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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Third Part. 修道女から魔術師へ
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57. さようならは再会の約束

 次の日の朝。

 各々は片付けと再び始まる長旅の準備を終え、城のエントランスに集合する。


「準備出来ました。今までお世話になりました」

「ええ、あなた達も元気でね」

 三人を代表し、ユキが挨拶を済ませる。

 ラプラタは笑顔で彼女らを見送ったが、どこか名残惜しそうだった。


「ユキちゃん。最後に一言いいかしら?」

「はい」

「あなたの力は他の誰も持っていない、あなただけの力よ。そしてその力は、周りも勿論あなた自身すら変えてしまう程の影響力があるの」

 ユキはこの時、ラプラタの言っている事がまるで理解出来なかった。

 召喚術は魔術の中でも高等技術だという事は知っていたけれども、そこまで言う程なのかな?

 変身だって、確かに見た目は変わるけれども。

 何か他にあるのかな?

 そんな考えが先行し、ラプラタの言葉の真意を理解出来ずにいた時、優しいぬくもりがユキの全身に伝わっていく。



「自分を見失わないようにね。あなたは一人じゃないから」

「……はい」

 やっぱりこの人は私が知らない、何かを知っているのだろう。

 でも、聞いても答えを言ってくれないかもしれない。

 そう思ったユキは、まるで母親の様に抱きしめてくれるラプラタから離れ、もう一度頭を下げると風精の国の城の出口へと向かって行った。



 こうして一行は城を出て、街を抜けていき、手配してくれた船が止まっている港へ行く。

 その道中にて。


「なあユキ」

「うん?」

「一つ頼みがあるんだ。いいかい?」

 突然ホタルが歩みを止めると、何かを決意したような表情のままユキを引き止める。

 今までどんな時も明るく陽気にしていただけに、真剣な顔を見たユキも思わず同じ様な顔をしてしまう。


「私をこのままラプラタ様のところに残しておいて欲しい」

「え、ホタルお姉さま。どうして?」

 ホタルが意を決してユキへ伝えた言葉は、あまりにも意外だった。

 修道院を出て行く時に着いていくと突然宣言され、風精の国へ共に渡り、おそらくはこのまま一緒に苦楽を共にし続ける。

 ユキにとってホタルは、頼もしいお姉さまであり続けると信じて疑わなかったからだ。


「これからユキの旅はどんどん危険になっていくだろう? 私はユキのような特別な力も無いし、セーラやルリさんみたいに強くないから、必ず三人の足を引っ張ってしまうと思うんだ」

「そんな事はないよ! ホタルお姉さまだって――」

「いんや、今の私は足手まといだ。だから私はここで、魔術の勉強をしてみようと思ってる。ラプラタ様が弟子にでもしてくれれば捗るんだけども、まあ無理だろう。まずは風精の国の兵団へ入団して、その上でかなー」

 私の力になるために魔術を覚えようとしてくれている。

 そんなホタルの決断を、強くは否定出来なかった。


 でも、それでも。

 今まで一緒に居てくれた、ルリ以外に出来た私の大切な人が離れるのは寂しいよ。


「そんな悲しい顔をするな妹よ! 勉強が終わって、戦力になると思ったら必ず戻ってくるからさ」

「うん……」

 ユキは心中の寂しさを隠しきれず、大きな瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。


「いいかユキ。私のさよならはな、お別れの言葉じゃないんだ」

「どういう事?」

「さよならって言うのは、また会うことを約束する言葉なんだ。まぁ、親父の仲間だった人の受け売りだけどね」

 そんなユキの悲しむ気持ちを察したホタルは、敢えて笑顔で別れの言葉とその意味を告げる。

 ユキと違ってどこか清々しさを感じるのは、その仲間だった人の言葉を信じているからなのかもしれない。


「だから、敢えて言うよ。ユキ、さよならだ」

「うん。解ったさよならだね、ホタルお姉さま頑張ってね」

「はいよ! 次に会う時は元修道女のランピリダエではなく、大魔術師ランピリダエかな? まあ楽しみに待っててな!」

 もう二度と会えないわけではない。

 ホタルお姉さまならいつか戻って来てくれる。

 ホタルの顔を見たユキはそう確信して一時の別れを受け入れると、手を振りながら立ち止まるホタルから去っていく。


「本当に良かったのかしら? 付いて行かなくて」

「ユキに言った事は本心さ。力をつけたらちゃんと戻る。今だってルリさんやセーラが居るから大丈夫だろうとは思うけどね」

 ユキの姿が見えなくなった頃、ホタルの後ろから狙ったかのようにラプラタが現れる。


「じゃあ、決心出来たのね」

「まあな。ラプラタ様の実験に付き合うよ」

 ホタルはある提案を持ちかけられていた。

 それは、自身に魔術による肉体の強化を施すという内容だった。

 ただしこの肉体強化は前例が無い、どんな副作用が待っているかも解らない。

 最悪命を落としてしまうかもしれない。


「ありがとう。本番の前にどうしても最終調整しておきたかったの」

「感謝しなきゃいけないのはこっちさ。我慢さえしていれば強い力が手に入るなんてチャンス、中々無いからな」

 でも、今から魔術の勉強を始めたら何年かかるか解らない。

 そもそも、ホタルに魔術の適正があるかどうかも解らない。

 ユキの身にかかる災難は日に日に強く激しくなっており、時間の猶予はそこまで無い。

 だからホタルは、手っ取り早く強くなれる方法を選んだのだ。

 たとえそれが、どんなリスキーな事だったとしても。


「では早速戻って始めましょう。欺瞞と忘却のクロニクルを」

 ホタルはラプラタと共に風精の国の城へと戻っていく。

 力を手に入れて必ず生還し、ユキのところへ帰るという強い意思を胸に秘めながら……。



 その頃、ユキ達は港に到着して手配されていた船へ乗る。

 船はユキ達が乗った事を確認すると出航し、水神の国へと運んで行く。

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