬車は野盗のねぐらであろう森の中の集落へ到着する。
「さあ、降りてー。お嬢様はこっちに来てね」
馬車を降りると、ルリフィーネとセーラは粗末なテントへと担ぎ込まれる。
数少ない味方が手元から離れてしまって不安になったユキは、足を止めて咄嗟に魔術師の少女に二人の行く先を聞く。
「ルリとセーラちゃんはどこへ?」
「お付の人? 牢屋に入れるの。大丈夫だよ、大人しくしてもらう為に閉じ込めておくだけだよー」
魔術師の少女がユキの不安そうな思いを察したのか、にかっと満面の笑みを見せながらルリフィーネとセーラの行く場所とこれからの処遇を伝えた。
この人たちの言う事を信じられない。
でも、このまま立ち止まっていても怪しまれるし、変身すればルリとセーラちゃんが危ない。
そうユキは思い、再び歩き始める。
ユキが連れてこられた場所は、集落の中で最も立派な木造の小屋だった。
広さは大してないが室内は盗んだ物であろう毛皮や装飾品が飾られており、奥に一つだけ豪華な椅子があることから、この小屋は野盗の頭領の部屋であり、ユキを連れてきた魔術師の少女がその椅子に座ったことから、彼女が野盗の頭である事をユキは理解する。
「もういいよ、二人きりで話したいからキミらは持ち場をよろしくー」
魔術師の格好をしている野盗の頭の少女はそう言うと、ユキを連れてきた野盗は少女に向かって頭を一つ下げた後に小屋から出て行く。
「ふー、それじゃああなたの名前と家の場所を教えて欲しいな」
二人きりになると、少女は足をぱたぱたとばたつかせながらユキについて聞いた。
「……名前はユキと申します。家は、ありません」
「そんなわけないじゃない。嘘ついてるの? こんな状況なのに?」
別にユキは自身がスノーフィリア姫である事以外、嘘をつくつもりは無かった。
現状をありのまま伝えたはずだった。
「早めにいいなよー、何度も言うけれどもあなたもお付の人も無事に帰してあげるから」
「本当にありません……」
しかし、少女にはまるで通じなかった。
従者二人をかかえおり、しかも水神の国屈指の名士であるコンフィ公の別邸へ向かっていた。
そんな一団に何も無いわけがないと考えていたからだ。
「むー、面倒だなー」
だからこそユキの言う事を素直に信じられず、疑いを解かなかった。
それでも何とか聞き出そうと、少女は頬を膨らませつつ椅子から元気よく降りてユキに密着して……。
「私を子供だと思って馬鹿にしてるのー?」
「あっ、何を……!」
そして、ユキが自分自身でも触った事の無い場所を撫でる。
予想だにしなかった行為にユキは、普段では出さないような声を思わず発した後に酷く困惑してしまう。
「やっぱし貴族の女の子って可愛いー。良い匂いもするし、ドキドキしちゃう」
「くぅ……。そ、そんな事、いやあ……」
ユキは手枷のせいで体の自由がきかない。
思い通りに動けない事をいいことに少女は、ユキが特に反応の強かった場所をさわり続ける。
少女は初々しい反応を見て楽しんでおり、頬を赤らめていた。
「ねぇねぇ、はやくいっちゃいなよー」
「うう、わ、わたしはユ、ユキで……、はぅっ、か、帰るべき家なんて……ないのですっ」
少女の甘い行為は、ユキにとってこの上ない拷問だった。
ユキは何とか心を許してはいけないと、下唇をかみ締めながら頑なに少女の問いかけに”正直”に答え続けた。
「ふぅ……、ひょいっと」
「ああっ! それはだめ!」
二人だけの禁じられた時間は、少女の手によって終わりを迎える。
体を悶えさせ、動けないなりにも何とか抵抗を続けたユキだったが、少女はユキの気が緩んだ隙に雪宝石のペンダントを軽々と奪ってしまう。
「ふふー、いう事聞かないお嬢様から没収~っと。るんるん~♪」
ペンダントが甚く気に入ったのか。
自分の椅子に戻ると嬉々揚々とペンダントを自分の首につける。
「いけない! 返して!」
「えっ……、あなた……」
ペンダントを失う事がどういう意味なのかを当然知っていたユキは、何とか取り返そうと少女へ詰め寄ろうとした。
しかし、ユキの姿を再び見た少女の表情が強張った時、ユキは反射的に少女から目を背いてしまう。
「……ねえ、どうして死んだはずのスノーフィリア姫が居るの」
変身はペンダントが無くても出来た。
しかしラプラタ様の錯覚の魔術は、雪宝石のペンダントがあって成立している。
だから、ペンダントを手放せば錯覚の魔術は当然効力を失い、ユキはスノーフィリアである事がばれてしまう。
少女は死亡発表のあった一国の姫君の生きた姿を目の前にし、真顔でユキの方を凝視していた。
「この首飾り、精霊石……? ああ、そういう事……」
そして少女は錯覚の魔術の正体をいともたやすく解読し、ため息をはくような感じで一言そう言った。
「……ちょっと待ってて、絶対に外出ちゃ駄目だよ」
その後、真剣な表情のままユキがこの場から出てはいけない事を強く念押しして、小屋から小走りで出て行ってしまう。
この時、ユキは焦っていた。
ばれてはいけない私の正体がばれてしまった。
もしもこの野盗が、組織トリニティ・アークに通じていたとしたならば……。
私の身は勿論だが、ルリやセーラちゃんも危ない。
そして今の私達の自由は、野盗の手の中……。
「おねえ! おねえ! どうしても見せたいからはやくー!」
「なんですか急に……」
集中力を欠いている頭で何とかこの場をしのぐ術を考えようと必死になっていた時だった。
ユキは今まで聞えなかった少女の声が近づいてくるのに気づく。
もう一人誰か居る、仲間を連れてきたのかな?
まずい、私の正体が多くの人にばれるのはかなりまずい!
何とかしなきゃ、何とかしなきゃ……。
「ほら、お姫様だよ」
焦りを隠せずにいたユキの目の前に少女と、もう一人少女の仲間であろう人を連れてくる。
「あなたは!」
「あら……、あなたは……」
ユキと魔術師の少女が連れてきた人、お互いの目が合った時だった。
二人とも同じ様に目を大きく見開きながら驚愕してしまう。




