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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Third Part. 修道女から魔術師へ
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56. 救い救われて

 その場所は、大きな広間に風精の国の建国者であり初代国王である男性の石像が置いてある場所だった。

 待ち合わせの場所として使われているせいか、日も落ちかけているのにも関わらず人の数は多く、年齢も性別も格好も様々だ。


「この世界は、危機的な大洪水に見舞われてしまい、それまであった文明の多くは破壊されて助かった人もごく僅かでした」

 ルリフィーネは石像の方に手を向けながら、この世界の歴史について語りだす。


「残された人々は各々が別の方角を進み、そして定着して国の礎を作ったといわれております」

 しかしそれも、ユキの頭の中には入ってこず、ユキは暗い表情を変えないままだった。


「風精の国は、元々建築士だったブリーズティアラ一世の呼びかけで建てられ、そして興されたといわれております。建築家としてだけではなく、人心を纏める国王としての手腕も備えていた稀有な存在だったのです」

 国王……、お父様……。

 そう、お父様もお母様ももう居ない。

 大好きなココだって離れていってしまった。


「実は、水神の国のアクアクラウン一族の遠縁という説もあります。血族である面も踏まえ、資源も豊富で生活しやすい風土である事から、戦争とか関係なく大国になるのは必然だったのかもしれませんね」

 私は元々水神の国の姫として、いろんなモノを持っていた。

 しかしあの日の夜で私は家族を失い、姫としての地位と名前も失い……。

 そしてユキになってから得られたものも失っていく。


 もう残されたモノは少なく、それらもやがては私の手から離れていくのかな。

 やがて全てを失って、この国の過去になっちゃって。

 国、水神の国……。

 はっ、そうだ!


「ねえルリ!」

「はい、何でしょう?」

「あのね、私……、もう一度水神の国へ戻ってみようと思うの」

 ユキはルリフィーネの言葉からある事に気づき、そして自身の故郷へ戻る事を提案する。

 どんな楽しい事やおいしい物を食べても変わらなかった暗い表情は、強い意思と決意に満ちていた。


「何故そう思われたのでしょうか?」

「昔、コンフィ公の使用人をしていたのは知ってるよね?」

「はい。存じ上げております」

「でもコンフィ公がああなってしまったから、残された使用人が気になって……」

 残された使用人。

 私にとってはココ以外、良い思い出はない。

 でも、だからといって放っておくわけにはいかない。

 館の主であるコンフィ公がああなってしまったから、そこで働く人達も危ないかもしれない。

 考えすぎならいいけれども、もしも何かあって放っておけば、またココのような人を増やしてしまうかもしれないのだから。


「でもさ、ここの仕事はどうするんだ?」

「ラプラタ様に相談してみようと思う」

「ふーん……」

 ホタルには何か思うところがあるらしく、ユキの提案に対してあまり乗り気ではない返事をする。

 ユキはそんなホタルの様子が気にはなったが、口には出さなかった。


「解りました。それでは早速向かいましょう。許してくださるかは解りませんが……」

「うん」

 こうして一行の風精の国観光は終わり、ユキの提案を伝えるべくラプラタの執務室へと向かった。


 そして日がすっかり落ちて夜空の星が輝きだした頃、ラプラタの執務室へ到着する。

 部屋に入ると、いつもなら笑顔で出迎えてくれるラプラタだったが、今回は違っていた。


「あら、ちょうどあなた達を呼ぼうとしていたの。都合がいいわね」

 なにやら不穏な面持ちのままでこちらを見ながら話しかけつつ、机の上に積まれた書類の束を揃えると、魔術であっという間に燃やしてしまう。


「ユキちゃん、今この時をもってあなたの魔術師の任を解くわ。これはもう決定事項よ」

 あまりに突然で唐突すぎる出来事だった。

 しかしそれはラプラタの手から離れるという意味でもあり、また自身が自由になった事でもあり、ユキはその事を理解したため驚きはしたが落ち込むことはしなかった。


「やはり、御用商人ですか?」

 ユキが急遽魔術師を解任されてしまった理由をルリフィーネは問いかける。

「ルリちゃんの思っている通りよ。所謂、大人の事情って奴ね」

 ルリフィーネの言ったとおり、ユキと御用商人の間であった出来事が原因であることをラプラタは伝えた。


「はぁ、やはりこの世界でもこういうしがらみをあるのね……、嫌になっちゃうわ」

 普段は明るく、人当たりもいい。

 ましてや愚痴なんて言っている場面を見たことが無い。

 そんな人がこんな態度をとるなんて。


「でもこれはこれで、一国の宮廷魔術師長よりも御用商人と組織の力の方が強いって事の、証明でもあるわね」

 ラプラタは立ち上がり、ユキの方へとゆっくりと歩み寄ると、ユキの頭を何度か撫でながら申し訳無さそうな表情をして――。


「ユキちゃん、守れなくてごめんなさい」

 ユキに向かって、頭を下げて謝った。


「そんな、謝らないで下さい。今までだって十分良くしてくれましたし、変身とか、錯覚の魔術とか、本当にラプラタ様が居なかったら出来ない事ばっかりでした」

 期間はそこまで長くは無かった。

 それでもラプラタ様がしてくれた事は、他では代えがきかないもの。


「ラプラタ様、今まで本当にありがとうございました」

 ユキは心からの感謝の意を示すべく、頭を深々と下げて自身の悲しみを堪えながらも笑顔を見せた。


「そう言ってくれると嬉しいわ。それで、あなたはこれからどうするの?」

「水神の国に戻ります。コンフィ公の館で働いていた他の使用人達が気になるので……」

「解ったわ。じゃあ最後に水神の国行きの船を手配するわ」

「ありがとうございます」

 最後の最後まで本当に良くしてくれた。

 もしも、私の近況が落ち着いたのなら……。

 ラプラタ様にもう一度会って、今度はこちらが何か恩返しできるような事をしたいな。


「私も自分の役目を終えたら必ずあなたの力になるから、だからどんな形であれ無事で生きてて。これは宮廷魔術師長としてではなく、私個人の願いだから」

「はい……」

 今までユキをじっと見ていたラプラタは、ユキをぎゅっと強く抱きしめながら声を震わせながら言う。

 出会った時も抱きつかれたが、あの時とは全然違う感覚がした。


「それじゃあ、明日の朝には出れるよう荷物をまとめておきなさい」

「はい」

「解りました」

 こうして魔術師としてのユキは、唐突だが本人の望む形で終わりを迎えたのだった。

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