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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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59. 跡地にあったもの

 数日間の船旅を終えたユキら一行は、港に到着すると一切休まずに馬車の手配をして、過去にユキが使用人として働いていたコンフィ公の別邸を目指す。

 ラプラタが施してくれた錯覚の魔術があるとはいえ、ユキで居ても危険だと判断したルリフィーネは、なるべく大きな街や道は避け、かつ目的地に最も速く到着するようにした。

 その甲斐あってか、予想以上に早く到着する事が出来た。

 しかし……。


「えっ、うそ……。これはいったいどういうことなの?」

 そこにあったのはコンフィ公の所有している館ではなく、焼け落ちたと思われる廃墟だけだった。


「まさか……、組織の手によって焼き討ちにあったの?」

 十分に考えられる可能性ではあった。

 コンフィ公とココを無理矢理連れて行き、証拠隠滅をはかるために館で働いていた人らもろとも燃やしてしまう……。


「そんな! じゃあシトラス三姉妹やハウスキーパーも!」

 ユキはその場で膝を折り、地面に伏してしまう。


「うううっ……、私はまた助けられなかった!」

「ユキ様……」

 結局誰も助けられなかった。

 私は……、私は……っ!

 ユキは自らの無力さがどうしようもなく嫌になってしまい、またココが放った言葉を思い出し、体を震わせて泣き出してしまう。

 廃墟には痛々しい少女の鳴き声だけがこだましていた……。


「えっ……、なに……」

 そんなユキの悲しみをあざ笑うかのように、お世辞とも言えない程に汚れた人らが、ヘラヘラと怪しげな笑みを見せながらユキ達を囲んでいく。


「恐らくはこの辺りを根城にしている野盗かと思われます」

 コンフィ公爵は水神の国でも有数の名家であり、別邸とはいえそのような貴族が所有していた土地がある場所だ。

 焼け落ちたとはいえ、価値のある貴金属や美術品はあるかもしれない。

 しかもこのあたりは木々が鬱蒼としていて、身を隠すには都合が良い。

 平和な世の中になったとはいえ、大きな都からは離れた場所、そういう輩が居るのは至極当然なのかもしれない。


「セーラさん、相手の戦力がどの程度か解りますか?」

「見える範囲で十人に囲まれている」

「という事は伏兵も……?」

「気配はもう十人程いる」

 じりじりと野盗たちが迫ってくる。

 野盗は笑いながらも各自持っている得物を光らせながらユキ達の恐怖心を煽ってゆく。

 普通の人間だったらその場でただ狼狽するか、座り込み不毛な祈りを捧げることしか出来なかっただろう。


 しかし、この三人は違っていた。

 ルリフィーネとセーラの慌てず、いかなる方向からの攻撃も対処出来る様に互いの背中を預けながら、冷静沈着に敵の戦力を分析する。

 ユキは泣きじゃくった瞳を雑に擦りながらもすぐさま立ち上がると、ルリフィーネの傍へ寄って雪宝石のついたペンダントをぎゅっと握り締めながら、最悪の場合に備えていつでも変身出来るように意識を集中していた。

