57. さようならは再会の約束
次の日の朝。
各々は片付けと再び始まる長旅の準備を終え、城のエントランスに集合する。
「準備出来ました。今までお世話になりました」
「ええ、あなた達も元気でね」
三人を代表し、ユキが挨拶を済ませる。
ラプラタは笑顔で彼女らを見送ったが、どこか名残惜しそうだった。
「ユキちゃん。最後に一言いいかしら?」
「はい」
「あなたの力は他の誰も持っていない、あなただけの力よ。そしてその力は、周りも勿論あなた自身すら変えてしまう程の影響力があるの」
ユキはこの時、ラプラタの言っている事がまるで理解出来なかった。
召喚術は魔術の中でも高等技術だという事は知っていたけれども、そこまで言う程なのかな?
変身だって、確かに見た目は変わるけれども。
何か他にあるのかな?
そんな考えが先行し、ラプラタの言葉の真意を理解出来ずにいた時、優しいぬくもりがユキの全身に伝わっていく。
「自分を見失わないようにね。あなたは一人じゃないから」
「……はい」
やっぱりこの人は私が知らない、何かを知っているのだろう。
でも、聞いても答えを言ってくれないかもしれない。
そう思ったユキは、まるで母親の様に抱きしめてくれるラプラタから離れ、もう一度頭を下げると風精の国の城の出口へと向かって行った。
こうして一行は城を出て、街を抜けていき、手配してくれた船が止まっている港へ行く。
その道中にて。
「なあユキ」
「うん?」
「一つ頼みがあるんだ。いいかい?」
突然ホタルが歩みを止めると、何かを決意したような表情のままユキを引き止める。
今までどんな時も明るく陽気にしていただけに、真剣な顔を見たユキも思わず同じ様な顔をしてしまう。
「私をこのままラプラタ様のところに残しておいて欲しい」
「え、ホタルお姉さま。どうして?」
ホタルが意を決してユキへ伝えた言葉は、あまりにも意外だった。
修道院を出て行く時に着いていくと突然宣言され、風精の国へ共に渡り、おそらくはこのまま一緒に苦楽を共にし続ける。
ユキにとってホタルは、頼もしいお姉さまであり続けると信じて疑わなかったからだ。
「これからユキの旅はどんどん危険になっていくだろう? 私はユキのような特別な力も無いし、セーラやルリさんみたいに強くないから、必ず三人の足を引っ張ってしまうと思うんだ」
「そんな事はないよ! ホタルお姉さまだって――」
「いんや、今の私は足手まといだ。だから私はここで、魔術の勉強をしてみようと思ってる。ラプラタ様が弟子にでもしてくれれば捗るんだけども、まあ無理だろう。まずは風精の国の兵団へ入団して、その上でかなー」
私の力になるために魔術を覚えようとしてくれている。
そんなホタルの決断を、強くは否定出来なかった。
でも、それでも。
今まで一緒に居てくれた、ルリ以外に出来た私の大切な人が離れるのは寂しいよ。
「そんな悲しい顔をするな妹よ! 勉強が終わって、戦力になると思ったら必ず戻ってくるからさ」
「うん……」
ユキは心中の寂しさを隠しきれず、大きな瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
「いいかユキ。私のさよならはな、お別れの言葉じゃないんだ」
「どういう事?」
「さよならって言うのは、また会うことを約束する言葉なんだ。まぁ、親父の仲間だった人の受け売りだけどね」
そんなユキの悲しむ気持ちを察したホタルは、敢えて笑顔で別れの言葉とその意味を告げる。
ユキと違ってどこか清々しさを感じるのは、その仲間だった人の言葉を信じているからなのかもしれない。
「だから、敢えて言うよ。ユキ、さよならだ」
「うん。解ったさよならだね、ホタルお姉さま頑張ってね」
「はいよ! 次に会う時は元修道女のランピリダエではなく、大魔術師ランピリダエかな? まあ楽しみに待っててな!」
もう二度と会えないわけではない。
ホタルお姉さまならいつか戻って来てくれる。
ホタルの顔を見たユキはそう確信して一時の別れを受け入れると、手を振りながら立ち止まるホタルから去っていく。
「本当に良かったのかしら? 付いて行かなくて」
「ユキに言った事は本心さ。力をつけたらちゃんと戻る。今だってルリさんやセーラが居るから大丈夫だろうとは思うけどね」
ユキの姿が見えなくなった頃、ホタルの後ろから狙ったかのようにラプラタが現れる。
「じゃあ、決心出来たのね」
「まあな。ラプラタ様の実験に付き合うよ」
ホタルはある提案を持ちかけられていた。
それは、自身に魔術による肉体の強化を施すという内容だった。
ただしこの肉体強化は前例が無い、どんな副作用が待っているかも解らない。
最悪命を落としてしまうかもしれない。
「ありがとう。本番の前にどうしても最終調整しておきたかったの」
「感謝しなきゃいけないのはこっちさ。我慢さえしていれば強い力が手に入るなんてチャンス、中々無いからな」
でも、今から魔術の勉強を始めたら何年かかるか解らない。
そもそも、ホタルに魔術の適正があるかどうかも解らない。
ユキの身にかかる災難は日に日に強く激しくなっており、時間の猶予はそこまで無い。
だからホタルは、手っ取り早く強くなれる方法を選んだのだ。
たとえそれが、どんなリスキーな事だったとしても。
「では早速戻って始めましょう。欺瞞と忘却のクロニクルを」
ホタルはラプラタと共に風精の国の城へと戻っていく。
力を手に入れて必ず生還し、ユキのところへ帰るという強い意思を胸に秘めながら……。
その頃、ユキ達は港に到着して手配されていた船へ乗る。
船はユキ達が乗った事を確認すると出航し、水神の国へと運んで行く。




