58. 悲しみの連鎖を断ち切る者達
船上の、客室にて。
「ねえルリ、組織について詳しく教えて欲しいの」
ユキは今まで聞いても答えてくれなかった組織こと秘密結社トリニティ・アークについて、ルリフィーネへ改めて聞く。
「ユキ様……」
「この船は船長と船員が数人、そして私達だけしかいない。ここなら誰にも聞かれていないよ」
風精の国へ向かう道中の私は、あまりにも非力で無知だった。
けれども今は昔と何もかもが違う。
変身だって自在に出来るし、組織だって何をしている所か解る。
そしてその組織が自分とどう関わっているかも知っている。
だからこそ相手のこともっと知りたい。
「……解りました。お教えしましょう」
ユキの強い意思を感じとったルリフィーネは少しの間だけ目を閉じて考えた後に、今まで頑なに語ることを拒んできた、組織についての話を始める。
「秘密結社トリニティ・アーク、我々が組織と読んでいる非合法ギルドは裏社会を牛耳っており、その強大な勢力は表社会にも影響を及ぼす程なのです」
ラプラタ様の地位をもってしても、御しえない程の巨大で絶対的な存在。
とてつもなく大きく、またとんでもなく危ない組織を相手をした事を再確認させられてしまったユキは、気晴らしに窓の外の水平線を見る程の余裕すらも無かった。
「ユキ様も察しているとはお思いですが、国王陛下を襲い、コンフィ公爵やアレフィ殿にあの仕打ちをし、審問官絡みの出来事や、御用商人の件。全ては組織が仕組んだモノです」
「やっぱりそうだよね……」
そしてユキの予想通り、今まで自分の周りで起こった不幸な出来事の全てが組織の手で引き起こされてきたと告げられる。
「でもどうして? どうしてそんな事するの?」
これだけの事をし続けているには、絶対に理由がある。
それは一体……?
「何故そうするかまでは解りません。申し訳ございません」
流石のルリフィーネもそこまでは本当に解っていないらしく、ただただ頭を下げてユキへ詫びた。
「ユキ様の婚約パーティの時、事前に組織の動きを掴んだ私と国王陛下は、コンフィ公爵の館で匿ってくれるよう手配し、ユキ様だけはお守りするよう命じられたのです」
そしてユキがあの修羅場でどうして行き抜くことが出来たのか。
何故都合よく伴侶になるはずだった貴族の別邸に使用人として匿われたのか。
その時、スノーフィリアと言う本名を名乗る事を禁じた理由。
今まで推測でしかなかったユキの考えが、確信へと変わっていく。
どうしてそんな組織が私の何もかもを奪おうするの?
組織と私に何かあるの?
「そう……」
ユキは頭を抱えて、大きくため息をついた。
「組織の力は水神の国の中枢にまで入り込んでおり、高官の大半はどんな形であれ組織に関わりがあると思ってよいでしょう」
「ルリ、どうして組織はそこまで強大になってしまったのかな?」
次にユキは、何故組織がここまでの規模になったかを聞く。
「かつて、この世界は大規模な戦争がありました。組織はその戦争で莫大な富を築いた傭兵団だったとも言われておりますが、確証はございません」
「うーん。その傭兵団が何か解ったら、所属している人とか解るかなって思ったけれども……」
「戦争でそれだけの活躍をした傭兵団はかず数える程しかないのですが、それ以上の事は解らないのです。組織の人事に関する内容はかなり厳重に秘匿されており、相当位の高い幹部でもない限りは把握していないのです」
しかし、組織のルーツも解らなかった。
結局ユキは自身の推測に間違いはなかったという事くらいしか確かめられなかった。
「なので、私が調べられたのはここまでが限界です。ラプラタ様と情報の共有はしたので、あのお方もまた私と同じ事しか解らないでしょう。申し訳ございません」
ユキが知りたかった事を答えられなかったルリフィーネは、曇った表情のままユキへと謝罪する。
「ううん、いろいろ調べてくれてありがとう」
しかしユキは、そんな心遣いが申し訳なくなってしまい、首を大きく横へ振りながらルリフィーネを労った。
「ねえルリ」
「どうしましたか? ユキ様」
「どうして地下水路でココに出会ったと思う?」
「大変申し上げにくいのですが、ユキ様の予想通りかと思われます。ココさんはコンフィ公爵と共に組織へと連れて行かれてしまい、そこで何かをされてしまったのでしょう。あの場所に居た事自体は偶然かと思いますが……」
「そうだよね……」
私の予想通り……。
そうなれば、ココは組織に連れて行かれしまい、そこでホタルお姉さまやセーラちゃんのような事をされた可能性は高い。
結局、ココを守る事が出来なかった。
地下水路でああやって言われるのは……、当然だよね。
「水神の国に着いたら、休まずすぐにコンフィ公の別邸へ行こう」
「はい、かしこまりました」
だから、もうココみたいな人たちを増やしちゃいけない。
私の手で助けなければいけない。
ユキはルリフィーネの優しげな笑顔を見ながら、暗くなりそうな気持ちを奮い立たせた。