 有事の際、即座に動けるようになったのは今まで数々の苦境を乗り越えた賜物だろう。


「囲まれている……ですか。解りました」

 相手の人数を把握したルリフィーネは、目線でセーラへ合図を送った後そして……。


「必殺! 護風蹂雨!」

 その場で大きくスカートを軽くたくし上げた後に跳躍し、自身の足を大きく振るい空中を勢いよく蹴ると、蹴った時に巻き起こした風がたちまち成長し巨大な嵐となる。


 最初、野盗は空打った足蹴りに対して嘲笑を送った。

 だが嵐は無慈悲かつ無造作に木々をなぎ払い、炭屑になっていた館の残骸を巻き上げ、範囲こそは小規模だがユキ達を捕らえようとする不届き者を飲み込んでいく。

 それと同時に野党達の笑顔は、瞬く間に悲痛な叫びに変わった。


「隠れていた人も含めて全員倒れた。もう気配は無い」

 そして嵐がおさまって風がやむころには、舞い散って乱雑に地面へ落ちた木の葉のように、気を失った野盗が力なくユキ達の周りに横たわる。


「ルリ、相変わらず凄いね……」

 たった一回蹴っただけなのに。

 これだけの人数を倒せるなんて……。

 やっぱりルリは凄いや。


「ありがとうございますユキ様。さあ、賊は全員片付けまし……」

 ユキは、ルリフィーネの一蹴に感動しながら歩み寄っていく。

 笑顔のルリフィーネはたくし上げていたスカートをもとに戻した後、ずれたカチューシャを整えてユキの方へと行こうとした時だった。


「ルリ!」

 一瞬、ルリフィーネの背後が光った時。

 ルリフィーネはその場で気を失い、ユキにもたれかかるように倒れてしまう。


「セーラちゃん!」

 ユキが血相を変えてルリフィーネを受け止めようとした時、隣に居たセーラも同じ様に倒れてしまう。

 二人が一瞬のうちに倒されてしまったユキは、倒れたルリフィーネを目の当たりにして酷く困惑してしまう。


「あーあ、そろそろ終わっていると思って来たら、全員やられてるのー。でもお付の二人は魔術がさっぱりみたいで助かったよー。だって一発ですんだからね」

 そんな最中、木陰から黒色の長いマントを羽織った、妙に幼い印象の強い魔術師の少女が呆れ顔で現れる。


「ま、魔術……?」

「じゃあいこっか。貴族のお嬢様」

 確かにルリは魔術の適正も心得も無い。

 それであったとしてもルリは強い。

 誰にも負けないはず。

 魔術で不意打ちを受けたとしても、たった一撃で倒されるなんてありえない……。


 しかも、セーラちゃんも同じ様にやられてしまった。

 この子、何者なの?


 ……ううん、今は考えている場合じゃない。

 ルリとセーラちゃんが倒れちゃったから、私が戦うしかない。

 私が二人を守るしかない!


「解放する白雪姫の――」

 ユキは変身しようと、解放の言葉を口に出そうとする。

 しかし……。


「お、おやめください……」

「ほえー、まだ動けるんだ。すごい頑丈な体だねー」

 意識を取り戻したルリフィーネは、よろめく体のままユキの腕を強く握って変身を止めようとする。


「どうして? ここでやられちゃったら何されるか解らないよ。だったら私の力で……」

「いけません……」

 その理由を問いかけるも、ルリフィーネは質問には答えずただユキの変身を拒み続ける。

 この時、ユキにはルリフィーネが何故変身を止めようとするかが解らなかった。


 野盗に捕まれば、酷い目にあわされるかもしれない。

 私が変身をして召喚術を使えば……。

 今まで人ならざる者を退けてきた私の力を使えば……。

 ルリフィーネやセーラちゃんをたった一撃で倒したあの子の魔術は怖いけれど、きっと何となるはずなのに。


「……解ったよルリ。ルリには何か考えがあるんだね」

 けれども、何の考えや理由も無く止めるはずがない。

 何か、私の感づいていない事があるのかもしれない。

 今は……、ルリを信じよう。


 そう思いながら、ユキは変身する事をやめて苦しそうなルリフィーネの手をぎゅっと握った。

 ルリフィーネはユキが自身の意見を聞いてくれた事に安堵したのか、再び気を失ってしまう。


「んー、一緒に来てくれるんだよね?」

「うん。その代わりこの二人にはこれ以上手を出さないで」

「んーんー、別に変な事もしないし。ちょっとお話したいだけ」

 野盗なのに話をするだけ?

 私達を安堵させてから絶望させるための常套句でも言っているの?

 そう思いながらも、ユキは抵抗する意志が無い事を伝える。

 するとルリフィーネが倒した者以外の別の野盗が木陰から次々と現れ、ユキら三人の手に金属の錠をはめると、予め用意していたであろう馬車へと強引に乗せられてしまった。

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